2015年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百五十三輯 掲載論文

東川怜奈現代日本語学1
Twitterに現れるヴァーチャル方言―強調表現に注目して―

川瀬剛史
マンガ誌におけるオノマトペ分析─形態からみた意味の比較─

本稿は女性向けマンガ誌、青年向けマンガ誌を対象にマンガ内に登場するオノマトペを抽出し、同じ形態のオノマトペがどれだけ意味をもっており、どう違うのかを調査した。 調査対象は「社会法人日本雑誌協会」の印刷部数公表にて男性向け、女性向けの2ジャンルから発行部数の多いものから順に3誌を選出した。
その後、雑誌の連載漫画に登場するオノマトペを全て抽出し、それぞれ雑誌ごとでの分析、雑誌ごとの比較、女性誌と青年誌の比較を行った。分析、比較では「語分類、出現度数」についての分析、比較と「同形態、異なる意味のオノマトペ」についての分析、比較を行った。
その結果、「擬音語」は同形態のものであっても異なる意味を複数持っていること、青年誌は女性誌よりも同形態、異なる意味のオノマトペが多く見られる傾向にあること、「擬音語」「擬声語」「擬態語」「擬容語」「擬情語」の語分類全てで使用されるオノマトペの存在を確認することが出来た。

佐藤俊樹
山梨西部方言の使用意識―語彙・文法調査を中心に―

本稿は、筆者の生育地である山梨県西部地域の方言について、土地で言語形成期を過ごした方々を対象に方言調査を実施し、その結果をまとめて論じたものである。
調査の目的は、現状の山梨西部方言の位置づけを探ることであり、紙媒体のアンケート形式で「方言語彙」、「方言文法」を中心に、「新方言」や「方言使用意識」を加えた4つの言語内的観点から調査を行っている。また、調査対象者を高年層(60代以上)、中年層(30代~50代)、若年層(10代~20代)ごとに分けた「年代差」をはじめとして、「性差」、「ネイティブ・セミネイティブ」(外住歴の有無)「年代差×性差」の4つの言語外的観点から分析を行っている。
「年代差」での分析を行うと、高年層と中年層の間で方言使用意識と方言使用実態の乖離が見受けられることが分かり、また、「性差」での分析の中で、先行研究で指摘されてきていた男女間での言葉の違いが解消され、近づきつつあることも分かった。

相木榛果
清涼飲料水における商品名の分析―炭酸飲料と茶系飲料の比較を中心に―

商品名とは、その商品のイメージをよりわかりやすく的確に伝えるために重要なものである。また時代とともに商品名そのものの在り方も変化している。そこで、清涼飲料水の中でも市場占有率の高い炭酸飲料と茶系飲料の商品名の構造について調査し、分析をおこなった。
炭酸飲料と茶系飲料ともに、年代を経るにつれて文字数及び拍数は増加の傾向にあった。語種に関しては、炭酸飲料では外来語の使用比率が高く、茶系飲料では外来語と漢語の使用比率が高かった。これは、炭酸飲料や茶系飲料の多くがもともと海外発祥ということが原因であると考える。また炭酸飲料と茶系飲料では近年に近づくにつれ、和語の使用比率が高くなってきている。それに伴い文字種では、ひらがなの使用が年代を経るにつれて多く見られた。構成に関しては、近年では「国産」や「九州産」など日本で作られたことを示唆する地名が多く見られた。また、食味表現も一定の割合で使用されていた。
以上のことから、炭酸飲料と茶系飲料の商品名からは、年代を経るにつれ、①他社の商品と差別化を図る為にその商品や会社独自の特徴を商品名そのものに組み込んだもの②自社ですでに発売された商品との差別化をするため、様々な要素を付け加えたもの③消費者に購買意欲や興味をもたせる為に、商品のアピールポイントを商品名そのものに組み込んだものなどの特徴が見られた。

勝又楓
朗読表現からみた効果的な読み方について―韻律的特徴の分析と聞き手の評価より―

「朗読」は音声言語教育の一環だけではなく、我々にとっても文章の性格にふさわしい読み上げ方や、説得力のある文章内容の伝達技術の向上ができる重要な音読技術であると考える。本稿では、郡史郎(2014)「物語の朗読におけるイントネーションとポーズ-『ごん狐』の6種の朗読における実態-」をもとに文章を朗読する際にどのような表現技術が見られるのかを韻律的観点と聞き手による評価調査から分析し、朗読における効果的な読み方について明確化していく。
プロの読み手と大学生の朗読を比較することで、大学生よりプロの読み手の方が各韻律的観点で自由度の大きい文章の読み方をしていることが分かった。個性の中で伝える技術のあるプロの読み手に対して、大学生は伝えることよりも文章を正しく読む意識の方が強い傾向があらわれた。

