国文学科2年 滝沢干奈
1.調査項目
東北弁
2.作品について
作品名 | 釣りキチ三平 |
作者 | 矢口高雄 |
掲載誌巻号 | 昭和48年(1973年)32号~昭和58年(1983年)19号 |
単行本巻 | 1巻 |
単行本刊行年 | 2001年9月 |
3.使用方言について
方言使用キャラ | 三平三平(みひらさんぺい) |
キャラ設定 | 物語の主人公。11歳(時により9~15歳前後)。大きな麦わら帽子がトレードマーク。印象的な東北弁でしゃべり、素朴で明るい性格の少年だが、こと釣りのこととなると目つきが変わる。何よりも釣りが大好きな「釣りキチ」の少年。自然の残る秋田の山間の村に住むが、あちこちに出かけてはさまざまな釣りに挑戦する。経験こそ乏しいものの、釣りに関しては一流のセンスを発揮し、大人からも一目置かれている。時に幻の魚や、伝説の主(ぬし)と呼ばれる大魚などにも挑戦し、困難な問題には工夫をこらして対処し釣り上げてしまう。作中、さまざまなライバルや仲間にも出会いながら人間的にも成長していく。(参考文献[3] |
表2 東北弁のステレオタイプ
キャラの特徴 | 東北弁のステレオタイプ1 (参考文献[1]) | 東北弁のステレオタイプ2 (参考文献[2]) |
・田舎くさい ・素朴
・親しみやすい
・人懐っこい
・明るい
・好奇心旺盛
・好きなものには一直線
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・素朴
・訛りがある
・親しみやすい
・荒っぽい
・表現が豊か
・味がある
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・田舎くさい
・表現が豊か
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4.考察
- 方言使用キャラの三平三平は明るく好奇心旺盛な少年漫画の典型的な主人公であり、東北弁のステレオタイプ「田舎くさい」「素朴」に当てはまる。しかし、「荒っぽい」「表現が豊か」とは言い難い。方言をマイナス要素にするということはなく、むしろ親しみやすいプラス要素として利用している。
- 標準語話者(石崎努)との会話では普段と変わらず方言を使用しているが、初対面の時に限り時々標準語も交じっている。何回か会話をして打ち解けてからは、普通に方言を使用して会話をしている。初対面の時に標準語だけで会話をせず、方言を多く使用しているところに、三平の人懐っこさが表れている。
- 方言話者との会話でも初対面で年上の場合(ボート屋のおじさん)には標準語を使用している。何回か会話をしても敬語が交じることがある。
- このような例から、三平は標準語をあまり親しくない人との間で使用していることがわかる。三平は「標準語=よそゆきのことば」として用いているようである。
- 物語の舞台が秋田県なので他の登場人物も東北弁を使用しており、浮き上がり効果は見られない。しかし、同じ地域に住みながらも、三平の祖父の一平は一人称に「わし」、語尾に「~じゃ」といったような老人語の使用が目立った。これは「東北の人間」ということよりも「老人(おじいさん)」であることを強調したかったためだと考えられる。初対面の人に対してや、大人同士の会話の時には敬語の使用も見られた。しかし、感情が昂った時には敬語から方言に切り替わっていた。
- 三平の幼馴染の女の子であるユリッペも、方言のほかに「~だもん」「~よ」「~ね」「~わ」「~かしら」といった女の子特有の言語使用が見られた。これも一平と同様に「東北の人間」ということよりも「女の子」であるということを強調するためのものだと考えられる。
- ステレオタイプ、シチュエーション両方に依存した方言使用が見られる。
参考文献
[1]三井はるみ(2003).「地元方言のイメージ」,『新「ことば」シリーズ』国立国語研究所,16:88-89.
[2]三浦千恵(2008).「言語の「使い分け」と心理~方言における東北人の劣等感はなぜ存在するのか~」4-14
[3]Wikipedia 「釣りキチ三平