はじめに
田中ゆかり
このサイトは、2021年度後期開講のフィールドワーク2の授業報告です。フィールドワークは国文学科の専門科目のひとつで2年次以上の配当の選択科目です。この科目は、国文学科の2本柱のひとつ日本語学のうち、フィールドワークに基づく現代日本語学のスキルを学ぶことを目的としています。
フィールドワークの醍醐味といえば、街に出て行う隣地調査にあるわけですが、昨年度に引き続きCOVID-19感染症拡大に伴い、一斉に出かける隣地調査はおろか、大学の図書館やパソコン教室におけるグループワークができなくなりました。そうはいっても、授業を通じて、言語景観や言語サービスについて学ぶことに意義はあります。また、座学イメージの強い国文学科なので、街に出て学びの機会を得るフィールドワークは貴重な機会といえます。
どうしたらこの授業を言語景観と言語サービスをテーマとしたフィールドワークらしい授業にすることができるのか、あれこれ考えました。その末に、出した結論が「一斉に出かけることはできなくとも、受講者個別の身近なところへの隣地調査とWeb上の言語サービスを組み合わせた調査とその報告をこの科目のテーマとしよう」というものです。
科目運営に際しては、オンライン環境において利用可能な電子資料や文献、関連データの紹介と、その活用方法の紹介と解説にも力を入れました。
リアルフィールドワークには行けないということをシラバスでも案内したので、履修者数が少なかったのですが、逆に履修者一人に十分な時間をとることができました。調査対象の選定、調査設計、収集データの整理と分析に対するフィードバックもほとんど授業時間内に行うことができ、さらには発表も二段構えで行うことができました。同時双方向型で授業を行ったため、LMSを通じ作業内容を常に共有でき、発表については全員参加の同時双方向型授業で行ったため、画面越しではありますがお互いの顔を見ながら口頭でフィードバックしあうこともできました。
なお、この授業には、日本語学を専門とする大学院博士前期課程1年の峰島大貴さんにTAとして参加してもらいました。峰島さんには、各回のLMSコンテンツの事前確認、国文学科の先輩としての受講者への電子資料の使い方やパワーポイントや図表作成についてのちょっとしたコツの伝授や、教員とは別の視点から捉えた各回発表へのフィードバックなどを担当してもらいました。
拙いところもあるとは思いますが、受講者一人一人の個性もうかがえる興味高い結果が示されていると思います。学部学生たちが自分たちなりに言語景観・言語サービス研究に取り組んだ試みとして、本サイトをご覧ください。
【授業の方法】
- 同時双方向型授業。
- 発表はパワーポイントを画面共有しながら行う。
- 最終課題は、発表時フィードバックを受けて発展させたノート付きパワーポイント。最終課題は、Web版報告書としてまとめる。
【授業のねらい・到達目標】
わたしたちの身の回りには、さまざまな言語を使用した「看板」「案内」「広告」などであふれている。そこで使用されている言語を通して、日本語社会におけるそれぞれの言語の「意義」「価値」を知ることができる。また、情報発信に際して、どのような言語変種を選択するのかによって、発信者の配慮の水準がうかがえる。ある言語社会における言語選択とその背景を読み解き、言語選択の観点からよりよい世の中を考える研究を、社会言語学の1分野である言語景観・言語サービス研究と呼ぶ。
この科目では、言語景観・言語サービス研究を通して日本語社会をとりまく言語と言語変種について考える視点を獲得することを目指す。同時に言語研究の企画・実施、データの整理ならびにデータに基づく分析と報告までの一通りを学ぶことも目的とする。
なお、予定していた銀座界隈の実地調査とそれに基づく報告・分析は、感染症拡大抑制の観点から実施困難である。よって、Web上の言語景観・言語サービスならびにWeb調査に基づく言語景観・言語サービス調査とそれに基づく報告・分析をもって実地調査とその分析・報告に代える。調査・分析・報告はグループワークではなく、個人で行う。
【授業計画】
- 09/22 1 ガイダンス 発表日調整、LMS学習環境整備と環境確認
講義:言語景観・言語サービス研究とは? - 09/29 2 講義:Web上の/Web調査に基づく言語景観・言語サービス研究とは?
