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8.3.個別分析(平山直人)

広島弁キャラクターの印象が広島弁の方言ステレオタイプとどう差があるのか見ていく。さらに性別・ジャンル別に見ていき、それぞれでどのように広島弁が使われているのか注目していく。私は、広島弁を話す女性キャラクターを担当する。

表3 各キャラクターとステレオタイプの比較

表3 各キャラクターとステレオタイプの比較

【染谷まこ(咲-saki-)】

染谷まこは豪気な性格であり、3年生である部長に対してもタメ語で話しかけている。広島弁を使いタメ語で話しかけているため、「男らしく」威厳のあるように感じ、実際より年齢が上であるように感じた。ステレオタイプと比べると「怖い」以外のステレオタイプに当てはまっているということが分かった。このキャラは作中において麻雀の内容について解説することが多い。主観なのだが、麻雀は男性がやっているという印象が強い。その麻雀用語を広島弁=「男らしい」ということを利用し、女性キャラに話させることで違和感を少なくしているように感じた。作中の舞台が長野県であり、序盤では周囲のキャラはほとんどが標準語を使っている。その中に一人広島弁を使うキャラがいるため、その側面から見ても「男らしさ」を利用するために使っていると考えられる。

【由崎多汰美(トリコロ)】

由崎多汰美は明るい性格であり、中学の頃は陸上部であり活発な子である。苦手なものに勉強、料理とある。このキャラ紹介をみると男らしさがうかがえる。しかし、実際はステレオタイプにまったく当てはまらなかった(表2)。このキャラでは「女らしい」、「可愛い」といったステレオタイプとは真逆の印象が読み取れた。それは

地方出身のアイドルが方言丸出しで話す番組が大人気になり、あちこちに「方言萌え」の男子が出現しました。今、大学生の間では地元の方言を話せる者のほうが優位であり、共通語しか話せないのは″ザンネンな人″という捉えられ方になっています。(田中ゆかり2015)

とあるように、今は方言も萌えの1つの要素となっているためである。そしてキャラクターの出身地と作者の出身地が同じことから、実際の広島弁の印象により近く自然な会話を表現していると考えられる。後に「神咲七海」の考察で述べるがラブコメの場合、女の子の萌え要素として使っているが、学園ものという日常的な描写をするこの作品においては、自然な会話の表現のための道具という点が強いと考えられる。

さらに舞台は長織市という架空の市であるが関東近郊に位置すると設定されている。周囲のキャラクター3人は「丁寧語」・「大阪弁」・「関東弁(時々)」とさまざまな言葉が使われている。漫画を読み進めていくとキャラが良く似ているということがわかる。わざわざここまで言葉を分けているのはキャラクターの区別をするためではないかと考えられる。

【ステラ(荒川アンダーザブリッジ)】

イギリスからやってきた少女であり、表は素直な子だが、裏は広島弁を話すヤクザのような子というスイッチキャラである。登場当初は標準語に近い言葉を話し、語尾は片仮名で表現することで外国人が日本語を話すときのように表現されている。しかし、裏のステラは広島弁を脅すように話している。「怖い」という印象を「かわいい」の裏につけることでただ怖いということではなく意外性という面でおもしろさも付加している。そのためステレオタイプにほとんど同じという結果になった。しかし、方言を話すということを本性であるとすることでキャラが恥ずかしがったり、悔しがる時に純粋さや子供っぽさがよりよく読み取ることができた。この作品の舞台は荒川河川敷ということから埼玉県もしくは東京都だと思われる。主人公を含め、周囲のキャラはほとんどが標準語を話している。その中に広島弁を使うキャラがいれば当然印象が強いのだが、染谷まこや由崎多汰美のような狙いはないように感じる。広島弁という「女らしさ」と逆の「男らしさ」を持つ言葉を使うことでスイッチキャラという二面性を表現するための道具として使うことを可能にしている。

【神咲七海(君のいる町)】

神咲七海はおとなしく控えめな性格で、料理が好きで特にお菓子作りをよくする。先に述べた由崎多汰美とは対称的な性格をしており、いかにも「女らしい」キャラクターである。ステレオタイプと比較するとまったく当てはまらなかった。これは、ラブコメというジャンルにおいて可愛い女の子が求められているためであり、先に述べたように(田中ゆかり2015)広島弁を萌えの要素の1つとして使っている。さらに男性キャラは作中において広島弁を日常的に使用していたが、女性キャラは標準語に近い言葉に時折広島弁を使うという形をとっているように感じた。これは「共通語しか離せない人はザンネンな人」と思わせて要所で方言を話す「方言萌え」を好む男子を狙ったものなのだと考えられる。

「可愛い」だけでなく、「あたたかい」「素朴」といった印象も読み取ることができるが、これは作中の地域と作者の出身地、作品の舞台が同じであるため、よりリアルに近く人間らしい表現がされているように感じる。神咲七海と由崎多汰美の調査結果は似たものになったが、由崎多汰美は日常的な描写のための道具として使われており、神咲七海は「方言萌え」を表現するための道具として使われていた。「学園」と「ラブコメ」というジャンルによる差も読み取ることができた。

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