2010年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

鮏川由佳
対戦型少年漫画における役割語の研究

私は、漫画のキャラクターはそれぞれの役割によって笑い声の表現のされ方が異なっていることに気づき、どのようなキャラクターがどのような表現をされているかを知りたく研究を始めた。3年次の研究では、「笑い声」にスポットをあて、笑い声にはどのような役割語があるのか研究した。この卒業論文では、さらに研究を広げ、文末詞表現、自称詞・対称詞、笑い声の3つの観点がどのように役割語の機能を果たしているかを研究した。
今回の調査対象は70年代~2000年代それぞれにおける人気少年漫画のうち、対戦型の漫画とした。理由は、キャラクター色の強いキャラクターが多く、様々な役割語の働きがみられると考えたからである。また、先行研究では男女における役割語の研究が多くなされているが、私はさらに「ヒーローと敵」といったキャラクターの役割や職業における役割語の機能を研究したく、今回の調査対象を選んだ。
調査を通して、漫画においてどのようなキャラクターに対し、どのような役割語が機能しているのか、さらに時代変化によってその機能がどのように変化しているのか、を主要キャラクターのセリフの文末詞、自称詞・対称詞、笑い声を調査・分析し、明らかにした。
また、役割語の研究の中で、「笑い声」というカテゴリーはまだまだ先行研究が少ない。独自の視点である「笑い声」は役割語たりえるかを本調査で改めて検証した。

丸山映美里
謝罪の場面における「申し訳なさ」を伝える時の言語行動

大学生の男女を対象に、親疎・上下関係・性別から分類した6人の相手に対して、「待ち合わせの時間に10分遅刻した」という場面での謝罪のロールプレイング調査を行った。
6人の相手それぞれに、相手が怒っている時と怒っていない時の2場面ずつ調査した。調査では録画を行い、被調査者の発話と身体動作の両方を分析対象とした。分析に際して、「謝罪する相手との関係」「謝罪する相手の機嫌」「話者の性別」の3つの要因から比較を行った。その結果、特に「話者の性別」によって同じ相手や状況であっても謝罪のスタイルは大きく変化することがわかった。男性は「謝罪する相手との関係性」を非常に重要視し、発話・身体動作共に相手によってはっきりと態度を区別する傾向が強かった。謝罪の表現パターンは女性より少なく、ひたすら謝るか責任を認める行動が多く、身体動作でも「苦笑い」や「固い」表情、「頭を下げる」動作などが多いことから、低姿勢でシンプルな謝罪スタイルであることがわかった。逆に、女性は相手によって大きな区別をせず、男性よりも「謝罪する相手の機嫌」を重要視する傾向が強かった。謝罪の表現パターンは豊富で、ただ謝るだけでなく、説明や弁明など他の働きかけを加えることが多く、身体動作でも「笑い」や「手を合わせる」動作が多いことから、多様で明るい謝罪スタイルであることがわかった。の出身地である秋田県の方言使用状況、方言認識状況、方言意識、方言に対するイメージについてアンケート調査を行い、年層差、地域差、外住歴の有無の観点から分析を行った。
方言の使用については、動詞よりも名詞の方言語彙が衰退傾向にあることがわかり、地域差による比較からは中央部の方が方言の使用に積極的で、県南部の特に若年層において衰退傾向が目立つことが明らかになった。
認識については、メディアから発信される方言、伝統的な方言、気付かない方言の順に秋田方言としての認識率が高く、中央部の人の方が気付かない方言に気付いていない傾向が見られた。
方言に対するイメージについては、年層が若くなるにつれて秋田方言に対してマイナスのイメージが多く持たれるようになってきており、県南部より中央部の人の方が秋田方言に対してプラスイメージを持っていることがわかる結果となった。
方言意識では、普段使用している言語を共通語だと意識する人は高年層から若年層にかけて増加しており、今後も若年層における意識・使用の両面での共通語化が進行していくことが予測される。また、方言に対するプラスイメージや方言使用に積極的な意識が、実際の方言の使用や認識に良い影響をもたらすということが考えられる結果であった。

佐藤友深
キャラクター性を持つ音声の特徴と印象分析

本研究では、近年良く耳にする「アニメ声」という言葉をきっかけに、アニメの吹き替えなどで見られる聞き手に大体同じイメージを与えるステレオタイプなキャラクター性を持つ音声の音響的特徴と、その音声がどのような印象を与えていくのかという印象の二つの側面からみていった。セミプロ男女2名による各9キャラクターの演技音声を利用し音響分析を行い、また同じ音源を用いて印象評価、キャラクター一致率の調査を行った。音響分析では各キャラクターで声の高低、抑揚、全体の発話速度と語尾の延伸という点で演じわけが行われており、キャラクターが持つ印象をセミプロ側が意識していることがわかった。またキャラクター一致率では、音声だけでそのキャラクターを認識することが出来るかを見ていった。結果としては認知度の高いキャラクターとそうでないキャラクターの差を比較的はっきりと出すことが出来た。また一致率調査の個人差では、演技や声優などの経験者の方が一致率が高くなるという仮説どおりの結果が出た。

