2005年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百二十五輯 掲載論文

三浦紗穂卒業論文平成17年度鈴木賞
「あいづち」の好感度―談話分析と印象調査―
山西由里子特殊研究ゼミナールⅡ
「女子大学生の書き言葉コミュニケーション媒体差表現の男女比較から」
川田千裕特殊研究ゼミナールⅡ
ラーメンズ・小林賢太郎の「コント」について―ラーメンズとその他のお笑い芸人の「コント」における台詞の比較―
穴井沙織特殊研究ゼミナールⅡ
漫画におけるオノマトペ―うすた京介漫画にみられるオノマトペの傾向―

三浦紗穂
「あいづち」の好感度―談話分析と印象調査―

「聞き上手とは一体どのような人のことを言うのだろうか。本稿の目的は、あいづちの表現の調査を通じて「好感度の高いあいづち表現」の定義を見つけることである。談話分析調査は、ラジオ電話相談番組20件の談話を録音し文字化したものを、あいづちの出現率、機能、表現のパターン、タイミングや前の発話との関係などの観点から分析を行った。
調査した20人のあいづち表現は多種多様で、どの調査対象者の聞き方が良いという判定はできなかった。談話分析の結果をもとに行った印象調査も含めた調査結果から導き出した本稿での「好感度の高いあいづち表現」の定義に必要なキーワードは、「明るさ」、「安定したペース」、「多さ=量」、「相手の話は区切りのいいところまで聞くこと」、「表現の豊富さ・わかりやすさ」、「特色」であった。更に、時々相手の言葉の繰り返しや同意の言葉も入れると効果的であることがわかった。

阿部緑
福島県相馬地方の方言の現在―アクセント調査と意識調査―

福島県相馬地方の方言について、発音調査によるアクセント型獲得の状況、およびアンケート調査による方言話者の言語意識や言語行動の両面から検討した。
福島県は、例えば「雨」と「飴」のアクセントを区別しないで話す無型アクセント地域として知られている。方言が消滅し、共通語化が浸透していくことが叫ばれる中、福島県相馬地方の方言話者のアクセントは現在、どの程度共通語化しているのかを探ることが本稿の目的である。発音調査では、福島県相馬地方にも共通語化現象が起きているということが確認されたが、個人差があり、「方言と共通語が共存している状態」であることがわかった。しかし、無型アクセントがなくなったわけではなく、共通語アクセントが広まったわけでもなく、話者のコードシフトの能力が確立したと言える。
アンケート調査では、福祉まで生活する人は福島の土地やことばに愛着を持っていて、それが自然と方言使用につながり、後世にも受け継いでいきたいと思っていることがわかった。

大久保学子
ヴィジュアル系の歌詞の変遷―GLAYを中心として―

ヴィジュアル系と呼ばれるバンドが脱ヴィジュアルをする際にどのように歌詞が変化するのかについて、GLAYを中心におきBOφWY・X JAPAN・LUNA SEAとの比較によって調査を行った。対象曲はシングル曲、調査方法は単位を文節としたテキスト調査である。
語彙・品詞・語種・表記について各バンドごとで分析を行った後、比較を行った。それによってGLAYは昔から使われ続けている語彙を使い、その大衆性によってブレイクを果たしたバンドだといえた。デビュー後とブレイク後の迷走期は彼らにとってはイレギュラーな時期であり、それをやめ本来の自分たちの根本にあったものが出てきたことによってブレイク・脱ヴィジュアルを果たしたバンドがGLAYであった。

奈良武
卓球用具名の研究―ラケット・ラバーの命名法とイメージ調査―

卓球用具(ラケット・ラバー)は各メーカーから様々な性能・性質をもつものが数多く発売されており、消費者には幅広い選択肢が与えられているのだが、同時に選択肢の多さから苦悩も与えられることになる。そこでメーカーは既存製品や他メーカーとの差異を出す努力をするのだが、そのための手段の一つである「命名」に注目したのが本論である。
調査対象はタマス社1993~2005年度版カタログに記載されているラケット・ラバーとニッタク社2005年度版カタログに記載されているラバー全242点である。
拍数発売年を追うごとにばらつきがみられ、拍数が多い商品も出てきた。これは「選手名+○○」「人気商品命+○○」といった命名法が増えたことによるが、他メーカーとの差異を明確にするために、契約している選手や既存人気商品のネームバリューを利用するようになったということがうかがえる。
イメージ調査においては、やはり卓球経験者は自身の経験や知識が優先されたのか、ほぼカタログ通りの結果となった。そして、未経験者の結果では意味上からは自然に関する意味をもつもの、音節上では長音を含む商品が支持された。

四方田麻希子
茨城県取手市における共通語アクセントの受容

茨城県は関東方言と東北方言の境に位置し、福島県などと同様に南奥羽方言(東北方言)に属すると言われる。しかし近年共通語化が進み、伝統的な痴呆方言が失われつつあるのが現状である。その大きな理由としては、マス・メディアによる共通語の普及、都心に近い地理的要因、県外からの転居者が多数流入していることなどが挙げられるだろう。
今回の調査は、茨城方言の共通語化をアクセント研究という立場から見てみようとしたものである。茨城県は無アクセントの地域で、無アクセントとは型による語の区別を持たないものである。例えば共通語県の話者が「雨」と「飴」を「アメ」「アメ」と使い分けるようなことを無アクセント話者はしない。語にともなうアクセント型に対する意識(型知覚)が著しく低い(もしくは無い)のである。
このような本来のアクセント体系が若い年代においてほとんどみられなくなっている。
その様子を有意味語・無意味語、二種類の調査項目を用いて調査した。

