2013年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百四十九輯 掲載論文

岡部悠也卒業論文
Jリーグ中継の談話分析―テレビ・ラジオ両中継の比較から―
孫世玉卒業論文
韓国での「方言」価値の変遷について―新聞記事を中心に―
岡野麻亜子卒業論文
少女マンガのタイトルの変遷

吉田昌峰
埼玉県本庄市における「べー」について

埼玉県本庄市における「べー言葉」の実態を明らかにし「用法において差があるのか」「接続する形に差があるのか」という2点に重点を置いて調査するために埼玉県本庄市在住の人89人に面接調査を行った。また、若年層と高校生の使用差を調査するために高校生67人にアンケート調査を行い分析し考察した。
面接調査は、「意志」「勧誘」「推量」「確認」「強調」の5ちの用法で「行く」「見る」「受ける」「する」「来る」「高い」に対して第一回答を求め、その後さまざまな「べー言葉」の接続の形を誘導して質問し「言う」「言わないが聞く」「言わないし聞かない」で回答してもらった。アンケート調査は「行く」「見る」「高い」の3つの用法で調査をした。
用法では年層によって使用されている接続の形の種類に差がみられた。年層が下がるにつれて従来の接続の形から接続の単純化、そして「べー言葉」の撥音便化が優勢に転じていることが分かった。

岡野麻亜子
少女マンガのタイトルの変遷

昔の少女マンガのタイトルを見たときになんだか古いと感じることがある。本稿では、どのようなタイトルであると古い・新しいと感じるかを明らかにするために、1950年代から2010年代まで10年ごとにどのように変わっていったかを字種を中心に調査した。また、マンガのページ数や連載・読み切りでも違いがあるかをみた。
1950年代はひらがなの割合が7割を超えていたが、徐々に使用率が下がり、かわりにカタカナ、アルファベット、記号の割合が高くなっていった。1990年代には字種全体でカタカナの使用率が最も高くなったが、2010年代にはまたひらがなの使用が最も高くなっている。カタカナ・アルファベットの使用が高くなっていったのは、外国出自語の使用も徐々に高くなっていったためであると考えられる。2010年代には外国出自語を含むタイトルも2000年代に比べ大きく減っていた。

北瑛理奈
首都圏における2世の言語使用意識と実態

本研究の目的は、他地方出身の親を持つ、言語形成期の大半を首都圏で過ごし現在も首都圏に在住している若者、いわゆる首都圏における移住者2世の言語意識と実態を調査し、今後のこの研究の土台となることを目指したものである。今回行った談話調査とアンケート調査の2つの調査から得た、音声資料を文字化したデータ、アンケート回答をスコア化したデータの2種類を用いて、分析と考察を行った。
その結果、移住者2世はアクセントや語形は共通語型と共に共通語型と似た形の非共通語型を使用していた。さらに、過去から現在にかけて方言型、共通語型と似つかない形の非共通語型の出現が減少していったことから、方言型や非共通語型が受容されても他人からの指摘などの影響を受けて、共通語にする、または近づけるといった言語形成が行われていることがわかった。また、非共通語型が出現しやすくなる要素として「親の出身地の組み合わせ」「親の言語使用状況」「両親が話す言葉への興味」が挙げられ、その順に移住者2世の言語形成に影響を与えていることが明らかになった。

渡辺未咲
若年層の依頼表現-「受諾されやすさ」の観点から-

本稿の目的は、同年代のあまり親しくない友人との会話において、依頼をする人(=依頼者)はどのような工夫を凝らしながら依頼をするのかということに加えて、受諾されやすい依頼表現とはどのようなものかを明らかにすることである。依頼者は自分に非がある場合なら余計に、依頼をするときに、間接性以外にも様々な工夫を凝らしながら会話を進めていくという先行研究の結果をもとに、観点を設定し録音調査を行った。そして依頼者には、言葉の上で気を付けた点を、依頼をされる人(=被依頼者)には、受諾の可否の理由を尋ねるアンケート調査も行った。その結果、男性と女性の間で依頼の仕方に違いがあることや、それに伴う意識にも違いが見られた。また、受諾された依頼と受諾されなかった依頼を比較することで「受諾されやすい依頼」は、初めに挨拶や前置きを言うこと、そしてより間接的な依頼表現であることがわかった。