小山裕子
国産乗用車の車名の変遷

国産乗用車の車名の「構造」「意味」「使用される言語」「語頭音」について調査を行った。国内自動車メーカーの乗用車421種を対象とし、乗用車の属性として「発売年」「ボディタイプ」「規格」「ランク」を設けて比較を行った。特に「発売年(発売年代)」に注目し、車名の変遷を追った。また白物家電の「構造」との違いを分析した。
白物家電の構造には「機能名」を重視する時期と「固有名」を重視する時期がみられる。
一方乗用車の構造は、最初期こそ「基本名」が主に使用されているが、1950年代以降「固有名」の使用が圧倒的に多く、「固有名」が重視されている。
1930年代の車名には“車の外見や性能がイメージされる語”が主に使われており、1950年代には“車とは関係のない意味を持つ語”の語の使用が始まった。以後どちらの語の使用も増え続け、今日ではどちらの語も多く使われている。
この他「使用される言語」「語頭音」でも時代別の特徴がみられた。結果、最初期の車名と現代の車名は全く異なる性質を持つ事がわかった。

船山千恵
新潟県新発田市を中心とした方言使用状況の研究

自身の出身地である新潟県新発田市の方言使用状況について年代差と地域差の観点から調査を行った。年代差の比較では、年代が若くなるに従って使用率が低くなっている言葉が多く認められた。その中でも10代の使用率の低さが目立った。地域差の比較では、新発田市若年層と、共通語使用が強い新潟市若年層とを比較した。新潟市は、共通語と語形の異なる伝統的方言の使用率の低さが目立った。新発田20代は比較的方言使用率が高く、職業差が使用に影響を与えていることが予想できる結果となった。
また、新潟県で使用が認められる「プリクラ」を意味する「シール」の分布状況を調査し、新潟県での新物新語の一例を示した。「シール」は新潟県のみで使用されており、なおかつ県内でも使用に地域差があることが認められた。使用不使用の境界が学区や行政区画と一致し、これらの目に見えない境界線が言葉の伝播にも影響を与えていることが明らかになった。また、外住経験の有無が方言認識に影響を与えており、使用の有無にも影響を与えているということが推測される結果であった。

栃原典子

本稿の目的は、現役大学生の携帯メールにおけるテキスト表現に、性別やメールの相手によってどのような特徴や差があらわれるのか、また彼らの携帯メールテキスト作成に対する意識がどのようなものであるか、そしてその意識が実際のメールテキスト表現にどのように反映されているのかを明らかにすることである。調査は現役大学生のみを対象に、ある場面を想定してメールを作成してもらうロールプレイング調査と、携帯メールのテキストに対するアンケート式の意識調査の2つの調査方法から得たデータにより考察する。
携帯メールは書き言葉コミュニケーションの中で最も使用度が高く、今や携帯電話を持たない大学生はほとんどいない。また離れた場所にいる相手とコミュニケーションをとる際に、携帯電話の通話機能よりもメール機能を使って相手に用件や現状報告をすることも多い。また現在の携帯メール作成においては、様々な絵記号やデコレーション機能が使用可能である。特にデコレーションにおいてはテンプレートやデコメール、デコメ絵文字など新しい装飾方法がここ数年急速に普及し、多くの若者に使用されている。特に「デコメ絵文字」がここ数年急速に普及してきた。どのような場面で、どのような相手にデコメ絵文字を使用するのか。現役大学生におけるその使用実態と意識に注目していきたい。また本稿では、今まで携帯メールテキスト分析において注目されることの少なかった男子のテキスト表現の特徴も明らかにする。

廣瀬梨絵
テレビニュースの言語表現における分析―拍数と文末について―

テレビで放送されるニュース番組の原稿に“その局、その番組らしい”と思わせる特徴は表れているのかどうかを知るため、様々なニュース番組の録画と文字起こしをして、テレビニュースの文体調査を行った。できるだけ条件を揃えるために、放送時間がそう長くない平日のニュース番組が調査の対象になっている。
放送局・時間帯・番組放送時間という3つの観点を設けて分析した結果、放送局ではNHKが、時間帯では夜の番組が、そして放送時間は長くとられている番組が、より視聴者の目を意識した『ニュースの娯楽的脚色』を行う傾向にあることが明らかになった。その理由としては、NHKは全都道府県に放送局を設置するなど他局よりも報道に力を入れており、夜は他の時間帯よりも視聴者層が幅広くその時点で入手した一日のニュースの資料も豊富で、放送時間が長いとせかせかとニュースを読む必要がなく視聴者に“みせる”ニュースを作る余裕が生まれるから、ということではないかと考察している。

