2007年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百三十一輯 掲載論文

小西郁穂特殊研究ゼミナール
会社名の時代的変遷―表記、拍数、命名方法などの観点から―

日本大学国文学会『語文』第百三十二輯 掲載論文

金田芙久美卒業論文平成19年度鈴木賞
会話中に発生するフィラーについて自然談話調査と場面別談話調査から

稲川健太郎
弓道用語の認知度調査とwww調査

弓道用語がどのように社会に知られているかについて、アンケートによる対人調査とインターネットによるwww調査を行い、認知度を調査した。アンケートでは弓道用語を100語抽出し、一問2点として200点満点で計算。弓道経験者と武道経験者、未経験者による認知度の違いの比較や、単語による認知度の高低、単語によってどの項目に傾倒があるかなどを把握した。www調査では『日本国語大辞典』で転じての意味を持つ弓道用語を、ホームページではどのような使われ方をするのか、弓道としての意味と転じての意味のグループ分けをした上で、それぞれに日記、解説、掲示板、ニュース、作品、品物の項目分けを行った。結果として一般的な日本行事等に使用される単語の認知度が高く、次いで転じての意味を持ち慣用句として使われる単語、弓道で射を行う際に必要とされる用語、道具の部位の名称と続く。

清水和佳子
語彙から見たMr.Childrenとスピッツの歌詞の比較

Mr.Childrenは1992年のデビューから、2007年現在までたくさんの名曲を生み出してきた。1994年の「innocent world」の大ヒットによって、彼らの存在・楽曲は多くの人に認知された。MrChildrenが音楽を聴き始めるきっかけになったという人も多い。彼らの音楽の魅力は何かと聞かれると、「歌詞」と答える人が多い。そんなMr.Childrenの歌詞も、時代とともに激しい変化を遂げてきた。彼らの楽曲を7つの期に分け、その歌詞の変遷を辿った。また、同じく90年代初めにメジャーデビューを果たし、90年代中頃にブレイクを果たした男性4人から成る同世代のバンドにスピッツがいる。このスピッツの歌詞とも比較していく。昔から何かと比較されることが多かったこの2バンド。多くのリスナーに支持され続ける彼らの魅力を「歌詞」の面から比較・分析し、探った。Mr.Cildrenは文末や一人称などで、リスナーを共感させるような手法を多用していた。また、スピッツは英語の使用が極端に少なく、他のバンドと大きく違った。

福田亘宏
英語になった日本語―オックスフォード英語大辞典と広辞苑の比較から―

本稿の目的は英語に取り入れられた日本語について調査、分析を進め英語圏の国で日本語はどのように理解され、どう使われているのかということを考察することにある。今回、 オックスフォード英語大辞典第二版と広辞苑第五版を調査対象とし、「定義の優先順位」「意味分類」「品詞」「初出年」の4つの観点からの比較・分析を行った。つまり、「英語になった日本語」とはここではオックスフォード英語大辞典に記載されている日本語のことを指す。「定義の優先順位」からは英語になった日本語の25%にずれが見られる結果が得られた。また「意味分類」からは日本原産や日本の文化を色濃く反映している物質・物体が多く英語化されていることがわかった。「品詞」を見ると英語になったときにずれが生じる語は6%のみであった。「初出年」を見ると『History of Japan』が発刊されたのを受け1727年に多く日本語がOED2に出現していることがわかった。

松下裕美
トーク番組における敬語の使用状況―「テレフォンショッキング」と「徹子の部屋」の比較から―

トーク番組における敬語の使用状況を調査することで、敬語の現状をみると同時に、世間の敬語に対するその影響性を読み取っていくことを目的とした。「テレフォンショッキング」と「徹子の部屋」に出演した30代の人物を対象に、尊敬語・謙譲語・丁寧語・美化語の使用について調査を行った。分析では、男女比較と職業比較の二つの方法をとり、番組内でそれぞれの比較を行った後、番組間での差を同じように比較・分析をした。職業比較では、芸能人の専門分野(お笑い、役者など)に沿って発話者を分類し、職業的な特徴や違いをみていった。結果として、男女比較・職業比較ともに、尊敬語・謙譲語の使用が多いと丁寧語・美化語の使用が少なく、尊敬語・謙譲語の使用が少ないと丁寧語・美化語の使用が多くなるということがわかった。また敬語の誤用は、敬語使用が多い属性ほど誤用も多かった。

