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国文学科2年 城戸明日香

1. 調査項目

担当した東北地域は、漫画内で使われた方言が主に福島弁であったため、福島弁について調査した。福島弁のステレオタイプを書いた先行研究がなかったため、福島弁・東北弁使用者の特徴を漫画内のキャラクターの性格と比較検討する。

2. 作品について

表1.作品について

3. 使用方言について

表2.方言使用キャラクター

方言使用キャラ キャラ設定
ガウェイン・七海 物語の主人公。小学3年生。男。福島に住んでいたが、ゴルフに出会い東京に上京した。元気で、陽気な性格。また、お人好しと言われるほど優しい性格である。外交的で、初対面の人にも臆せず話しかける。会話はすべて方言。
宇津久島福嗣 サブキャラ。芸能プロダクションに所属している。福島から東京に上京してきた。シャイで、訛りが恥ずかしいという思いもあるため、会話数は少ない。独り言も多い。訛りを直すため、アクセントの本を読んで直そうとしている。

表3.福島弁・東北弁使用者の特徴

4.考察

ガウェインは、主人公という立場もあると考えられるが会話が多い(吹き出し数による)。ライジングインパクト1巻2話の全登場人物の会話数を見ると、ガウェイン82.霧亜(ガウェインにゴルフを教える)51.ガウェインの祖父36.星先生(ガウェインの学校の先生)4.である。このことから、ガウェインは外交的であるといえる。福島弁使用者の特徴にあてはまる。しかし、共通語との使い分けの意識は無く、典型的な福島弁使用者にあてはまるとは考えられない。
福嗣は、シャイな性格と方言を恥ずかしいという思いがあるために会話が少ない。しかし、話しかけられた会話に返すよりも、自ら話かけることが多いため、外交的な部分もあるといえる。共通語との使い分けを意識しており、福島に帰省した際は方言を使用しているが、東京ではイントネーションに気を付けたり、方言を意識するあまり喋れなかったりしている。これらのことから、福嗣は典型的な福島弁使用者にあてはまると考えられる。
2つの漫画で方言使用者の特徴への当てはまり方は違う。しかし、どちらも福島弁を使用することにより、上京してきた「田舎者」を表そうとしている。ガウェインは、ゴルフをするために上京し、周りがライバルだらけでもそれに気圧されない勝気・元気を表そうとしている。福嗣は、上京したが訛りが恥ずかしく周りとコミュニケーションがとれず、標準語を話そうと努力する「田舎者」の特徴を押し出し、「田舎者」であることを読者にアピールしようとしている。
この違いは、漫画のジャンルによるものがあると考えられる。『ライジングインパクト』はスポーツ漫画なため、主人公にはライバルたちと競い合い、成長していく負けん気の強さや元気さなどが求められる。一方、『ピューと吹く!ジャガー』はギャグ漫画なため、「田舎者」イメージを誇張して表現することにより、笑いが生み出されることを狙っている。

参考文献

・柴田武(1958)『日本の方言』岩波書店
・半沢康 (2005)東北地方南部若年層における日標準語形使用の要因分析--心理的特性とのかかわり『国語学研究』(44)
・田中ゆかり(2012)「方言」の受けとめかたの移り変わり:全国意識調査からみる年齢差・地域差(特集 平成の言語変化)『日本語学』31(11)