藤田英美
ギャルブログの文体的特徴-非ギャルブログ・ギャル雑誌との比較より-

ブログは個人の日記や情報発信の役割としてさまざまな目的で使用され、書く人物によって面白い特徴が出る。そこで、個性を発揮してくれそうな“ギャルモデルブログ”を調査対象とし、ギャルブログの特徴を明らかにするために執筆した。ギャルブログの特徴をよりわかりやすく示し、相違点・類似点を見つけるために、“ギャル男モデルブログ”“非ギャルモデルブログ”“ギャル雑誌”の3ジャンルとの比較を行った。
調査の結果、ギャルブログでは「人物の名前」、自分の着る洋服の「ブランド名」、「長音部分」、「促音部分」などをブログ内で多く使用していた。ただブログを派手に飾るだけでなく、特殊な表現や文章を使用することによって「自分」という個性を出そうとしていることがわかった。比較を行うことで、ギャル系モデルの特徴・女性モデルブログの特徴などを発見することもできた。

上坂有佳
音響的特徴と聴覚印象から見た朗読の上手さ

朗読の上手さとは何か、聴覚印象評価と音響分析により上手さの音響的特徴をポーズ・発話速度・基本周波数の観点から調査した。また、専門家と一般の人で朗読音声の特徴が異なるのか、上手さに関わる印象とは何か、かぎ括弧・地の文・心内表現という視点の違いによる特徴の変化について考察を行った。
その結果、ポーズは箇所・回数と長さ、平均休止時間と1ポーズごとのポーズ長のばらつきが上手さに関わり、基本周波数は視点の違いによる変化と、更に1発話ごとの高さのばらつきが上手さ評価の高低に関係する音響的特徴だと考えられた。発話速度は印象面でも音響面でも上手さに関係する特徴は見られなかった。音響分析では専門家と一般の人の間で明確な特徴の違いは見られなかったが、印象調査では一般の人より専門家が上位になり、上手いと判断される傾向があった。また、聞き手が上手いと評価する朗読には「聞きやすさ」「感情のこもり」「メリハリ」等、10項目との正の相関が見られた。これは聞き手が朗読音声を上手いかどうか判断する時に、上手さとは何か、それを構成する要素として多くの聴覚印象の判断を行なっていることを示すものだと思われる。

佐藤良美
話し方から見るカウンセラーらしさ――学生のロールプレイ音声を中心に――

カウンセリングを学習する大学生の音声を分析し、カウンセラー「らしい」話し方とはどのようなものなのかを検討することが本研究の目的である。声の高さ・抑揚・発話スピード・ポーズ・フィラー・あいづちの5項目について学生のカウンセラーとしてのロールプレイと通常の会話としての談話を比較することで、通常会話での発話とは違うカウンセラーとしての発話においての特徴を探る。また、プロのカウンセラーが行なったカウンセリングの音声と比較することでその特徴が学生のみのものでないことも確認する。
分析の結果、カウンセラーとしての発話では通常よりも声の高さが低い、抑揚が小さい、発話スピードがゆっくり、ポーズの頻度と総発話時間に占める割合が大きい、使用が多いフィラーの種類が異なる、あいづちの頻度が高いなどの特徴が表れた。プロの音声でも学生のカウンセラーとしてのロールプレイと近い結果になり、学生のみに表れる特徴でないことも確認された。

吉田悠亮
京都における言語景観

京都の寺社に設置された言語景観に着目し、使用言語の違いや設置の目的から、京都の言語景観の多言語化の現状を調査した。その結果、京都の寺社において多言語化が進行している事が判明した。行政設置の言語景観では日英中韓の四言語使用がメインであるのに対し、寺社設置の言語景観では日英の二言語使用も依然多く見られる事から、寺社の言語景観は日英二言語使用の旧標準モデルから日英中韓四言語使用の新標準モデルに移行している途中であると言える。また、寺社の言語景観においてはピクトグラムや矢印といった記号への情報の置き換えが見られると共に、多言語化が見られるのは規則や注意・警告に関するものが多く言語情報の記号化や多言語化の優先順位が確認された。また、地域によっても多言語化に差が見られ、京都市内の場合、市の中心部に近いほど多言語化が進行し、郊外に位置するほど多言語化の進展が遅れているという事が判明した。

黄宝英
「卒業ソング」の歌詞研究―1971年から2010年まで―

毎年、卒業のシーズンになると、テレビやウェブサイトなどの特集で「流行りの卒業ソング」がよく取り上げられる。その中には、はるか昔の曲からつい最近の曲まで非常に様々な曲がある。また、近年は卒業シーズンに合わせてリリースされる曲も多く、一つの商業的な現象とまで言われている。そこで私は、その卒業ソングの歌詞に、時代による特徴の変化が見られるのではないかと興味を持ち、このテーマを卒業論文の題材として選んだ。
また、時代による変化以外にも、歌い手の性別によっても歌詞の特徴が違ってくることと思い、それを明らかにするための調査を行ってきた。
今回の調査においての分析観点は、歌の長さと使用率の高い語、歌詞に使われてた人称詞と文末表現及び英語表現の特徴に分けている。