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方言効果について台詞分析

国文学科2年 田代裕子

ここでは、漫画のコマからその方言が該当キャラクターにどのような効果を与えているかを分析してみたいと思う。台詞内容そのものにとどまらず、方言がキャラクター像にあたえている目に見えないイメージ部分にとくに注目していきたいと思う。


1.分析データ

対象とするテキストは「Axis Powers ヘタリア(以下ヘタリア)」である。
2010年1月現在発行されている単行本1・2巻と、2010年1月13日までに公式サイト「キタユメ。」にアップロードされた同タイトルのWEBコミックをその限りとする。


2.分析

今回はポーランドに着目した。
ポーランドは、『人見知りが激しく、シャイ』と作者に設定されているキャラクターである。※「Axis Powers ヘタリア2」キャラクター説明より抜粋

以下は、ポーランドの会話コマ数をグラフにしたものである。

ポーランド会話コマ数(図1)

方言効果について台詞分析

ポーランド発言計19回のうち、11回が親友であるリトアニアに対して発されたものであった。それに比べ、リトアニアはポーランドとの会話が多いものの他のキャラクターとの会話回数も多く、これほどグラフは偏らなかった。よって、ポーランドは性格設定のとおり特定の人物と多く付き合うという、内向的な性質を有しているといっていいようだ。

ポーランドの登場シーンの一つに、親友であるリトアニアとチェスで対戦している場面がある。劣勢の状況下で「すぐに挽回することができる」と虚勢を張っていることが台詞から伝わるが、ここでうかがうことができるのはポーランド自身の、年齢以上(ポーランドが国家として認知されたのは10世紀のため、実年齢はゆうに千歳以上。またキャラクターとして外見年齢で考えても、十代中盤~後半だと推測できる)の幼さである。さらにこの後ポーランドは「自分ルール」と称してチェスの駒を投げつけ、幼い印象に拍車をかけている。
ポーランド初登場となるこのシーンで、方言によって強調されている印象は、甘えに由来する<身内>感だと思われる。
一般に、方言が公式の場で使われることは特殊な場合を除き、ほぼ無いと言えるだろう。また書き言葉として使用されるのも、ふつう標準語である。つまり、方言が使用されるのは、主として私的な対面の場と限定される。標準語が公の言語だとするならば、方言は私の象徴であり、より閉鎖的なイメージ、<身内>感が強い。
キャラクター設定にあるようにポーランドは人見知りが激しく、初対面の相手とはうまく話せない。こうして子どものように振る舞い、わがままな一面をのぞかせるのは打ち解けた相手に限定されているのである。愛知の県民気質に『保守的』があがっている(「現在の県民気質―全国県民意識調査―1996」)ことからも、名古屋弁をポーランドが使用するのは適当のように思える。
ポーランドの使用する方言は、ポーランド自身の親しい相手に向ける甘さ(また同時に、保守的・閉鎖的な側面)を言外に印象付けるのに役立っているのではないだろうか。


3.まとめ

方言は各県のイメージを伴うだけでなく、そのキャラクターの内面を言外に伝える媒体ともなるということが分かった。

参考文献

日丸屋秀和(2008)「Axis Powers ヘタリア」 株式会社 幻冬社コミックス
日丸屋秀和(2008)「Axis Powers ヘタリア2」株式会社 幻冬社コミックス
日丸屋秀和WEBコミックス「Axis Powers ヘタリア~心のそこからへタレイタリアをマンセーする」
NHK放送文化研究所(1997)「現在の県民気質―全国県民意識調査―」日本放送出版協会


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