2004年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百二十二輯 掲載論文

立川結花卒業論文平成16年度鈴木賞
「若年層の携帯メールにおける各種絵記号の使用―メールのテキスト分析と意識

立川結花
若年層の携帯メールにおける各種絵記号の使用―メールのテキスト分析と意識調査―

本研究は若年層の携帯メールにおける各種絵記号の使用度が、年齢や性別、メールの内容によってどのような差があらわれるかを明らかにすることを目的とし、実際に若年層から作成送信されたメールによるテキスト調査からこれらを考察した。また、ゼミで行った携帯メール・コミュニケーションに対する意識調査の結果との関わりもあわせて見ている。本稿においては、特に断らない限り「携帯電話」「携帯」「ケータイ」は、いずれもPHSも含んだ「移動式電話」のこととする。また「携帯メール」とは、「携帯による電子メール」とドコモにおける「ショートメール」のようなメールの両方を含んでいる。この分析によって、若年層の携帯メールでは年齢は10代のほうが、性別は女性の方が各種記号の使用度が高いことが分った。またメールの内容では感情が表れやすいものだと各種記号の使用度が上がることが分った。そして実際のメール行動には、携帯メール・コミュニケーションに対する意識が深く関わることを確認した。

加藤章子
福島方言の地域差―方言語彙の理解度・使用度と地域イメージ―

福島県の3地域(浜通り・中通り・会津)の地域イメージ、方言イメージ、各地域の方言語彙の使用度・理解度を調査し、それらから3地域の地域差を調査した。
まず、3地域の地域イメージ(土地柄・人)と方言イメージについては、それぞれの地域が他の地域からどのようなイメージを持たれているのか、また世代別(高年層・中年層・若年層)に見るとどのような違いがあるのかを調査した。
さらに、地域イメージと方言イメージの2つのイメージの関係性を2つのイメージの結果から検証した。
方言語彙の使用度・理解度は、各地域特有の方言である語彙を文献やサイトから抽出し、その語彙の使用度・理解度を分析し、他地域の方言語彙でも使用し、理解することができるのかを調査した。
結果としては、イメージでは中通りがとても抽象的なものになり、特に固定したイメージがなく、地域や世代での差が多く見られた。方言語彙の使用度・理解度では、逆に、中通りの方言語彙の方が使用度・理解度が高いという結果もあった。

上倉牧子
山口県宇部市方言のアスペクトについて―「しよる・しちょる」の使い分けの現状―

山口県を含む西日本では、人・事・物の動作・作用が「~している」という表現(アスペクト)を継続の意の「~しよる」と結果の意の「~しちょる」のように2つの表現で言い分ける。しかし近年、若年層を中心に「しよる」を「しちょる」で言い換える傾向がみられるという指摘もなされている。本稿の目的は、この使い分けがどのような規則性を持っているのかを動詞の種類から探り、年齢や性別、居住暦などの非言語的条件がどのような影響を及ぼすのかを調査することである。ここでは、動詞種別に選出した26語を基に作成したアンケートによる山口県言話者のアスペクト表現時の使用言語調査と、その調査データの統計的分析により検討した。その結果、山口県宇部市方言における動詞ごとの「しよる」「しちょる」の使用度数がわかり、それらと動詞種との関係が浅くないことが確認された。

坂巻亮江
秋田県内における秋田方言イメージと使い分けの地域差

秋田弁に県内差はある。秋田弁話者同士でも、年代・地域によって差がある。秋田弁話者がこの違いについてどのように意識しているのか。についても秋田県内を「県北・県央・県南」3地域に分けて方言イメージと使い分け意識についてアンケート調査でデータをとり、検証した。
使い分け意識は場面・相手・相手の言葉の親疎を組み合わせた場面で、標準語・秋田弁どちらを使うのかの意識をたずねた。親である場面よりでより秋田弁が使われ、疎である場面でより標準語が使われる。また、場所や相手よりも相手の言葉が親であるときにより秋田弁を使うことが多いようである。
秋田弁の地域差について県南からのイメージしか取れなかったが、大部分の秋田弁話者が県北・県央・県南の秋田弁に差があることを認識している。方言イメージにも3地域それぞれに差が出ており、ある程度のステレオタイプがあるのではないかと考えられる。