村上みなみ
オネエタレントの言語使用―テレビ番組の談話分析とイメージ調査から―

テレビ等で目にすることの多くなったオネエタレントは言わば近頃のブームであり、オネエタレントだけを集めたバラエティー番組が放送されたりオネエタレントであるIKKOが「どんだけー」という台詞で流行語を取ったりと大活躍している。その一方、オネエタレントが使用しているオネエことばを耳にする機会はバラエティー番組がほとんどであることに気付き、オネエことばの持つ特徴とイメージに注目することとした。談話調査の調査対象はタレント業とは別に本職を持っているオネエタレントとし、タレント時とカリスマ(本職)時のことばづかいについて比較した。アンケート調査では親世代と子世代の、特にオネエことばに対するイメージの比較を行った。オネエタレントはオネエことばのイメージが良くない中オネエことばを使用していること、そしてそれ故にオネエことばの場面による使い分けを余儀なくされているということがうかがえる結果となった。

吉原麗
mixi日記と現代雑誌の文体比較

近年、ブログを凌ぐ勢いで急激に利用者数を伸ばしているSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)。mixi(ミクシィ)は、そのSNSの中でも日本で最も利用者数が多い、代表的なサイトである。そもそも、このSNSとは、「人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型の会員制のサービス。あるいはそういったサービスを提供するWebサイト」を指す。(以上「」内はwikipediaより抜粋)。mixiには、コミュニケーションに必要な様々なコンテンツが用意されている。mixiの日記(以下、mixi日記と表記する)はその中の一種である。本論文では、mixi日記の文体が、どのような特徴をもっているのかを知ることを目的とした。子世代と親世代の男女の「全体に公開」されている日記を対象に調査を行い、一般的な文章である現代雑誌との文体比較をすることで、これを計量的に分析した。

柴田雪乃
マイナス表現の言い換えについて

本研究は言葉に対する意識・表現の傾向を探ると共に、かつての流行語の行方を見ることを目的として調査を行った。また、調査協力してくれた人達にとって、言葉を考えるきっかけになってほしいというねらいを持つ。結果として、使用する際より使用される際の方が抵抗感が高く示された。言い換えの傾向として、「ちょっと」や「あまり」等の、程度を低める働きをする語が加えられたり、語尾を伸ばしたり、敬語化したものが多く見られた。

金田芙久美
会話中に発生するフィラーについて―自然談話調査と場面別談話調査から―

フィラー(言いよどみ)はどのような場面において発生するのか、またなぜ発せられるのかという疑問から調査・分析した。調査は、面接・インタビュー・ロールプレイング場面(料理レシピ説明・乾杯の音頭)での場面別談話調査と、テーマによる談話を行う自然談話調査の2種類行った。前者は調査者との対面調査、後者は親疎のペアによる談話調査である。2種類4場面での調査の結果から、女性は男性よりも話す場面でフィラーを使い分けている事が分かった。また「エー」と「ナンカ」というフィラーは対極にあるフィラーであることが分かった。「エー」はより公的な場面に用いられ、相手が一人よりは大勢の前で話す時に多く用いられる。「ナンカ」はより私的な場面で用いられ、話す相手は異性よりも同性の方が出現しやすいと言う結果が得られた。

