2019年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百六十五輯 掲載論文

伊豫田里沙現代日本語学講義1
LINEスタンプの方言の語彙の特徴―13道府県のスタンプと公式性のあるスタンプにかんして―

阿部雄一
モータースポーツ実況における談話分析―eスポーツ・スポーツ中継の比較から―

本論文では、eスポーツ実況とスポーツ実況を、談話分析によって比較することで、コンテンツとしての違いを明らかにすることを目的としている。過去に配信されたeスポーツ実況の動画と、スポーツ専門チャンネルの番組を対象にした。
比較には、拍数や発話同士の間や、時間などの数的なデータから、頻出される語の使用頻度や、発話内容ごとなどの質的な部分までを調査した。
結果として、eスポーツ実況では、レースの実況をする時間、頻度などが多く、スポーツ実況に比べ、レースそのものへの注目度が高くなっており、視聴者を見飽きさせないものであったと言える。一方従来のスポーツ実況は、選手やメーカーの情報や、テクニック、技術について知ることなど、視聴者は、試合以外の多角的な情報を得ることができる。またバーチャルでは起こり得ないトラブル、アクシデントなども存在する

小林駿一郎
女性アイドルの楽曲における歌詞分析―1980年代ソロアイドルと2010年代グループアイドルの比較から―

アイドルの人気が高く、「アイドル黄金期」と呼ばれた1980年代と「アイドル戦国時代」と呼ばれた2010年代だが、その形式を見てみるとソロアイドルとグループアイドルといった違いがある。本稿は、80年代アイドル4人と10年代アイドル4グループを対象として歌詞分析から相違点を調査し、西(2017)との比較を行ったものである。
結果として、10年代では80年代に比べ、「僕」といった男性的な自称詞や「よ」といった中性的な終助詞を主に使用していて、歌詞において男性化の傾向にあることが分かった。
また、「僕達」といった複数形の自称詞の使用や聞き手に働きかける語の使用が増加していることから、80年代と10年代における歌い手と聞き手の構造の変化を見ることができ、ソロアイドルとグループアイドルの歌詞における相違点を明らかにした。

佐藤莉香
キャラクターの命名分析―音象徴に着目して―

昨今の命名分析には、架空のキャラクターを対象とした研究が増えつつあり、また分析観点も、命名パターン以外に音象徴に着目した研究が増えつつある。本稿では『ドラゴンクエスト』シリーズのナンバリングタイトル全11作に登場するキャラクターを対象として音象徴に着目し、どのような傾向があるか、またどのような特徴があるかを探るため命名分析を行った。言語内的観点として語頭・語末拍音や濁音有無、半濁音有無や特殊拍有無を設定し、言語外的観点としてキャラクターの性別や種族、タイプ大別やアーキタイプを設定した。分析の結果、どの言語外的観点も最も差が出るのは種族においてであり、そこから細分化して性別・タイプ大別・アーキタイプにおいて差が出ると考えられた。本稿で種族はモンスターかそれ以外という二分類で分析を行ったので、特に特殊拍はモンスターであることを象徴するものであると推測できた。

鄭詒儒
ラーメン店の言語景観と多言語化の現況

本調査は飲食店検索アプリの「食べログ」とミシュランガイド2019から選出した店舗を調査対象として多言語化の具合と言語景観の現況を調査した。外国人観光客が最も訪れた新宿、銀座、浅草、渋谷の四エリアでの総合評価上位店舗とミシュランガイドに選ばれた店舗は、今まで来店した外国人観光客と今年の東京オリンピックによって増加していくであろうと予想できる訪日観光客の来店を備えるために、店舗の多言語化がどれほど進んで、どんな多言語表記をされているのかを明らかにした。
実地調査した結果、どのエリアにおいても多言語化が遅れて、特にミシュランが最下位だった。商品との関係性が高い場所ほど多言語表記がされている傾向があり、日、英の次に中簡の多言語表記が多かった。外的観点では、「立地」が店舗の平均使用言語数を一番大きく影響する要因だったが、駅を中心に影響するのではなく、人が集まる場所や道を中心に、各エリアの平均使用言語数の分布がそれぞれ異なる形になっていることが明らかとなった。