中村知子
日本大学文理学部における待遇表現の実態調査―依頼表現の行動展開を中心に―

我々は人と話すときに、相手の年齢や親密さの度合いによって話し方を変えることがしばしばある。今回は日本大学文理学部在籍の学生に対し面接調査を行い、依頼をする場面5つにおいて相手の性質(同年齢か年上か、親しいか親しくないか、等)による行動展開の違いを、moveの観点から比較した。その結果、最も待遇の高いmove数0の人数は相手が親しくなく、年齢が離れているほど多くなることが分かり、親疎と年齢差がmove数に影響を与える要素であることが分かった。更に、6種類の相手をコードの高い順に並べると上位3つが親しくない相手、下位3つが親しい相手であったことから、年齢差よりも親疎のほうがより大きな影響を与える要素であることが確認できた。

西山紘大
新方言の使用度・意識調査についての考察―「ら抜きことば」「略語」を中心に―

本研究の目的は新方言と呼ばれている「ら抜きことば」「略語」の使用度、意識度が世代、または属性においてどのように変化するのかということを明らかにすることである。広い世代で使われている「ら抜きことば」という言語形式については、
①「ら抜きことば」はほかの新方言に比べて若年層の意識は高いのではないか。
②老年層より若年層の使用頻度は高いのではないか。
③意識度と使用頻度は一致しないのではないか。
という3つの仮説から意識度のムラを明らかに、若い世代しか使わない「略語」については、
①同じ年代でも学生と社会人の使用率は学生のほうが高いのではないか。
②特定の語彙「違かった」・「いくない」の意識度はたかいのではないか。
③語を抜く単語に比べ「~んない」という発音の簡略化は意識度は低いのではないか。
という、3つの仮説から同じ世代でも「学生」と「社会人」の使用度、意識度の違いを考察していく。

梁善美
日在留学生における誤用しやすいオノマトペ

日本に在留している留学生を対象とし、オノマトペ使用における誤用状況を実際テストを行う。そして、出された結果をもとに認知度が高い又はよく間違われるオノマトペを分類しその傾向をみることで誤用原因を探る。

河合涼平
メタファーの評定と分析

本論では単文のメタファーでの表現について、その文の表現が「斬新である」か「斬新でない」か、「面白い」か「つまらない」か、「理解しやすい」か「理解しにくい」か、「良い」か「悪い」か、その文で内容が「想像しやすい」か「想像しにくい」か、ある意味をこの文で伝えられた場合その表現が「適切」か「不適切」か、を評定してもらい「斬新さ」、「面白さ」、「適切さ」、「理解しやすさ」、「良さ」、「想像しやすさ」という6つの項目がメタファーではどのように機能するかという分析を試みたものである。その結果、「斬新さ」と「面白さ」、「理解しやすさ」と「適切さ」、「理解しやすさ」と「良さ」、「理解しやすさ」と「想像しやすさ」、「良さ」と「適切さ」、「良さ」と「想像しやすさ」の項目間では強い相関関係がみられた。このことにより、単文のメタファーを用いるときに、斬新な表現を心がけたい場合は「面白さ」に注意し、面白い表現を心がけたい場合は「斬新さ」に注意し、理解しやすい表現を心がけたい場合は「適切さ」と「良さ」と「想像しやすさ」に注意し、適切な表現を心がけたい場合は「理解しやすさ」と「良さ」と「想像しやすさ」に注意し、良いと思われる表現を心がけたい場合は「理解しやすさ」と「適切さ」と「想像しやすさ」に注意し、想像しやすい表現を心がけたい場合は「理解しやすさ」と「適切さ」と「良さ」に注意すべきではないかということが本論での主張である。

西嶋玲奈
日本語ロックの年代的比較―スピッツとはっぴいえんど

日本語ロックというジャンルの貸しを年代的差異を分析し、またそれらを他の流行歌などの傾向と比較をして、日本語ロックの特有の傾向を考察した。現代の日本語ロック代表としてスピッツというバンドを調査対象にし、日本語ロックの創始者としてはっぴいえんどというバンドを調査対象にして両者の歌詞を、歌の形式、語種、品詞、異表記、色彩語、特徴語彙という観点から分析していった。またスピッツは、活動時期が長いので、ブレイク前、ブレイク中、ブレイク後と三期に分けてその特徴を分析していった。
その結果、はっぴいえんどとスピッツを比較して日本語ロックの傾向を見ると、
1、「独白調」の歌詞が多い
2、「居る」の比率の高さ
3、「君」「僕」の語数の多さ
4、「赤」
となった。

