2016年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百五十八輯 掲載論文

楠井愛美卒業論文平成28年度国文学科卒業論文優秀賞
LINEにおけるコミュニケーション―家族グループトークのテキスト分析から―
河瀬結衣卒業論文
学園マンガにおける女性教師の呼称―ジャンル、時代、校種、担当教科による違い―

中澤智徳
言語からみた防災情報のあり方―

国・都道府県・市区町村―地震・水害などの自然災害の多い日本では、災害から身を守るための情報が欠かせない。
過去の災害(特に阪神・淡路大震災、東日本大震災)時、訪日外国人旅行者は自治体が発信する避難指示の内容を理解できなかった事例が報告されているが、近年訪日外国人や日本国内で働く外国人は増加している。また、2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控えさらなる訪日外国人の増加が見込まれている。地震等の経験や知識の少ない外国人に向けて防災情報を提供するにあたり、少数の外国語話者への配慮の必要性が高まっていると言える。こうした現状の中で、防災ハンドブック、ハザードマップなどの多言語化が行われているか、またやさしい日本語を用いているかを国・都道府県・市区町村のそれぞれにおいて調査した。その結果、概ね市区町村、都道府県、国の順に多言語化が進行しており、それぞれの地域に多い在留外国人の使用言語に対応がなされていることが分かった。やさしい日本語についてはいずれの区分においても対応が遅れていたため、今後対応が急がれるだろう。

西啓
東京方言の語彙と言語意識

本稿は、筆者の生育地である東京都のことばについて、アンケートを用い実地調査した結果を、まとめて論じたものである。
調査の目的は、東京都多摩北部及び多摩南部における東京方言の位置付けを発見することであり、多摩北部あるいは多摩南部に位置している公民館を主とした施設の職員にアンケート依頼を行った。アンケートは紙媒体、Web媒体と用意し、「語彙項目」「意識項目」「フェイス項目」で構成している。「語彙項目」は『東京ことば辞典』、『東京都言語地図』、『東京・神奈川言語地図』、三井(2014)を参考とし、「意識項目」は鑓水・三井(2016)、「フェイス項目」は昨年度の筆者が実施したアンケートを主な参考としている。
分析は、東京都生育者であると推測可能なサンプルを用いて、全体として「語彙項目」「意識項目」を分析したほか、「フェイス項目」の年代、性別、生育地域とクロス集計を行い、フェイス属性の差異や変遷などの分析を行った。また、生育地域とのクロス集計については、フリーソフト「QGIS」を用いて言語地図を作成することで行った。
結果、年代差では音訛語彙において勢力縮小が多くみられ、反対に、語尾における連母音の長音化は勢力の衰えが見られなかった。その他本調査で用いた俚言語彙の多くは勢力衰退傾向にあることが分かった。性差では、近年の方言コスプレ、また女性の方が新方言に敏感に反応しやすいという傾向から、非標準語形の語彙で男女差異が多くみられると考えたが、実際には全体を通して使用率が30%程度であり、あまり大きな差異は見受けられなかった。また、男性優位を示した語彙もあった。生育地域では、みられたパターンとして東京都全体的傾向、多摩北部顕著傾向、多摩南部顕著傾向、多摩南北境界顕著傾向の4パターンがあったようだ。全体として、先行研究で述べられている傾向を同様に示した語彙が多かったが、引用した文献が約30年程前の文献もあり、古い文献の語彙は比較的勢力縮小傾向にあった。

平山直人
商業施設の言語景観・言語サービス

近年、訪日外国人による利用が増えている商業施設では、その外国人のためのサービスが求められていく。本稿では、訪日外国人の利用数の多い「空港免税店」「百貨店」「コンビニ」「ドラッグストア」に狙いをしぼった。地域は同じく訪日外国人の利用数の多い「新宿・大久保」「銀座」「浅草」を対象とし、各商業施設における言語景観・言語サービスの調査し、分析・考察を行った。 業態・地域での比較では、訪日外国人の利用数の多い順で平均使用言語数が多いという結果になった。しかし、「免税カウンター」においては銀座がもっとも多くなっており、外国人がその地域を訪れる目的が大きく影響を与えているサービスであることがわかった。
サービスでは免税ガイド、店舗HP、フロアガイド、多言語スタッフで5言語以上による対応が多く見られた。これらは利用者が直接利用する機会が多いという共通点を持っており、多言語化が行われる際の1つの傾向がみられた。

