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(伊藤惇)

6.4.1.テーマ

方言ワールド(北海道)が舞台のマンガ『銀の匙』のキャラクターが方言を話すシーンを、標準語話者の【八軒勇吾】に注目しながら、方言の出てくる場面を分析、そこから方言の使われ方を探っていく。【調査対象巻:1、2、3、5巻】
表5.調査対象キャラ・方言使用率データ(方言ふきだし数/総ふきだし数)

御影アキ
参考巻 1・5
参考台詞データ 1巻 1/116(0.9%)
5巻 1/143(0.7%)
駒場一郎
参考巻 1・2
参考台詞データ 1巻 11/35(31%)
2巻 13/52(25%)
西川一
参考巻
参考台詞データ 1巻 2/15(13%)
別府太郎
参考巻
参考台詞データ 1巻 1/8(13%)

※八軒勇吾は方言を使用しないので、データを省略した。
※データを見ていくと、方言ワールドが舞台なのに圧倒的に方言が少ない。1番高い駒場一郎でさえ、31%である。実態的に北海道は方言の使い分け意識が低い。北海道で共通語と方言を使い分けている人19.7%⇒方言と共通語の区別意識をもたない。それゆえ、使い分け意識も低い(「方言」コスプレの時代 104p、112p)。銀の匙の作者、荒川弘さんは、北海道出身である。インタビューでも自分の経験を基に、この作品を書いたと言っているので、北海道の実態がそのままマンガの中に表れていると考えてよいだろう。

6.4.2.分析・考察

八軒勇吾のキャラクター設定
銀の匙は、農業高校が舞台のマンガだ。そこに入学してきた生徒は、皆何かしらの夢や好きなことを持っている。しかし、主人公、八軒勇吾だけは違う。
札幌の中学から一般受験でやってきた。志望動機は、寮があるから…(銀の匙公式HP キャラ紹介より抜粋)
夢も、やりたいこともない農業高校のコミュニティーの中のハズレの存在だと言える。

方言の使用条件
銀の匙では、方言の使用率が高くない⇒使用時には何かしらの条件があるのでは?
そこでいくつか方言を抜き出し、場面分析をしていく。
表6. 方言出現時の場面分析①(御影アキ) 1巻76p

表7.方言出現時の場面分析②(駒場一郎) 2巻106p

方言キャラと八軒勇吾の考え方の違いが現れたとき、方言も現れる。
方言=地域の共通性を表す(井上史雄(2008).社会方言学論考 第3章 地域方言と社会方言の連続性 明治書院)
⇒八軒勇吾の異質さの強調
「価値観の違う物が混ざれば群れは進化する」という作者の考え方3巻143p
⇒作者も上記のような意図で方言を使用しているのではないか。

6.4.3.結論

方言使用の条件が存在した。
⇒方言ワールドで共通認識とされるものに、ハズレの存在(八軒勇吾)が疑問や、異常な行動をとったとき、一種の壁のような役割で方言が使用される。

【方言ワールドの共通性】と【八軒勇吾の異質さ】それぞれを強調するために、方言が作者によって意図的に使われていた。