言語景観からみた東京圏

「街」は、さまざまな顔をもち、さまざまな印象をわたしたちに与える。その印象を構成するものもさまざまある。目に見えるものもあるだろうし、目に見えないものもあるだろう。ここでは、街の印象を構成し、記述する要素のひとつとして、言語景観研究を捉え、「東京圏の街」を見ていく手がかりとしたい。
言語景観研究は、Landry & Bourhis(1997)で示されているように視覚的表示においてどのような言語が選択され明示化されているのか、についてみていくことが中心ではあるが、耳に聞こえてくる言語がどのようなものなのか、という観点に立つアプローチもある(田中他,2007)。
街の印象を形作るもののひとつとして、どのような言語が視覚的にあるいは聴覚的に前景化しているのかを捉えることが、街の印象やなりたちを類型化していく手がかりとなりそうである。
このような立場に立つと、言語景観研究の立場から、街をいくつかのパターンに分類することが可能かもしれない。言語景観による街の類型化という考え方である。さまざまなタイプの街を類型化していくには、そのための指標の確立が期待される。地域間の対照研究や類型化に際しては、そこで用いられる指標が、客観的な調査と分析に耐えるものである必要があるだろう。
言語景観による街の類型化の試みの第一歩として、東京圏を代表する街として、千代田区に位置する秋葉原駅界隈と、中央区に位置する銀座中央通り界隈を取り上げる。

【秋葉原界隈】

JR秋葉原駅界隈を秋葉原界隈と捉える。秋葉原、通称アキバは、電気街としてよく知られるのと同時に、近年ではサブカルチャーの街としても知られる(千代田区編,1960;秋葉原振興会「秋葉原アーカイブス」)。外国人観光客からの人気も高いエリアで(日本政府観光局「訪日外客統計」)、外国人観光客に関連した話題にもこと欠かない(「アキバ「免税の聖地」に」「アキバ再生 外国人頼み」2010年11月20日読売新聞14版記事、「銀座・アキバ「春節特需」中国人観光客の出足好調」2011年02月05月読売新聞4版記事など)。
このようなことから、秋葉原は外国人観光客を目当てとした多言語化が他地域に比べ進んでいることが予測される。加えて、電気街からサブカルの街へ、という街のなりたちが言語景観の重層性として観察される可能性も有する。このような街のなりたちからは、秋葉原の言語景観には多様性と特異性の両面があらわれることが期待される。また、秋葉原タイプといってよさそうなひとつの類型を形成している可能性ももつ街である。

【銀座中央通り界隈】

銀座中央通りの一丁目から八丁目までを銀座中央通り界隈とする。2011年は、この調査対象地とした銀座が脚光を浴びた年でもあった。日本経済新聞社が発表した同年の「日経MJヒット商品番付」において、「有楽町」が西の関脇に選ばれている(2011年12月7日日本経済新聞14版1面)。2011年10月に阪急メンズ・トーキョーとルミネ有楽町店が相次いで開業、「若者ら新たな客層を銀座地区に呼び込みつつある」としている。銀座は古くからオトナの街として栄えてきたものの、バブル経済が崩壊したのち、一時期は、人通りも少なくさびしい街となっていた。しかし、2000年代後半からは中国大陸からの観光客の購買力(「銀座・アキバ「春節特需」中国人観光客の出足好調」2011年02月05月読売新聞4版記事)や、ファストファッション店舗の相次ぐ開店に支えられ、新しい顔を見せるようになってきた中での、今回の若返りといってもいいだろう。このような変化を言語景観の観点から捉えようとする試みである。こちらも、銀座タイプというような類型を形成している可能性の高い街である。