山之井徹
新聞記事における方言

日本語の「方言」は時代により、その「方言」に対しての見方や用いられ方が大きく変動している。また新聞記事はその性質から、当時の時代背景や注目を集めた話題を如実に示すものである。そのため、新聞記事から「方言」に関する記事をみていくことで、「方言」への価値観の変動をより詳しく確認できるのではないかと考えたため調査を行った。
読売新聞と朝日新聞で分析を行った。ともに方言を扱う記事数は増加傾向にあった。新聞記事の中では、読売新聞で方言に関する特集記事が多くみられた。特集が組まれた背景には、地方や方言に関心が集まるできごとが起こっていたことが要因としてあった。
また、方言に関する記事で取り上げられることの多かった地域は、「東北・近畿・九州・沖縄」が取り扱われることが多かったまた特に朝日新聞では「沖縄」を多く取り上げており、読売新聞と比べた際により大きな関心があるといえる。
沖縄県が出現した記事の内容として、キーワード検索での記事の内容では、読売新聞のみの分析ではあるが、同時期の他地域の記事内容と比べると違いがみられた。1972年3月4日の記事では、「裁判で沖縄方言を話すことを禁止される。」といったニュース性の高い内容の記事が取り上げられることが多かった。全文検索では、近年になるにつれ様々な内容の記事がみられた。一方で全文検索では、近年になるにつれ様々な内容の記事がみられた。
今回の調査で「方言」が新聞記事内で地位を獲得したことがわかり、今後も方言に関する話題が出た際に、その扱われた様々な観点から「方言」が新聞記事で取り上げられていくといえるだろう。

河瀬結衣
呼称からみる学園マンガ

会話の中で使われる自称詞や対称詞は、その話している相手との関係性をよく表す。アンケートやインタビュー等で、理想の教師像や呼称についての調査が行われている。「マンガが子どもの意識を強く反映して」おり、「アンケートとは別の視点により、現実を反映した教師イメージが描き出せる」という金子(2000)の指摘から、本稿では、学園マンガの中に描かれている教師の「自称詞」「対称詞」に焦点を当てて、ジャンル、年代、校種、担当教科の視点から、その影響を探った。自称詞は、男性教師キャラは「おれ」を使うキャラがどの観点からも多いのに対し、女性教師キャラは「わたし」「あたし」を使用する2パターンに大きく分けられることが分かった。
対称詞は、男性教師キャラの対同性と対異性ではあまり大きな差はないが、対して女性教師キャラは対同性でと対異性では、例えば「姓さん」「姓くん」など、付属する言葉に違いが現れた。

東川怜奈
Twitterにおける敬語使用の実態―誤用敬語を中心に―

現在、数多くの日本人が利用しているTwitterにおいて、誤用敬語を中心に敬語の使われ方について用例調査を行い、そこに現れるであろう使用方法の違いや誤用の原因などについて分析を行った。文化庁文化部国語課『国語に関する世論調査』を参考に、調査されている誤用表現、解説に掲載されている正しい表現に加えて、その敬語表現を最もシンプルな表現に直し、尊敬語化・謙譲語化・尊敬語化したものに尊敬の助動詞を追加・謙譲語化したものに尊敬の助動詞を追加するなどして計38表現を調査表現とし、それぞれを含むツイートを、ツイート形態・キャラクターか否か・企業/団体・性別などの観点で分類し、調査を行った。また、『国語に関する世論調査』での誤用意識と比較することで、誤用敬語の使用意識と使用実態の違いを考察した。
その結果、Twitter上での使用量は、基本的に正しい表現、もしくは形式上誤用ではあるものの許容されている表現が、誤用表現よりも多く出現する結果となった。『国語に関する世論調査』の結果との比較からは、使用意識と使用実態が一致している、「誤用だと分からずに使用してしまう表現」「誤用だと分かっており使用されにくい表現」と、使用意識と使用実態が異なる「誤用だとは分かっているが使用してしまう表現」「誤用だとは分からないが使用されにくい表現」、それに加え、いずれにも当てはまらない、誤用であるという意識が高いとも低いとも言えず、Twitter上での使用も多いとも少ないとも言えない表現の5つに分類できた。また、誤用表現には定型文的な使用も見られ、誤用ではあるが固定化された言い方として人々に浸透している様子がうかがえた。