- 10/06 3 文理の電子資料の使い方(講義)と調査対象の検討(実習)
- 10/13 4 調査対象の検討と調整
- 10/20 5 調査発表についての解説
課題:発表についての解説に従い調査を実施し、整理する - 10/27 6 発表準備、発表についての質問・相談
- 11/03 7 発表1とフィードバック① 2人
- 11/10 8 発表1とフィードバック② 2人
- 11/17 9 発表1とフィードバック③ 1人・予備
- 11/24 10 発表2とフィードバック① 1人
- 12/01 11 発表2とフィードバック② 2人
- 12/08 12 発表2とフィードバック③ 1人
- 12/15 13 発表2とフィードバック④ 1人
- 12/22 14 発表全体へのフィードバック 最終課題作成解説
- 01/19 15 最終課題の提出 全体のふりかえり
【教科書】
- 教科書は使用しない。
【参考文献・資料】
- 井上史雄(2001)『日本語は生き残れるか』東京 : PHP研究所
- 河原俊昭編著(2004)『自治体の言語サービス―多言語社会への扉をひらく―』 春風社
- 真田信治・庄司博史(編)(2005)『事典 日本の多言語社会』岩波書店
- 庄司博史・P・バックハウス・F・クルマス編著(2009)『日本の言語景観』三元社
- 多言語化現象研究会(2013)『多言語社会日本―その現状と課題―』三元社
- 田中ゆかり(2009)「首都圏の多言語表示―“標準化”の観点から―」『日本語学』28(6) : 10-23
- 田中ゆかり・秋山智美・上倉牧子(2007) 「ネット上の言語景観-東京圏のデパート・自治体・観光サイトから」『月刊言語』 36(7) : 74-83
- 田中ゆかり・上倉牧子・秋山智美・須藤央(2007)「東京圏の言語的多様性―東京圏デパート言語景観調査から―」『社会言語科学』10(1) : 5-17
- 田中ゆかり・早川洋平・冨田悠・林直樹(2012)「街のなりたちと言語景観―東京・秋葉原を事例として―」『言語研究』142,日本言語学会,155-170
- 中井精一・ダニエル=ロング(2011)『世界の言語景観 日本の言語景観―景色のなかのことば―』桂書房
- 正井泰夫(1972) 「新宿の都市言語空間」『東京の生活地図』:152-158 時事通信社
【雑誌特集】
- 『日本語学 特集 多言語社会ニッポン』28(6)明治書院(2009年5月号)
- 『日本語学 特集 経済とことば』34(6)明治書院(2015年5月号)
【参考サイト】
- 一般社団法人 日本旅行業協会
ビジネスに活用できるインバウンドデータ一覧
https://www.jata-net.or.jp/data/inbound/ - 外務省>国・地域
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html - 観光庁
「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news03_000102.html - 地域観光資源の多言語解説整備支援事業
https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kankochi/multilingual-kaisetsu.html - 訪日外国人消費動向調査
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html - 公共交通機関における多言語表記の現状が明らかになりました~交通結節点及びホームページにおける多言語表記の一層の改善に向けて~ 観光庁(2019)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000275.html - 出入国在留管理庁
https://www.moj.go.jp/isa/index.html - 入管政策・統計
https://www.moj.go.jp/isa/policies/index.html - JTB総合研究所 インバウンド訪日外国人動向
https://www.tourism.jp/tourism-database/stats/inbound/ - 総務省統計局
https://www.stat.go.jp/index.html - 東京都オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会ポータルサイト
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/references/ - 文化財の多言語化ハンドブック 文化庁(2019)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/handbook/pdf/r1414823_03.pdf