地方を舞台とした漫画である『ばらかもん』・『銀の匙』を調査対象とし、方言を状況によって使い分けるスイッチキャラクターを中心的に比較・分析していく。取り上げる男女のスイッチキャラクターは比較や考察のしやすいキャラクターを選んでいる。
セリフリストのデータをグラフ化し、比較していく。なお、セリフリスト自体は膨大すぎるため載せていない。
『ばらかもん』 喜怒哀楽
『銀の匙』 喜怒哀楽
『ばらかもん』の方言使用時の喜怒哀楽ですが、木戸浩志の総方言台詞数が10に対し、喜が1、怒・哀が共に0、楽が4、その他が5となった。山村美和の総方言台詞数が103に対し、喜が5、怒が11、哀が0、楽が14、その他が73となった。特徴的なのは木戸浩志が喜・楽の場合にのみ出ているのに対し、山村美和の方では怒の割合も高く、それだけで男性キャラの総台詞数を超えている。両キャラともその他が最多で日常的に方言を使用していることが分かる。
『銀の匙』の方言使用時の喜怒哀楽ですが、駒場一郎の総方言台詞数が18に対し、喜・哀・楽が共に0、怒が2、その他が16となった。御影アキの総方言台詞数が1に対し、喜・怒・哀・その他が共に0、楽が1となった。『ばらかもん』に比べ方言台詞量は少ないが、方言が特定の感情に現れていることが分かる。
表4.具体的な台詞例
実際に方言使用時の台詞に注目すると、駒場一郎は日常的に方言を使用していたが、しっかり感情とともに現れたのは台詞例1のように怒った時のみだった。会話相手との間に考えの違いや壁などが生じると方言が使用されている。台詞例2は1~3巻で出て来た御影アキの唯一の方言台詞であるが、台詞量があまりにも少なかったので、今回収集したデータには含めないが4・5巻にも方言台詞がないか探してみた。すると5巻に台詞例3のような怒った状態の台詞を見つけた。また同5巻に、御影アキ自身が普段は恥ずかしさから方言を話さないようにしているが、うっかり出てしまうことがあるという内容の会話を主人公としている。台詞例2、台詞例3はともに御影アキの好きな馬のことについて会話している場面であり、どちらも主人公に向けられたものである。ヒロインが主人公に素の部分をつい見せてしまっていることを考えると、方言がヒロイン的属性の強調や方言萌えなどの役割を担っているのではと考える。また、学生キャラの方言使用割合は女性キャラよりも男性キャラの方が高かった。これは御影アキのような方言を使用することの恥ずかしさから、女性キャラの割合が低いのではないかと考えた。
今回は方言スイッチキャラクターに注目して調査を進めてきたが、二つの作品には違いを見て取ることができた。『ばらかもん』のキャラは特定の感情に吐出して方言が現れることはなかったが、『銀の匙』ではそれが現れていた点である。これは作者のキャラ立ちさせる意図のために、この様な結果になったのだと考察した。『ばらかもん』のキャラは性格・外見の時点で活発的・印象的であるのに対し、『銀の匙』のキャラには真面目や大人しい性格のキャラが多いことがその様に考察した理由である。