はじめに

■調査方法について


1.調査の基盤


三川町方言調査は、日本大学文理学部国文学科の研究教育活動の一環として、2009年8月6日~9日に実施されました。2009年度に日本大学文理学部国文学科で開講された「現代日本語学1(担当:田中ゆかり)」「現代日本語学2(担当:荻野綱男)「現代日本語学3(担当:佐藤亮一)」、「現代日本語学の方法1(担当:田中)」「現代日本語学の方法2(担当:荻野)」の授業担当者と履修者、国文学専攻の大学院生参加者を中心とする共同調査として行われました。この共同調査は、荻野・佐藤・田中が参加する日本大学文理学部人文学研究所共同研究「山形県三川町方言の総合的研究(代表:荻野綱男)」によるものです。また、全面的に三川町役場の協力を得た調査です。三川町役場企画課協働のまち政策室主事の鈴木亨氏には、事前・事後も含め本調査の実施に際してご尽力を頂きました。また、本調査には多くの役場・町民の皆様のご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。


2.調査参加者:36人(所属等は調査当時のもの)


調査記録写真

教員:荻野綱男・田中ゆかり(以上日本大学国文学科専任教員)
佐藤亮一(同非常勤講師)、加藤大鶴(山形短期大学教員)
大学院生:林直樹・佐藤真奈美・新沼めぐみ(以上国文学専攻大学院生)
持田裕美子(同専攻研究生)
李凝(北京大学大学院生/国文学専攻交換留学生)
学部学生:菅沼文華・佐藤悠人・川和梓・吉田充良・豊本英嗣(以上国文学科4年生)
佐藤友深・高野綾香・吉田悠亮・佐藤良美・小山裕子・藤田英美・船山千恵・岡本拓己・高橋歩・ 鮏川由佳・江幡香穂里・廣瀬梨絵・下村旭・照内操・丸山映美里・梅本調子・高橋藍子(以上国文学科3年生)
小林奈保美・大場千由紀・遠藤理乃・斉木春香・齋藤星子(以上国文学科2年生)


3.調査概要


質問紙を用いた面接調査(調査票へリンク:共通、A票、B票)とアンケート調査(調査票へリンク)の2種類の調査を行ないました。 面接調査は、調査は、2009年8月7日から9日の3日間にかけて行ないました。面接調査の話者106人は、三川町役場からご紹介を頂き、話者のご自宅・公民館・役場等それぞれ指定の場所において実施しました。 アンケート調査は、一種の留め置き調査法をとりました。7月下旬、面接調査協力者自宅に同居家族分も含めた調査票を郵送によって送付し、面接調査の際、各家庭や公民館・役場などの調査場所において回収しました。一部は、役場の協力を得て、役場において回収されたものを受け取りました。その結果、265票を回収しました。


調査記録写真
調査記録写真

■三川町概況ならびに三川町方言


1.三川町概況


三川町は、山形県の庄内地方のほぼ中央に位置する町で、北側に酒田市、南側に国立国語研究所が3度に渡って共通語化に関する言語調査(国立国語研究所,1953;1974;1994;2007)を実施した鶴岡市が隣接しています。
2009年3月31日現在、総面積33.21平方㎞の64.5%が水田で、全世帯の27.0%が農家という農業、とくに米作を主要な産業とする町です。米以外の農産物としては、メロンやしいたけ、長ねぎなどの生産が盛んで、近年は、観光産業にも力を入れており、第三次産業従事者数が約半数に近づいています。人口7,714人のうち、65歳以上の世帯が全体の29.1%を占めています(三川町公式サイト参照)。
 三川町では、1986年から2003年まで、方言による町おこしに取り組み、17回に渡って全国方言大会を開催しました。Webサイト「みかわの方言」を開設し、方言を観光資源としてアピールする一方、三川町の宿泊施設「田田(でんでん)の宿」には、方言研究者である徳川宗賢氏が生前に収集した方言グッズ約670点の「徳川コレクション」の一部を展示するコーナーを設けるなど様々な活動を行なっています(三川町公式サイト; 山形県・三川トピア創造委員会サイト;国立国語研究所,2004;佐藤亮一,2009)。また、大学・研究機関による方言調査を積極的に受け入れています(佐藤亮一,2003)。