千葉楓
学園漫画における優等生の役割語―年代、ビークル、ジャンルを中心に―

役割語とは金水(2003)で定義された「ある特定の言葉遣いを聞くと特定の人物像を思い浮かべることができるとき、その言葉づかいを役割語という」のことを言う。本稿では学園漫画の優等生キャラクターを中心にキャラクターのセリフから自称詞、他称詞について作品の年代、ビークル、ジャンルごとに調査を行った。また優等生キャラクターのステレオタイプ形成を考える上で作品設定や雑誌などの外的要因が造形を考える上でどのような影響を与えているのか調査した。優等生キャラクターは作品上で性格の変化が起きない一貫キャラクタータイプと作品内で悪役や設定などの要因で性格の変化が起こるシフトキャラクタータイプに分けて調査を行った。
自称詞では辞書的な意味合いの優等生キャラクターが多く、「オレ」より「ボク」を使うキャラクターが多かった。また女性キャラクターは「ワタシ」と「アタシ」の同程度の使用頻度であると分かった。キャラクタータイプによって使用する自称詞の比率も違った。
他称詞ではビークルとジャンルの影響が大きく、ラブストーリーではさん付け、くん付け、ラブコメディではちゃん付けが多数使用されていることが分かった。またキャラクタータイプによる使用頻度の差はないことが分かった。 これらの事から優等生キャラクターの使用する自称詞や他称詞には辞書的な優等生のイメージがステレオタイプに求められ、影響を与えている結果となった。

松延篤
テレビゲームのタイトル分析―年代・ジャンル差を中心に―

近年ではテレビゲームとして作られたものがアニメ化や映画化、書籍化されるなど、日本の文化を形成する一つの要素にもなっている。本稿では、1983年から2015年までに発売された様々なテレビゲームソフトのタイトルが日本語社会の変化に伴ってどのように変化してきたのか、また映画や漫画などの作品のタイトルに比べどのような特徴が見られるのかを、語彙、拍数、文字種、語種、品詞などの観点から各年代で比較し、調査した。その結果、テレビゲームソフトのタイトルにおいて、全体の傾向として名詞と助詞が非常に高い割合で使用されていることがわかった。しかし、年代を経るにつれてタイトル表現は多様化、長文化の方向へ進んでおり、2000年代以降を境にその傾向が特に強まっている結果が現れた。その要因について、2000年代のWii、DSの登場で、テレビゲームにおいてリモコンを振る、画面をタッチするなどの実際に体を動かす直感的操作が主流になり始めたことが理由のひとつとして挙げられると考えられる。

三村真由
絵本におけるオノマトペとリズム─対象年齢とジャンルごとに比較─

児童向けに書かれた絵本には特徴的なオノマトペが出現しやすいというイメージが持たれている。そこで、実際にはどのようなオノマトペが出現しているのか分析を行った。
さらに少ない文章量で表現するため、一般的な小説とは異なりテンポを重視した文章構成がされている。言語発達の途中である児童にとって触れる機会の多い絵本ではどのようなリズムで書かれているのかもあわせて分析を行った。本稿では、福音館書店が刊行している月刊絵本『こどものとも』を対象に調査を行い語種、字種、造語かどうか、拍数などを観点に「対象年齢」と「絵本のジャンル」ごとに比較した。
結果として、絵本と文章のリズムには密接な関係性があり、対象年齢が低い絵本ほど拍数が少なく、対象年齢が高い絵本ほど拍数が多くなっていた。さらに、絵本全体の拍数の違いがオノマトペの拍数にも影響しており、繰り返しの回数などにも対象年齢ごとに違いが見られた。また、対象年齢と絵本のジャンルにも関係性が見られ、「事物絵本」や「リズム絵本」というジャンルは対象年齢を低く想定している絵本が多く、使用されている拍数も少ないという特徴があり、絵本におけるオノマトペとリズムは大きく影響しあっているということを明らかにできた。

