くらもちふさこの漫画『天然コケッコー』と映画『天然コケッコー』を調査対象とし、漫画一巻と映画一時間分の全セリフを文字化し、総セリフから方言の占める割合を出した。同時にヒーロー、ヒロインの方言使用においてどのような方言が多く使われているかについても分析をした。また、方言が作品にどのような影響を与えるかについて考えた。
役 | セリフ総数 | 方言使用セリフ数 | その他(…、!など) | |
---|---|---|---|---|
漫画 | ヒロイン | 450 | 247 | 64 |
ヒーロー | 238 | 1 | 26 | |
映画 | ヒロイン | 149 | 102 | 0 |
ヒーロー | 59 | 1 | 0 |
表5 方言使用率
セリフの集計では漫画では一吹き出しを一セリフとカウントした。映画では他のキャストのセリフまでを一セリフとした。ヒーローである男性の主人公大沢広海は東京出身であるため、方言を使用しているのはふざけて言った「だめかのお」という一言だけである。ヒロインの右田そよはこの作品の舞台である島根県出身であるためセリフ総数における方言使用セリフ数も割合として大きいが、特に映画においての方言使用率は高いことが分かる。
図3 方言使用数
方言としては主に文末表現である「~じゃ」や「~かね」、「~ん」が多く使われている。これは方言使われていることがより簡単に視聴者や読者に伝わるためであると考えられる。また、ヒロインの一人称である「わし」もそれに次いで多く、これは見る人にヒロインのキャラクターや性格を分かってもらうためであると推察される。ここで抜き出した以外にヒロインは漫画では71回、映画では28回方言を使っていた。例として一度しか使っていないものだと「行って帰ります」、「やんさい(ください)」などがあげられる。文末表現では「~けえ」、「~ちゃい、~さい」などが使われていた。
【漫画】 | おもしろい | かわいい | かっこいい | あたたかい | 素朴 | 怖い | 男らしい | 女らしい |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ヒロイン | × | △ | △ | ○ | ◎ | × | ○ | × |
ヒーロー | ○ | × | ◎ | × | × | ○ | ○ | × |
【映画】 | おもしろい | かわいい | かっこいい | あたたかい | 素朴 | 怖い | 男らしい | 女らしい |
ヒロイン | × | ○ | × | ○ | ◎ | × | ○ | × |
ヒーロー | × | × | ◎ | × | × | ○ | ◎ | × |
表6 方言ステレオタイプ
表6からキャストの出身地は映画のキャスティングには影響していないことがわかる。これは、映画では方言指導者がいるため、出身地が違っても特に問題がないためだと推測される。しかし、容姿という点では美少女であったりイケメンのキャストを起用しているという点で漫画のキャラクターの影響を強く受けていることが考えられる。また、方言ステレオタイプではヒロインの方言の印象が映画では「かわいい」という項目が大きくなっていることから、映画ではより「方言萌え」が意識されているのではないかと考えられる。
セリフの総数と方言の使用数などを比べると、やはり映画のほうが方言を使っている割合が大きいということが分かった。また、漫画では使われていた怖いという意味の「ぼいしい」が使われていないというようなことから、映画ではなるべく島根弁話者以外にも伝わるような方言、方言の文末表現を使い感情移入しやすいように作られていることが分かった。