吉岡衆
味覚評価の表現日本酒とワインを対象に

山本博(1986)では日本酒の味覚表現について、「ワインの味覚表現については、専門家の間で概念が統一化された用語があり、そのかなりのものがワイン・ブックなどで紹介され、一般にも使われている。……日本酒も同じように専門家の間の術語があるが、一般に使われているのはごく僅かである」としている。それを受け本研究はワイン、日本酒を対象に味覚評価の表現や用語についての調査を行った。
雑誌一般誌(学術雑誌、企業誌、団体・協会誌、同人誌、地方雑誌を除く)に掲載されているワイン、日本酒それぞれ雑誌20誌の、記事先頭から10件(※1)、合計200件ずつのレビューコメントを対象に、色、におい、味わいの3つの観点それぞれでのワイン、日本酒の特徴を分析した。
においの表現では、ワインと日本酒とで差異が見られた。用例数や語彙数からはワインにおけるにおいの重要性がうかがえる。においを表現する際には素材表現が大変多く用いられる。しかし、思い付きのままに比喩がなされているのではなく、表す特徴や程度で用いる語がある程度決まっているようだ。これは、色のように出来の良し悪しの違いだけを判断するものでなく、熟成度合や製造工程の違いが香りの個性として現れ、消費者の趣向に大きく関与するものであるからではないか。

井上義幸
ボーカロイド楽曲の特徴―J-POPとの比較から―

近年ニコニコ動画等の動画サイトを中心に多くの支持を集めている「ボーカロイド」であるが、その背景には従来の歌謡曲とは異なった語彙の用いられ方があると考えた。そこでJ-POPを比較対象に据え、どのような違いがみられるか調査した。
調査対象は、タイトルに関してはそれぞれ合わせて696曲分、歌詞に関しては合わせて198曲分を抽出した。抽出に関してボーカロイドは「週刊ボーカロイドランキングまとめ」のサイトを使用し、J-POPはiTunesランキングを使用した。
結果としてボーカロイド楽曲は従来のJ-POPの傾向を踏襲しつつも新しい試みがなされているジャンルであると分かった。踏襲している例としては、タイトルにおいて漢語使用率が低かったことや、歌詞における頻出語彙の上位が共通している点が挙げられる。一方で異なっている点は、秒間あたりの拍数がボーカロイドのほうが多く早口である点や、頻出語彙で「目」「顔」「声」といった体のパーツを具体的に表す語がボーカロイド楽曲で多く使われておりヴァーチャルな存在であるボーカロイドを身近に感じさせる工夫がなされている点が挙げられた。

楠井愛美
LINEにおけるコミュニケーション―家族グループトークのテキスト分析から―

ここ数年で急速に普及したコミュニケーションメディア「LINE」は、若者の間では既に連絡手段としてなくてはならない存在となっており、最近では若者だけではなく幅広い年代で利用されている。スタンプや既読表示など、携帯メールなどのこれまでのメディアにはなかった新しい機能を備えたLINEでは、新たなコミュニケーションの方法がみられると考え、多くの人が共通して持つコミュニティーである「家族」のグループトーク履歴を分析した。
33家族分のグループトークの分析の結果、LINEでの一発言の文字数は1~10字が最も多く1時間以内に返信が行われることがほとんどであり、速いスピードで短い文のやりとりが行われる場合が多いことがわかった。また、スタンプは誕生日などのお祝いの際に多く用いられ、家族グループ内でも遊びの要素が強い「スタンプの送り合い」がみられた。家族内で誰の発言が多いかは各家族によって様々だが、全体的に長男の発言が少なく母、長女の発言が多い傾向がある。LINEの家族グループは帰宅時間や夕飯の相談といった連絡に使われる場合が最も多く、子どもが実家住まいか否かは、トーク内容や更新頻度に大きく関わってくることがわかった。