鈴木陽菜
「別冊マーガレットにおける『女ことば』の使われ方と変遷」

現代の若い女性の日常会話の中であまり使われなくなった「~わ」「~わよ」といったような女性的な終助詞が、少女マンガの世界においてどのように使われているかを調査した。本稿では少女漫画誌『別冊マーガレット』を用いて研究を行った。「わ」「わよ」「わね」「かしら」「体言+ね」「体言+よ」「の(非疑問)「のよ」「のね」「もの(もん)」を「女ことば」とし、その使用キャラクターや使用場面について1970年代~2000年代の年代ごとに分析した。その結果、少女マンガの世界でも、1970年代から2000年代にかけて「女ことば」の使用が減少していることは明らかであった。女性文末詞ごとにみると、1970年刊ではもっとも多く使用されていた「わ」は年代を経るにつれて使用率が下がり、「の(非疑問)」「もん」は年代を経るにつれて使用率が上がっているなどの傾向がみられた。
また「女ことば」はキャラクター性の構築や、感情表現に機能していることがわかった。キャラクター性の構築は、「上司・教師」「お嬢さま」「ライバル」などのキャラクター性そのものを表現するものから、キャラクターが持つ一面を表現するものまで観察された。
感情表現に関しては、1990,2000年刊では「怒り・不満」「悲しみ」「動揺」のような感情を表現するときによく使用されていた。また「安心」「感動」などの穏やかな感情では、1970年刊では「女ことば」の高い使用率がみられたが、年代を経るにつれて使用率が減少していた。

田口陽子
東京都23区の言語サービスについて

日本政府は、2003年から「ビジット・ジャパン・キャンペーン」など外国人誘致を目的とした取り組みを開始し、2015年12月現在で1900万人を突破した。そこで、東京都23区を外国人登録者数や訪日外国人旅行者数などの観点から、さまざまな言語との接触が日本国内において高く期待される地域だと考えて、東京都23区を中心に外国人居住者・訪日外国人に対する各自治体の言語サービスの実態を調査した。
調査に際しては、主に各区役所のホームページを中心にデータを収集した。
その結果、大きく全体の傾向としては観光分野を中心にして多言語化が進んでいること、ホームページの自動翻訳機能は観光協会ホームページと大きな差があること、言語サービスに対応した分類ごとに比較すると、戸籍の分類がもっとも言語サービスに対応していること、サービスの対応言語は、その他言語を含めると概ね外国人人口上位5位までに対応していること、ホームページ以外のメディアではTwitterやFacebookなどの他のメディアの利用も進んでいることなどが分かった。

森真都香
商業施設における訪日外国人に対する言語景観・サービス

近年、観光は日本の力強い経済を取り戻すための重要な成長分野とされ、観光立国の実現に向けた政府による取り組みが実施されている。このような取り組みは、わたしたちの周りの言語景観やサービスにも変化をもたらしているのだろうか。訪日外国人が多く訪れる地域において、百貨店とSCのサービスとその理由を探っていく。
商業施設52店舗の店舗HP・掲示フロアガイド・フロアガイド・多言語対応スタッフ・免税カウンター・祈祷室・外貨両替所・Free Wi-Fiのデータを集め分析したところ、訪日外国人向けの対応に地域差は見られず、業態によって異なることが分かった。同じ商業施設という中でも、3つの業態でそれぞれの特性を見ることができた。商業という売り上げや利益に直結する環境の中では、1年の間にも積極的に使用言語の更新がされていることが分かった。免税カウンター、外貨両替所、Free Wi-Fiのサービスは関連性を持っていることを明らかにすることができた。

朴ジヒョン
韓国のケーブルチャンネル『方言ドラマ』-「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)シリーズ(応答せよシリーズ)」に見る方言を例として-

1990年代半ば以後、韓国はケーブルテレビが急激に成長した。ケーブルテレビの中でも、2006年開局したtvNは娯楽チャンネルとして影響力を拡大し、2012年「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)1997(応答せよ1997)」というレトロ系の方言ドラマが大ヒットした。ドラマが大ヒットした理由の一つとして方言が主役になったドラマであったからだと考えられる。
韓国では、2001年に上映された映画「チング」以後、韓国語社会の人々に方言に対する関心を呼び寄せ、映画界にも大きい影響を与えたが、方言が主役になってヒットしたドラマは出現していなかった。しかし、現在では2012年放送された「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)1997(応答せよ1997)」を初めとして「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)ブーム」というまた新しい方言ブームが起きている。
「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)1997(応答せよ1997)」は新生放送局の歴史の短いテレビチャンネルのドラマで、地上波の長寿ドラマに比べ時代的変遷は分析しにくいが、方言の意識が高まりつつある2010年代を代表する方言ドラマの特徴を見るには意義があると考える。
ここでは「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)シリーズ」に登場する方言キャラクターの人物類型を自己評価し、鄭惠先(2008)の方言に対する人物類型意識調査に比較する。また、「응(ウン)답(ダッ)하(パ)라(ラ)シリーズ」に表れる各方言の独自的な特徴を1.4.の李翊燮(2004)の慶尚,全羅方言の特徴と、1.5.の都守熙(1987)の忠清方言の特徴に比較し、分析を行う。