2.三川町の方言について


三川町方言は、東北方言の中の北奥方言である庄内方言に位置づけられ、隣接する南奥方言に属する山形県内陸地方の方言とは、性格が著しく異なります(佐藤亮一,2009)。
音声・音韻面においては、シとス・チとツ、ジとズの区別がなく(ズーズー弁)、カ行・タ行の語中有声化が起こりやすいことが知られています(斎藤義七郎,1982;遠藤仁,1997)。庄内地域は、無アクセント方言地域である内陸方言と異なり、アクセントは東京式の一種(北奥式)で、型区別をもっています(平山輝男,1957、山形県方言研究会1970)。
三川町の方言語彙については、佐藤武夫(1983)が詳しく、代表的な方言語彙については、方言町おこしの一環として、「みかわの方言」サイトにおいて「方言クイズ」として示されています。
佐藤亮一(2009)によると、内陸方言とは異なる庄内方言の文法的な特色として、

・ 可能表現「カガエル(書くことができる)」の「~エル」
・ 推量表現「アメガフンロー(雨が降るだろう)」の「~ロー」
・ 進行態「オヨイッダ((今)泳いでいる)」の「~ッタ/~ッダ」
・ 文末助詞の「ノー(ねえ)」

などがあります。北海道・東北方言全般に現れる現在を現わす「タ」も「トーチャン、エサ、イッダガ?(お父さん、(今)家にいるか)」の形で現れます。
「気づかない方言」としては、

・ 「犬ガラ(に)追いかけられた」の「~カラ」
・ 「ワガンネ(だめだ)」
・ 「ダマッテレ(動くな)」
・ 「イチマル、ニマル(①まるいち、②まるに)」

などが確認されています(阿部八郎,2003;佐藤亮一,2009)。
三川町と同じ庄内方言に属する鶴岡市においては、音韻・語彙・アクセント・文法などすべてにおいて共通語化が進んでおり、伝統方言の変容と、場面による方言変種と共通語変種の使い分けが進んでいることが、国立国語研究所(1953,1974,1994,2007)から確認されています。鶴岡市と日常的な往来のある三川町においても同様の状態にありますが、三川町は鶴岡市よりも伝統的方言の残存度が高いと推測されます。


【参考文献】


阿部八郎(2003)「山形県」『言語 <小辞典>ふるさとのことば』32-1(大修館書店)
遠藤仁(1997).1 総論 日本のことばシリーズ 山形県のことば 明治書院
国立国語研究所(1953).地域社会の言語生活 : 鶴岡における実態調査 国立国語研究所報告,5秀英出版
国立国語研究所(1974).地域社会の言語生活 : 鶴岡における20年前との比較 国立国語研究所報告,52 国立国語研究所
国立国語研究所(1994).鶴岡方言の記述的研究:第3次鶴岡調査報告<1> 国立国語研究所報告,109-1 秀英出版
国立国語研究所(2004).「ことばビデオ」シリーズ<豊かな言語生活をめざして>3 方言の旅[第一話 方言と出会う、第二話 方言を考える] 東京シネ・ビデオ株式会社
国立国語研究所(2007).地域社会の言語生活:鶴岡における20年間隔3回の継続調査 国立国語研究所
斎藤義七郎(1982).山形県の方言 講座方言学4:北海道東北地方の方言 国書刊行会
佐藤武夫(1983).みかわの方言 私家版
佐藤亮一(2005).アクセント調査における「読ませる調査」と「言わせる調査」―山形県三川町における小調査から― 日本語学の蓄積と展望 明治書院
佐藤亮一(2003)山形県三川町における言語調査 大学時報,291 日本私立大学連盟
佐藤亮一(2009)都道府県別方言辞典 三省堂
平山輝男(1957).日本語音調の研究 明治書院
山形県方言研究会(1970)『山形県方言辞典』 私家版


【参考サイト】


輝く人と大地~ハートフルタウンみかわ(山形県三川町公式サイト)
(2010/01/15最終閲覧)
みかわの方言
(2010/01/15最終閲覧)
真に魅力的な“まちづくり”を創造する 山形県・三川トピア創造委員会
(三川トビア創造委員会 財団法人あしたの日本を創る協会)
(2010/01/15最終閲覧)