田中ゆかり
このサイトは、2018年度後期開講の基礎演習2の授業報告です。基礎演習は国文学科の専門科目のひとつで2年次配当の選択必修科目です。このクラスは、国文学科の三本柱のひとつ日本語学のうち、現代日本語学の基礎的スキルを学ぶことを目的としました。とくに言語から社会を見通す分野である社会言語学をテーマとしたもので、「言語景観・言語サービス研究入門」と位置付けています。
わたしたちの身の回りには、さまざまな言語を使用した「看板」「案内」「広告」「言語サービス」などであふれています。それらに使用されている言語を通して、日本語社会におけるそれぞれの言語の「意義」「価値」を知ることができます。このクラスでは、言語景観ならびに言語サービス研究を通して具体的な言語研究の企画・実施、分析と報告までの一通りを学ぶことを目的としました。日本語学を学ぶことを通し、現代社会のありようを読み解くことを実感してもらうこともこのクラスのもうひとつの目的です。
なお、調査域は今年度も東京都中央区の銀座(「銀座中央通り」「晴海通り」)界隈としました。銀座界隈は今年度で8年度連続で調査しています。
2018年は、アジア諸国に対するビザ発給条件の緩和や、格安航空会社(LCC)をはじめとした航空路線の拡大などにより、訪日客が増加し、訪日外国人旅行者数が史上初の3000万人突破という景気のよいニュースが年末に報じられました。その一方で、観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態のことを指すことば「オーバーツーリズム」ということばが聞こえるようにもなってきました。民泊の広がり、「爆買い」から「体験」へというようなトレンド変化も顕著で、訪日客の国籍・地域も変化しつつあります。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、各種の表示・掲示類も更新されており、言語景観は日々更新されているといってもいいでしょう。
この報告は、言語景観・言語サービスという立場から大学生たちの目を通して写し取られた2018年秋の「銀座」の報告であるのと同時に、2011年から続く「銀座」の定点観測をも目指すものです。
このクラスは、グループによる演習形式で実施しました。予備調査と全体討議により、調査の対象と調査観点(項目)ならびに分担を決定しました。そののち、グループごとにデータ収集と分析を行い、発表をし、そのフィードバックを反映させた最終課題として冊子にまとめたレポートとweb版報告書を作成しました。
このクラスは、授業補佐のため国文学科4年生の高橋満里奈さんにSAとして参加していただきました。
このクラスは以下のように進めました。授業の連絡・コンテンツ・課題提出Blackboardを活用しました。
◆授業計画
※2月中に報告書・サイト完成予定:完成したらBb等で周知
◆成績:授業参加(企画・調査・報告・作業)40%、2種類のレポート(冊子原稿・サイト原稿)60%
【参考文献(アルファベット順)】
バックハウス(2004)「第2章「内なる国際化」―東京都の言語サービス」河原俊昭編著『自治体の言語サービス』 : 37-53. 春風社
バックハウス(2009)「日本の言語景観の行政的背景―東京を事例として―」庄司博史・P・バックハウス・F・クルマス編著(2009)『日本の言語景観』: 145-170. 三元社
井上史雄(2001)『日本語は生き残れるか』東京 : PHP研究所
河原俊昭編著(2004)『自治体の言語サービス―多言語社会への扉をひらく―』 春風社
正井泰夫(1972) 「新宿の都市言語空間」『東京の生活地図』:152-158 時事通信社
『日本語学』28(6)(特集 多言語社会ニッポン)明治書院・2009年05月
真田信治・庄司博史(編)(2005)『事典 日本の多言語社会』岩波書店
庄司博史・P・バックハウス・F・クルマス編著(2009)『日本の言語景観』: 三元社
多言語化現象研究会(2013)『多言語社会日本―その現状と課題―』三元社
田中ゆかり(2009)「首都圏の多言語表示―“標準化”の観点から―」『日本語学』28(5) : 10-23
田中ゆかり・秋山智美・上倉牧子(2007) 「ネット上の言語景観-東京圏のデパート・自治体・観光サイトから」『月刊言語』 36(7) : 74-83
田中ゆかり・上倉牧子・秋山智美・須藤央(2007)「東京圏の言語的多様性―東京圏デパート言語景観調査から―」『社会言語科学』10(1) : 5-17
田中ゆかり(2014)「3種の漢字の現れ方―「お買い物」の現場・デパートから見える風景―」『HUMAN』7 監修:人間文化機構、平凡社,96-101
田中ゆかり(2015)「言語選択とその背景―東京中心部におけるデパートを中心に―」『日本学』40東国大学校日本学研究所(韓国ソウル市),109-128
中井精一・ダニエル=ロング(2011)『世界の言語景観 日本の言語景観―景色のなかのことば―』桂書房
吉田直人(2017)「公共空間における地方別言語景観」『語文』151日本大学国文学会,54-72
Landry, Rodrigue and Bourhis, Richard Y.(1997).Linguistic landscape and ethnolinguistic vitality:An empirical study. Journal of Language and Social Psychology 16(1):23-49
【雑誌特集】『日本語学 特集 経済とことば』34(6)明治書院(2015年5月号)
【参考サイト】
☆日本政府観光局 http://www.jnto.go.jp/jpn/ ※訪日外客の動向や対策
ジャパンショッピングツーリズム協会 http://jsto.or.jp/
ビジネスに活用できるインバウンドデータ一覧 日本旅行業協会
https://www.jata-net.or.jp/data/inbound/
トラベルボイス http://www.travelvoice.jp/ 訪日旅行
☆田中ゆかり担当授業報告 /kisoen/ 銀座の言語景観調査
● 訪日外客、インバウンド、多言語化、言語サービスなどのキーワードで新聞各紙掲載記事を検索し、直近のものからさかのぼって読み、現状の把握をしておくこと。関連記事をフォローしておくこと。
「訪日外国人8月は災害で伸び鈍化、観光庁「マイナス影響を懸念」」2018/09/19
https://jp.reuters.com/article/aug-inbound-idJPKCN1LZ0V6