岡部悠也
Jリーグ中継の談話分析―テレビ・ラジオ両中継の比較から―

本研究は、Jリーグ中継において、テレビ中継とラジオ中継でどのような談話の傾向の違いがみられるのかを明らかにすることを目的としたものである。両メディアの最も大きな違いは視覚情報の有無であるが、それが談話にどのような影響を与えているのか、中継内の談話を文字に起こし、比較、分析を行った。
先行研究やデータの観察をもとに考えた8つの観点から分析を行ったが、その全てにおいて、概ね仮説通りの結果が得られた。発話内容の傾向として、全ての情報を言葉で伝達する必要があるラジオ中継においては、映像が状況の伝達を補助するテレビ中継よりも、より即時性の強い情報が優先して伝えられていることが明らかになった。この傾向は発話者の割合の差や会話部分の割合の差にも結びついていた。また、ラジオ中継では場所や方向などについて言葉で具体的に描写したり、「気付かせ、思い出させ」の間投詞である「さあ」を使って場面の転換を強調したりといった、視覚情報を補う工夫があることも確認できた。

田中千翔
食感・味覚のオノマトペ―コンビニプライベートブランドの菓子・パン類を対象に―

オノマトペは、感覚を簡潔かつ直感的に伝えることができ、近年使用が増加しているといわれている。中でも、食感や味覚をあらわすオノマトペは、消費者に具体的で説得力のあるイメージを与えるため、私たちの身近な食品の商品名や商品説明にも多く使用されている。その中でも、普段から頻繁に利用するコンビニエンスストアの、プライベートブランドの商品を対象にし、食品の商品名や商品説明に使用されるオノマトペにはどのようなものがあるのか、また、商品のタイプの違いによってオノマトペにどのような差があらわれるのかを、オノマトペ出現率・5分類・表しているもの・表記・オノマトペ素の観点から分析した。その結果、オノマトペの使用率は昨年度と比較して増加しており、食べるときに音がするものには擬声語が、音がしないものには擬態語が主に用いられていることがわかった。また、商品名や商品説明に使用されるオノマトペのほとんどが、「食感」を表すものであった。

張セッピョル
新聞漫画に見られる非言語行動の日米比較

本稿の目的は日本とアメリカの新聞漫画から見られる非言語行動の差異をみることによって、それが言語や文化とどのような関わりがあるのかを探ることにあった。
漫画から見られる非言語行動をコード化を行い、出現回数順や特定場面からは両国でどのような行動が現れたのか、そしてキャラクターの性別、会話相手との上下関係によって両国の非言語行動にはどのような差異点があるのか分析を行った。さらに両国のエンブレムの比較も行った。その結果、次のような結果が現れた。両国ともに使う行動であっても、使う場面は異なる傾向が高かった。さらに日本の場合はアメリカに対して非言語行動の使用率が低く、上下関係によって見せる行動がアメリカと異なる部分が多かった。日本の場合が上下に対する意識が強いことが非言語行動にも現れていた。つまり非言語行動もコミュニケーションの一部として両国の言語的文化や社会的文化などの特徴が反映されていることが分かった。

原卓哉
大学生のLINEのテキスト分析―字種と各種絵記号の観点から―

本稿の目的は、今や携帯メールに代わる連絡手段になりつつあるスマートフォン向けのアプリケーション『LINE』において送受信されるテキストに着目し、使用される字種、各種絵記号にどのような特徴があらわれるかをグループの人数の差、男女差から明らかにすることである。LINEには、グループ内でやりとりされるテキストの共有が図れる「グループ機能」がっる。この機能を利用して人数の違うグループ4つを設定し、それぞれのグループのテキストを対象に、字種や各種絵記号を分析するテキスト調査と、LINEの使用歴を知るためのアンケート調査を行った。調査の結果、グループの人数によって使用される記号類に違いが見られ、男女差では使用される記号類の他、顔文字の表情について傾向が見えた。

