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(小林正洋)

6.2.1.研究テーマと方法

・「涼風」と「スケットダンス」の2つのマンガにおける‘秋月大和’と‘鬼塚一愛’という共通点が多い方言地域出身の二人に、方言話者と標準語話者という違いが見られるのはなぜか。また、恋愛とギャグというジャンルの違いによる影響はあるのか。

・それぞれ1~3刊を対象として、各方言地域のステレオタイプを参考に考察する。

6.2.2.表1.秋月大和キャラクターファイル

表1

表2.鬼塚一愛キャラクターファイル

表2

6.2.3.表3.漫画及びキャラの比較

2つの漫画とキャラの共通点と相違点を表にまとめてみた。

6.2.4.キャラと方言

ここでは各キャラと関連のある方言とそのキャラとの関係性の有無を調べていく。ここで、各ステレオタイプとキャラを比較し、よく当てはまるものを2点、当てはまると言えるものを1点、当てはまらないものを0点として数値を出し、それを方言濃度として考えていく。※判断材料は主に漫画内の言動や公式のキャラ設定を参考とする。また、きわどいものや判断が難しいものに関しては班員との話し合いにより決定した。

(1)秋月大和

関係性のある広島のステレオタイプには以下のようなものがあった。
・不良、やくざ ・怖い ・暴力的、短気 ・優しい ・男らしい、男性的
以上の5つの項目の中でよく当てはまるものは‘優しい’のみであり、その他の項目はすべて全く当てはまらなかった。
〈方言濃度〉 (当てはまった得点)/(全体値)=2/10=20%
この結果や標準語を使用していることからも、彼は広島ステレオタイプから想像されるキャラではないと言える。

(2)鬼塚一愛

関係性のある大阪ステレオタイプには以下のようなものがあった。
・冗談好き、おしゃべり好き・けち、守銭奴・食通、食いしん坊・派手好き・ド根性・ヤクザ、暴力的・好色、下品
以上の7つの項目の中でよく当てはまるものは‘冗談好き、おしゃべり好き’‘ド根性’‘ヤクザ、暴力的’であり、当てはまるものは‘けち、守銭奴’‘食通、食いしん坊’‘派手好き’で、当てはまらないものが‘好色、下品’であった。
〈方言濃度〉 (当てはまった得点)/(全体値)=9/14=約65%
方言濃度の結果と常に大阪弁を発していることからも大阪ステレオタイプに則った一般的な関西人キャラだと言える。

6.2.5.考察

(1)上の表から見て取れるように『涼風』の秋月大和は、ステレオタイプとキャラの性格が一致していないことや、他に方言話者も登場せず一貫して舞台が東京であるが方言エピソードは存在していることから話題づくりのために方言地域出身者という設定にしたのではないか(キャラ付け)。

(2)また『スケットダンス』の鬼塚一愛はステレオタイプとキャラの性格が一致しており、ジャンルがギャグ漫画で、方言エピソードも存在しているため、多くの人がイメージする大阪人キャラを確立することで、よりギャグ漫画としての部分が強調されるのではないか(キャラ付け)。

6.2.6.結論

以上の結果から方言ワールドも標準語ワールドも、キャラ付けという使用方法は同じだと言える。方言話者にすることでほかのキャラとは違った個性が生まれ、その個性が他の登場キャラとは一味違った‘ハズレ’キャラとなり、他キャラとの差別化になるのではないか。