東京都23区における自治体の言語サービスの実態

はじめに

日本大学文理学部国文学科教授 田中ゆかり

日本の“言語景観”

身の回りに外国語が増えてきたと感じませんか?

英語やアルファベットはもちろん、ハングル、少し見慣れない形をした漢字―繁体字や簡体字。何と読むのかさえ分からないようなどこの国の言葉とも知れぬ文字、などなど。近年日本国内のさまざまな表示には、さまざまな言語、文字が用いられています。耳に聞こえてくる言語もさまざまです。

近年、社会情勢の変化に伴い、日本の“言語景観”が変わりつつあります。
日本国内に居住する日本語を第一言語としない人々や観光やビジネスなどを目的とする短期滞在者の増加といった社会の変化や、外国人の観光客の増加を期待する政策などによってわたしたちの目や耳に届く“言語景観”が変化してきているのです。

「実質言語」と「イメージ言語」

実質を重視した観点から使用される言語(実質言語)もあれば、ファッション性やある地域性を喚起させるために用いる「イメージ言語」もあります。たとえば、レストランやカフェ、美容院や洋品店・雑貨屋などは特定のイメージを喚起するために、特定の外国語や文字などを用いることがしばしばあります。
この「実質言語」と「イメージ言語」が混在して成り立っているのがわたしたちが目にしたり、耳にしたりする“言語景観”です。どの言語がどのように用いられているのか、また用いられていないのか、そのような観点から、現代の日本の姿が浮かび上がってくるのです。

調査対象には、「○○語」のようないわゆる「言語」だけではなく、点字や大きな文字、手話も含んでいます。また、阪神淡路大震災をきっかけとして、在住外国人に対する情報伝達手段として注目を集めている「やさしい日本語」に対する取り組みなども“言語サービス”として重要なポイントとして調査対象としました。「言語」によらない「ピクトグラム」も、情報伝達という観点からは、わたしたちの日常生活において大きな機能を果たしており、これも調査対象としています。

「日本語学習演習2」の流れ

2007年度の日本大学文理学部国文学科の学科専門科目「日本語学基礎演習2(担当:田中ゆかり)」では、“言語景観”調査の一環として、自治体が行なう言語サービスに焦点を絞り、23区における実態調査を「HP」「刊行物」「掲示物」「言語サービス」などのいくつかの観点から行ないました。

各自治体の言語サービスには共通点も多く観察されますが、区によってさまざまな違いも観察されます。それは、区の性質や、その性質によって居住したり訪れたりする外国人の数やバラエティーが異なるからです。また、区によって言語サービスを実施するに際して、方針や重視する観点にも違いがあり、これも区による言語サービスの違いとして観察されます。

「日本語学基礎演習2」は、国文学科の2年生を対象とした科目で、社会言語学的な言語調査の基礎を学ぶための科目です。調査の企画と準備、実際の調査、データの整理、報告書の書き方などを学ぶことがこの科目の狙いです。23人が履修登録をし、19人がレポートを提出しました。このHPは、「日本語学基礎演習2」の授業成果の一部です。履修者は、自分の担当区について、概況ならびに臨地調査を行ない、それぞれ報告を行なっています。拙い報告ではありますが、ぜひご覧ください。

調査に際して、各区の担当者の方たちには大変お世話になりました。
ご協力に改めて感謝申し上げます。

別途刊行している冊子報告書には、少し詳しいレポートを掲載しています。関心のある方は、国文学科までご連絡ください。「日本語学基礎演習2」では、“言語景観”に関する調査を継続しています。各年度のテーマは次の通りです。

□2005年度 東京圏デパートの多言語状況
□2006年度 山手線の多言語状況

各区の概況調査について

言語サービス状況の調査にあたり、臨地調査及び、関係官公庁発行の資料、各区ホームページ、ウィキペディアなどから得た情報を元に各区の概況についてまとめました。右欄「各区の概況調査について」を参照しながら、各テーマの報告ページをご覧下さい。

調査用マニュアル(PDF)について

自治体が行なう言語サービスの調査にあたり、調査の方法について 「マニュアルとチェックシート」を作成しました。調査の基本を学ぶこともこの科目の履修の目的です。調査の際に、何をどのようにチェックし、把握するかは非常に重要なことです。このサイトがどのような経緯でできあがったものか、「マニュアルとチェックシート」をPDFにてご用意致しましたので、ぜひご覧下さい。

調査用マニュアル(PDF)