磯田哲平
相撲用語の研究―辞典類との比較とwww調査―

財団法人日本相撲協会監修のもと出版された『相撲大事典』をテキストとし、その中から300語をランダムにピックアップ。その300語をデータベースとした。そして3つの相撲事典とゲーム内の事典との比較、日本国語大辞典との比較を行い、収録語数の違いや意味のずれなどを調べた。そして検索サイト「google」を用いてwww調査を行い、その用語が相撲としての用語で使われているのか、または一般で違う用法が使われているのかを調査した。分析を行った結果だが、事典によって用語の収録数や基準が違うのはもちろん、意味などの違いも見られた。www調査では相撲ではなく一般での使用例が一番多いといった語句が非常に多く、相撲用語の幅広い使用例を見る事が出来た。

澤入菜摘
新しい強調表現の実態―若者向けテキストとアンケート調査から―

関西地方在住者が普段の生活に使用している「関西弁」と、私がテレビで聞いている漫才師が使っている「関西弁」は、同じものなのか。メディアの普及によって、「関西弁」の漫才が全国で見ることが出来るようになった。しかし、「方言」を多用していると関西弁を使用しない人々には伝わらない。では、彼らは全国に自分たちの「笑い」を自分たちのスタイルを崩さずに、どの様に伝えていったのか。という疑問から、関西出身の漫才師の話すことばが世代別にどの様に変化していったのかを論じた。その結果として、『関西弁』から『関西弁風のことば(=吉本弁)』を話すようになったからであるということが分かった。さらに関西弁の観点だけではなく、拍数(30秒間に何拍しゃべるか、笑い時間との関係)やあいづち数(数と内容)の観点からもアプローチをし、世代やコンビ別の違いを論じた。

服部久美子
対人コミュニケーションにおける状況別言語表現―話しことばと書きことばの二方面から―

本稿の目的は、相手へ配慮する言語表現がどのような場面でどの程度表れるのかを調査し、何らかの特徴を見出すことである。話しことばと書きことばの二方面から探っていくため、談話ロールプレイ調査と携帯メールロールプレイ調査を行った。二つの調査で、思い浮かべる相手やシチュエーション内容によって緩和表現/フィラー/前置きの出現に変化がみられたことから、話しづらい状況で出現するこれらの言語表現は、「配慮表現」「気配り表現」と呼ぶことができると思う。男子は緩和表現とフィラーを多く用いて相手へ配慮し、女子は、前置きを多く用いて相手へ配慮することがわかった。話しことばにおいて顕著に表れた特徴は、男女ともに「親しくない女性」が最も話しづらい相手であるということだ。さらに、頼みごとや誘いを断る場面よりも相手自身のことについて意見をする場面で配慮の程度が大きくなるという傾向もみられた(「性格の改善を伝える」シチュエーションでことば数が最多。)携帯メールでは、フィラーより前置きの出現の方が多く、話しことばに近いといわれる携帯メールでの書きことばらしさが表れた結果となった。

宮崎左知子
若者のオノマトペ表現における独創性―ライトノベルとオノマトペ産出実験からの分析―

専門辞書・辞典に載らない独創的オノマトペについて、調査媒体の内容によって出現する数や種類などに差異が生じるか、また辞書記載のある既存の慣習的なオノマトペと比べてどのように独創的なのかを特に語形を観点にして調査した。その際、テキスト調査ではオノマトペが現れやすいとされる中高生向け小説であるライトノベルを内容の異なる2種類のレーベル雑誌ごとに比較し、アンケート調査では田守(2001)の創作実験で使用された空所補充型のアンケートをモデルに作成したものに高校生とその親世代が相応しいと考えたオノマトペを産出させ、比較した。独創的オノマトペはやはり、内容や世代によって現れる数や種類に差異が見られた。そしてその語形は、辞書記載のあるものを元々の基本形として、そこから追加や脱落、置換したものや、基本形がなくても慣習的な日本語オノマトペと同様に特殊拍や「―り」を含んでいたり、語幹や一部分を反復させていたりしていて、体系化が図れない全く新しいオノマトペは多くみられなかった。