青木美佳
談話調査からみる群馬方言―語中有声化を中心に―

群馬方言話者における語中有声化を談話から検討した。「道教え談話」では親疎それぞれの場面を録音し、場面や属性による有声化コントロールのレベルを判定する分析を行った。その結果、年層が深く関係しており、若年層においては語中有声化での出現が全くなかった。しかし、発話することはなくなりつつある若年層でも、中年層以上が有声化し発話していることに対し、違和感を持ちつつ会話していることはないだろう。よって、若年層にとって、語中有声化はもはや意識せずコントロールできる方言であることが確認できた。また「フリー談話」の中でより方言要素を発したのは「道教え談話」で「有声化コントロール不可」または、「有声化コントロール可/不可」と認定された人たちに限定され、「道教え談話」において「有声化コントロール可」と認定された人たちの中に、方言要素を発した人はいなかったということである。このように、語中有声化とその他の方言要素との関係性はあることが分かった。

片岡正也
アイデンティティと言語形式の選択について―男性同性愛者の言葉遣いの意識調査を通して―

男性同性愛者および男性両性愛者あわせて50人に言葉遣いの意識調査を行った。「オネエことば」を中心に、性的マイノリティの言葉遣いがどのようなアイデンティティを標示するのかを探ろうとしたものである。
調査結果を分析し、オネエことばの使用・不使用は、自認性別や性指向ではなく、コミュニティ参加度やカミングアウトの有無がより強い関係性があると結論付けている。
オネエことばのイメージは男ことばや女ことばよりもマイナスイメージが高く評価され、女ことばで高評価される「丁寧」「良いことば」などはあまり評価されなかった。オネエことば使用者と不使用者とで比較したところ、使用者も「味がある」というイメージのほかはマイナスイメージを高く評価していた。
オネエことばはコミュニティ参加を経験した半年以内に、特定の人物からではなく、自然に身につくことが多い。また、オネエことばで話せる相手は同性愛者の友人に多く票が集まっており、逆に絶対に話せない相手は親が高い度数となっている。オネエことばの使用には、場所はあまり限定されないようである。
回答者の普段使いのことば(オネエことば以外のことば)の名称をたずねたところ、「自分ことば」類の回答がもっとも回答者が多かった。
以上から、性的マイノリティは性別を超えたところにアイデンティティを置いていると考えている。

松原明子
若者語・新語・流行語のゆくえ―アンケート調査にもとづいて―

言葉には、流行りすたりがある。「若者ことば」「新語」「流行語」と呼ばれる語は、ある期間、興味を持たれて多くの人に盛んに使用される。その語を使用する年齢の幅は語によってまちまちだが、たいていの場合使用者の多くは10代から30歳ぐらいまでの若者といっていいだろう。前年度の特殊研究ゼミナールⅡでは、現在流行っている言葉について、その世代ごとの認識度、使用度などを調査し、やはり「若者ことば」というのは、若者の言葉なのだ、と断言していいような結果が出た。「若者ことば」というのは、その時代の若者のものなのだろう。
では20年前の「若者ことば」は、20年前の若者、つまり現在の中年層の人のものか。
そうだとしたら、その人たちは、20年前の「若者ことば」を現在も使用しているのだろうか。そして現在の若者たちはその言葉をしっているのだろうか。現在も使われ、しかもそれが後の若者にも浸透しているようであれば、それは、「若者ことば」の域を越え、新しい日本語としてとらえられている、ということになるのではないか。
参考文献から、過去に「若者ことばとされた語」を収集・分類し、それらが現在どれだけ認識され、どのような人に使用されているのかを調査した。それらの語に対するイメージも聞いた。
若者が老いてからも使用する語、しない語。後の若者に伝わる語、伝わらない語。調査結果を大きくこの4つのグループに分けてみた。それらの分析ののち、語の発生理由・対象カテゴリーと言葉のゆくえの関わりを考察した。