川村菜々生
20代男性向けファッション雑誌の文体比較

従来のファッション雑誌に関する研究は、女性向け雑誌がメインであり、男性向け雑誌は「女性向け雑誌に比べ、文章に工夫が少ない」というのが定説であった。しかし、一言で男性向け雑誌と言っても、取り扱うファッション系統やターゲットとする読者層によって文章にも違いがあると思われる。本研究は、男性雑誌の中から「MEN'S KNUCKLE」「FINEBOYS」「MEN'S NON-NO」という異なる傾向を持つ三誌を対象に調査を行い、それぞれの雑誌にどのような文体的特徴があらわれるかを考察したものである。結果、MEN'S KNUCKLEは語種では他二誌よりも外来語の使用割合が高い傾向が見られた。これは、MEN'S KNUCKLEが従来の男性雑誌の特徴である、「漢語メイン」の語彙から離れていることがいえる。また、語彙の観点から、ファッション系統の違いにより重視されるイメージにそれぞれ違いが見られた。

孫世玉
韓国人の標準語と方言に関する意識-首都圏と慶尚道居住者を中心に-

韓国も日本と同様に方言が存在しており、近年につれて方言に対する意識が変化していると考えられる。本研究では、韓国人の標準語と方言に関する意識を明らかにするため、首都圏と慶尚道居住者を中心にアンケート調査を行った。韓国人の標準語と方言意識を明らかにすることと共に、新聞記事を検索することで韓国での方言に対する価値変遷を調査した。
新聞記事を検索した結果、「方言」に関する記事は、時代につれて件数の増加と共に、内容の変化が見られた。新聞で取り上げられた記事の内容は、国家政策である教育政策やマスコミによって変化していくことが分かった。
韓国人の標準語と方言に関する意識調査では、2010年より「方言」を肯定的に受け取っていることが明らかになった。このような傾向は、教育課程やマスコミの影響を受け、徐々に方言に対する意識がプラスになっていくこととなる。
また、今回の調査では、若年層・高年層より中年層は「標準語志向」が強かった。中年層は、標準語に親しみを感じる比率も高く、標準語と方言の使い分け意識も最も高いことが分かった。現在の中年層は、社会的に最も活躍層であり、標準語教育を最も受けていたことから「標準語志向」が強くなっている結果となった。

田口雅博
2000年代漫才の談話分析―M-1グランプリを資料として―

本稿は、近年の漫才がかつての話芸中心であった漫才とは異なった形態のものが多くなってきていると感じ、その変化の要因を明らかにする為に近年の漫才を題材にし、考察したものである。主な観点として発話数比率や漫才種類、ボケ・ツッコミ種類の出現比率などの面から分析を行った。
結果として、発話比率ではツッコミ役が話の訂正役として正常な存在でなくてはならない為、漫才の会話の進行役を担う分ボケ役よりもツッコミ役の発話比率が多く現れる結果となった。また、漫才で最も重要な要素であるボケ種類に関しては、動きによるボケが最も出現率が高くなった事から、近年の漫才では話芸によるおかしみよりも動きによる笑いを多用した漫才を展開している事が多く、この事が近年漫才のコント化が進んでいる原因だと思われる。

松木彰吾
スポーツ中継の談話分析

競泳・バレーボール・柔道・体操の特性が異なる4競技の国際試合中継を調査対象とし、各競技の役割ごと、また時間帯や被応援者の戦況による差を調査分析した。またスポーツ応援場面における命令表現を明らかにするために、出現する状況やどういった形で表現されるのかの調査も行った。
調査から、どの競技も自国の情報に重きを置く「縦の放送」を行っていることが判明し、そしてスポーツ中継は、中継する競技の「時間軸が存在するか、またその時間軸は明確なものであるか」と「競争者の数」に因って分類されると考えられた。競泳・柔道には試合状況によっての差が生じたが、バレーボール・体操には差がほぼ見られなかった。
命令表現は、体操→柔道→バレーボール→競泳の順に出現しやすいことが分かった。体操だけ別の傾向が見られたが、これは減点方式の競技だからと考えられる。また同じ競技でも、個人戦よりも団体戦の方が緊迫感を高めることになり、命令表現が出現しやすい傾向にあることが明らかになった。