私は、富山県が舞台の作品である『ほしのふるまち』の漫画と実写化映画を比較した。
キャラクター | 属性 | 出身地 | キャスト | キャストの出身地 |
---|---|---|---|---|
堤恒太郎 | ヒーロー、主人公 | 東京都 | 中村蒼 | 福岡県 |
一ノ瀬渚 | ヒロイン | 富山県 | 山下リオ | 徳島県 |
表7 分析対象キャラリスト
漫画と映画それぞれの方言使用数は次のようになる。
堤恒太郎 | 一ノ瀬渚 | |
---|---|---|
方言使用数 | 0 | 69 |
1巻のセリフ総数 | 191 | 146 |
表8 セリフにおける方言使用数(漫画)
堤恒太郎 | 一ノ瀬渚 | |
---|---|---|
方言使用数 | 0 | 0 |
1時間分のセリフ数 | 80 | 66 |
表9 セリフにおける方言使用数(映画)
漫画で方言を使っているヒロインが映画では共通語を話している。漫画では東京出身の人物(主人公、主人公の両親)以外の氷見に住む人々は方言を使用する。しかし、映画で方言を使用しているのは主人公の居候先の家族である、宮本良夫・宮本千春・宮本益五郎の3人だけだった。
ステレオタイプ | 堤恒太郎 | 一ノ瀬渚 | ||
---|---|---|---|---|
漫画 | 映画 | 漫画 | 映画 | |
おもしろい | × | × | △ | × |
かわいい | × | × | ○ | △ |
かっこいい | △ | ◎ | × | × |
あたたかい | × | × | ◎ | × |
素朴 | × | × | ◎ | × |
怖い | △ | ◎ | × | ○ |
男らしい | ○ | ○ | × | × |
女らしい | × | × | × | × |
表10方言ステレオタイプ
漫画のヒロインは、関西方言の持つ「おもしろい」といったステレオタイプと、東北方言の持つ「あたたかい」「素朴」といったステレオタイプの両方を持っている。これは、富山県が東北と関西の間に位置しているためだと考えられる。しかし、映画でのヒロインは富山弁ではなく共通語を話しているため、東京の方言ステレオタイプに近くなっていることがわかる。
【堤恒太郎】
映画で「かっこいい」「怖い」というステレオタイプが強くなっているので、漫画よりも冷たく不愛想なキャラクターになっている。このため、東京で落ちこぼれてきたことに対する絶望感が強く表れている。また、喜怒哀楽がはっきり表情でわかる漫画に比べて、映画は無表情で感情の起伏が乏しい。これにより、現代の若者のリアルさがより表れているといえる。
【一ノ瀬渚】
映画で共通語を使用していることで、漫画よりも落ち着いた印象を受ける。これは外見に影響しており、漫画でショートヘアだった渚は映画ではストレートのロングヘアになっている。このため、漫画の方が明るく活発な印象が強い。
このように方言使用の違いはキャラクターから受ける印象に大きく影響している。さらに、堤恒太郎役の中村蒼さんは福岡県出身、一ノ瀬渚役の山下リオさんは徳島県出身であり、キャスティングに出身地は関係していない。これは映画では方言を使用しないので、出身地にこだわる必要がないためだといえる。つまり、この作品の映画は方言の役割が漫画とは異なると考えられる。
漫画では、作品の舞台である富山県の人々は富山弁を話している。ここでは、方言は作品の舞台が富山だということを読者に感じさせる役割をしているといえる。しかし映画では、富山県が舞台であるにも関わらず、富山弁を話す人が限定されている。これは、方言がキャラクターを描きわけるツールとして使用されているためだからではないか。以上のことから、『ほしのふるまち』では漫画と映画で方言の役割が異なることがわかった。また方言の使われ方の違いは、キャラクターのイメージにも影響するといえる。