0312051 山下良奈
有川浩の小説『阪急電車』と映画『阪急電車―片道15分の奇跡―』を調査対象とし、作品におけるヒーロー(カツヤ)とヒロイン(ミサ)が喧嘩をしているシーンに限定してセリフを抽出し、非共通語を調査した。小説ではヒーローヒロインの総セリフ数は48で、そのうちカツヤのセリフは16、ミサのセリフは32だった。映画では総セリフ数は31で、そのうちカツヤは11、ミサは20だった。非共通語だと思われるものをピックアップし、それを辞書で調べたところ、小説では13、映画では9種類に分類された。下の図4.5は小説と映画における非共通語の語数分布である。(なお、カツヤのセリフ数は表現上マイナスとした)
図4 非共通語の語数分布(小説)
図5 非共通語の語数分布(映画)
図4,5から両者の言葉使いを分析すると、ミサは全体的に色々な言葉をまんべんなく使っているとともに、「ちゃう」、「~やん」、「~やで」などと、比較的柔らかい物言いが多く“冗談好き”の印象につながる言葉が多いことが見て取れる。
一方、図4においてカツヤは「~や」、「~やねん」、「~やろ」、また打消しの意味である「ん」などと、ほとんどが断定的、言い方を変えれば威圧的な言葉に集約されており、これはいわば“やくざ”的な特徴を示していると考えた。また、図5でカツヤのセリフに方言が見られなかったという結果は、カツヤを演じた俳優が東京出身であり臨場感を持たせることが難しく、一方でミサを演じた女優が兵庫出身であるため、その分をミサが分担したのではないかと推察した。
大阪の方言ステレオタイプに、先行研究より「冗談好き」「やくざ」が挙げられる。
兵庫県を舞台としたこの『阪急電車』という作品の中で大阪ステレオタイプの特徴が見られたことにより、人々は正しい兵庫弁を求めておらず、小説と映画ともにヴァーチャル方言、関西弁っぽいものを求めているのではないかと考えた。