国文学科2年 目代桐華
1.調査項目
土佐弁
2.作品について
表1<対象作品・キャラクターデータ>
作品名 | 『GetBackers-奪還屋-』 |
作者 | 青樹佑夜 |
掲載誌巻号 | 平成11年(1999年)22・23合併号~30号 |
単行本 | 2・3巻 |
単行本刊行年 | 1999年9月 |
3.使用方言について
方言使用キャラ | 馬車號造(まぐるまごうぞう) |
キャラ設定 | 巨大なトレーラーを駆る運び屋で、仕事中は滅多にブレーキを踏まない事から、ミスター・ノーブレーキと呼ばれる。同じ運び屋仲間の赤屍蔵人(あかばねくろうど)・工藤卑弥呼と組む事が多い。土佐弁で話す。普段はタクシー運転手として生計を立てており、蛮と銀次がそれを使用した事もある。凄腕の運転技術の持ち主で、トレーラーでガードレールを突き破り、崖に突っ込むというとんでもない事もやってのける。男気溢れる性格である。 |
キャラ生育地 | 特定不可。(会話の中で「~ぜよ」という特徴的な語尾が出てくることからその方言が『土佐弁』であると推測はしたが、実際に作中では生育地について触れられていないため、特定不可とした。) |
表3 土佐弁のステレオタイプ
キャラの特徴 | 土佐弁のステレオタイプ1 (参考文献[1]) | 土佐弁のステレオタイプ2 (参考文献[2]) |
・二面性がある
穏やか(*タクシー運転時)
荒っぽい(*トレーラー運転時)
攻撃的(*トレーラー運転時)
・冷静
・内に秘めたる闘志
・縁の下の力持ち
・引き立て役
|
・きつい
・荒っぽい
・親しみやすい
・田舎くさい
・味がある
|
記述なし |
4.考察
- 馬車號造は寡黙なキャラクターであり、セリフの総数も少ない。そのため、土佐弁のステレオタイプである「田舎くさい」言動は見受けられない。
- 仲間との会話では穏やかな口調であり、常に引き立て役(縁の下の力持ち)という位置にいる。
- また、馬車號造は二面性のあるキャラクターであることがわかる。タクシーを運転している時には、普段は敵対している主人公たちを乗せて目的地に運んだこともあり、表情も穏やかである。一方でトレーラーを運転している時には、滅多にブレーキを踏まないという“ミスター・ノーブレーキ”の異名のとおり、荒っぽい口調や運転技術が目立ち、顔つきも険しい表情が多くなる。何も運転していない状態では、口調は冷静である。しかし運転をし始め、主人公たちを追いつめた場面では、攻撃的できつい口調、更に表情も邪悪な顔つきになる。これはステレオタイプに依存した方言使用であると言える。
- 馬車號造は普段2人の標準語話者とともに仕事(運び屋)をしており、1人だけ方言話者がいることにより浮き上がり効果が見られる。
- 現在高知県では「~ぜよ」という土佐弁は殆ど使われていない。日常的に使用しているのは、高知市を含む平野部で明治・大正生まれの高齢者に限られる(参考文献[3])。しかし土佐弁を使用するキャラクターをマンガに登場させる上で、読者に「土佐弁話者である」と理解させる決定的な特徴が必要となる。そのため、マンガではそのキャラクターの位置付けや性格を表すために、現実の方言話者や方言そのもののイメージを少々誇張してキャラクターに使わせる必要があると考えられる。読者が土佐弁のステレオタイプを知らなくても、セリフの「~ぜよ」「~(や)き」という語尾を見れば、一目で土佐弁話者だと分かる。したがって現実では使用者が少なくなっている土佐弁だが、マンガ=架空の世界では、それ自体が空想上のものであるため、現実の方言の使用状況とは関係なく使われているのだと思われる。
- アニメでは、馬車號造は標準語話者という設定になった。これはアニメの視聴者がマンガの読者よりも対象年齢層が広く、方言ステレオタイプからくるキャラクター設定は理解しづらいためではないかと思われる。
参考文献
[1]三井はるみ(2003).「地元方言のイメージ」,『新「ことば」シリーズ』国立国語研究所,16:88-89.
[2]三浦千恵(2008).「言語の「使い分け」と心理~方言における東北人の劣等感はなぜ存在するのか~」4-14
[3]Wikipedia 「土佐弁」2009年12月14日(月)11:00