穴井沙織
漫画におけるオノマトペ―ギャグマンがにおける少年漫画と少女漫画の比較―

漫画の中のオノマトペというのは、普段私たちが使うものから、漫画の世界独特のものまで、様々なオノマトペが登場する。漫画の中のオノマトペの世界を様々な方向からみていくことによって、その特徴を知るとともに、時代によって次々生み出されるオノマトペに関心をもっていきたいと思い、この論文を執筆することにした。
その中で私は、主体が変わるとオノマトペも変化するのかについて調べたところ、その違いは明らかに見られた。調査対象としたのは【笑い】を表すオノマトペであるが、今回何故【笑い】を調査対象にしたのかというと、人の笑い方というのは様々で、大きな声で笑うものもあれば、含み笑いのような笑いもあるのである。私が普段生活している中でも笑い方に男女の差があるように感じていたため、漫画の中でもそのような違いが現れるのではないだろうかと考えた。実際に調査した結果、やはり【笑い】を表すオノマトペには男女差があり、漫画の中とはいえ普段の私たちの日常生活が反映されているものだと考えた。

宇野津実咲
菓子から見たフォークソング―「ゆず」と70年代フォークソング―

フォークソングデュオゆずと70年代フォークソングの歌詞をそれぞれ文節に区切って、自立語を抜き出し、見出し語・正書法・品詞・語種・表記に分け、Excelを使い語彙表を作成する。伊藤雅光氏の『計量言語学入門』(2002)をテキストとした。
調査した結果、はっきりと浮かび上がったのは、ゆずの文体の特徴が「話し言葉的」で「動き描写的であるということだ。それは、青春をテーマにする彼らが、おのずと導き出したスタイルかもしれない。
他方、おそらくは意識的に外来語や外国語をほとんど使わず、和語が多用されている点も特徴的である。和語の多様は、海外アーティストとの鮮明な差別化につながるはずだ。
海外から大量の音楽が流入する日本において、独自の世界を広げようとする、ゆずの姿勢に触れた思いがする。また、あらためて「ゆず」という純和風のデュオ名とした彼らの「ココロザシ」を少しながら理解できたように思う。

米倉歩美
桜井亜美の語彙から見る作家性―角田光代・純文学・ライトノベルとの比較から―

桜井亜美は「詩的」と評される文章を書く作家である。冒頭に必ず入る比喩表現などは絵画を思わせる。そこで桜井とは対照的な位置にありそうな作家(角田光代)との比較と、ライトノベルの文学賞受賞作との比較で、桜井亜美の語彙から見た作家生を探った。調査項目は品詞分類、分類語彙表を使った意味分類、常用漢字表に記載されていない漢字で、使用した分解方法は形態素である。
全体的には、桜井と各田の二人と、ライトノベルの日日日の間に年代差・経験の差があるように見えた。品詞分類からは、基本的な日本語文章の構成があるために大きい差はなかなか見つからなかった。だが動詞・形容動詞が多い桜井と名詞・副詞が多い角田という差が出ており、言い換えれば人・物の動きに関心を寄せる桜井と、人・物の状態に関心を寄せる角田というようにわずかではあるが『二人の間に差を見出した。また、常用漢字表に記載されていない漢字の調査ではやはりライトノベルが突出して使用しており、桜井・角田より若い日日日らしい特徴もうかがえた。

田中千絵
女性ファッション雑誌新聞広告における語彙分析

どんな広告でもそうだが、ファッション雑誌は特に、限られた文字数でいかに情報を伝えられるか・特集の内容や企画、商品をいかにイメージさせ、興味を引けるかということで、毎回奇異“新(しく造っっちゃった)語”や略語であふれているように見える。それらのことばは、次々と新しく造られ、即興的で使い捨て感の強いものだが、その造語のされ方にはパターンがあるのではないだろうか。たとえば、「夏服」のように「夏髪」「夏肌」 「夏旅」など名詞に何でも季節がつくとか、外来語の形容詞を何種類でもつなげたりとか。
また、対象年齢や雑誌のカラーの違いでその語彙に大きな差があるのではないか。女性ファッション雑誌のことばの特徴を、不特定多数の人の目に触れる新聞広告を調査対象とし、大まかに分けて、語彙(品詞構成)、造語(複合名詞)、文体(文末表現)の観点から論じた。

池田美穂
マンガセリフ中における「関西弁」

マンガのセリフに登場する「関西弁」、これは作者によって意図的に用いられた言葉遣いである。しかしそれを読者は作者の意図通り受け取っているだろうか。また、どの様な印象で受け取っているだろうか。読者の出身地による印象に違いはないのか。「関西弁」へのイメージ、マンガのセリフ中の「関西弁」のイメージをアンケートで調査した。
「関西弁」とだけ示して聞いた質問と、実際にマンガのコマ中で「関西弁」のセリフを示した質問とでは、結果に差があった。またインフォーマントの出身地によって評価に差が出た。キャラクターや、場所によっても評価に差が出た。同じ“マンガのセリフ中に出てくる「関西弁」”でも、読者にあたえる印象は様々だった。