2017年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百六十二輯 掲載論文

吉田直人卒業論文平成29年度国文学科卒業論文優秀賞
ターミナル駅・主要空港における言語景観

渡辺しおり
タカラジェンヌの芸名の変遷

兵庫県宝塚市に小林一三が作り上げた「宝塚歌劇団」は、2014年に100周年を迎えた。
この宝塚歌劇団の舞台に立つ役者は通称タカラジェンヌと呼ばれ、在団中は必ず本名ではない芸名と愛称を使用する。本研究では、そのタカラジェンヌの芸名の特徴を明かにするため、文字数、拍数、字種などのさまざまな観点から探っていきたいと思う。
宝塚歌劇団とは、女性でありながら男性を演じる「男役」の役者と、女性が女性の役を演じる「娘役」の役者に分かれているという独自のシステムがあり、専属の音楽学校を卒業した未婚の女性のみで構成された劇団である。その特殊で華やかな世界観は、今や日本の文化の一つとなり、近年では海外公演や地上波放送に出演するなど活躍の範囲も広がっている。
宝塚歌劇団では入団と同時に芸名が付けられ、在団中はその芸名を名乗り、舞台やメディアで活動することとなる。いわばその芸名とは、宝塚歌劇団に所属する女優としての自分のアイデンティティを表す重要な存在である。そのため、「龍真咲(りゅうまさき)」や「実咲凜音(みさきりおん)」といったような、一見して一般人の名前ではないとわかるようなその特殊な芸名には、なにかしらの共通点があるのではないかと考えられる。それらの特徴を文字数や使用されやすい文字種、頻出漢字等を調べることで、明らかにしていこうと思う。今回の研究では全体の傾向とともに、年代による違いや男役と娘役での違いはあるのか、ということも研究していく。

鳥羽美由樹
特撮主題歌の歌詞研究―ウルトラシリーズ―

本稿は特撮ヒーロー番組、その中でもウルトラマンのシリーズの主題歌に焦点を当て歌詞の文体分析調査を行ったものである。ウルトラマンは特撮ヒーロー番組の中でも最も歴史が長いもののひとつであり、主題歌も数多く存在する。それらの歌詞が子供向け番組の主題歌という特性を持つことで、歌謡曲やJ-POPとは異なった歌詞構造や時代による変化を遂げていると考え、その実態を調査した。
調査に際しては、『ウルトラマン主題歌大全集』から歌詞を入手した。その中から地上波で放送されたシリーズの主題歌を選出し、年代ごとに分析を行った。
結果として、歌謡曲やJ-POPと大きな傾向は変わらなかったが、「ウルトラマン」というワードが多用されていることや「未来」「夢」「光」「愛」といった前向きなワードが多いということが分かった。また、昔は子供たちがウルトラマンを呼ぶ歌や応援する歌が多かったのに対し、近年ではウルトラマンの目線で子供たちに語りかける歌が多いことが分かった。

鈴木美優
「道の駅」の駅名とキャッチコピー

「道の駅」とは「休憩機能」「地域の連携機能」「情報発信機能」の3つの機能を持つ、国道や主要な地方幹線道路沿いに設置された施設である。地域の特産など様々な要素が「道の駅」の名称やキャッチコピーにも反映されているのではないかと考え、テーマを選定した。
駅名については、文字数の長さと語数の多さは必ずしも関係があるとは言えなかった。また駅名に使用されている字種についてはローマ字が最も少なく、いずれの地方においても平仮名又は漢字を使用した駅名が多い結果となった。
一方でキャッチコピーについては文字数と頻出語については各地方で差が見られたが、「延べ語数/異なり語数」は地方間でほとんど差が表れなかった。頻出語の上位語には抽象的な語が多く占めるが中部地方などは具体的な特産品名が目立つ。基本機能に加えて特産品販売所としての役割もキャッチコピーに表れている。

徳田萌乃
Twitterにおけるスマイリーの使われ方

絵文字は、携帯メールの頃から使用されはじめ、現在はスマートフォンの普及やSNSの浸透を通して世界中で使用されている。本研究では、多くの人が利用しているSNSであるTwitterを使い、世界共通の文字コードであるUnicodeに対応している絵文字の中から、人の顔を表現した絵文字「スマイリー」の使われ方について調査を行った。調査開始時に発表されていた75種のスマイリーから25種を選択し、収集した計3000ツイートをスマイリーの前後2つの形態素に分け、分析を行った。
その結果、装飾的な使用や句読点の代わりの使用、配慮表現としての使用など、情報伝達の1つの手段として重要な役割を担っていた。これらの特徴は、携帯メールにおいての絵文字の使われ方の研究と同様の傾向が多くあった。ただ、スマイリーと他の絵文字との併用も多くみられ、感情をより丁寧に表現している傾向にあった。これはUnicodeに登録されたスマイリーを使用する点とスマイリーの種類の多様化の点から、他社間での文字化けがあった携帯メールより、正確に感情を伝えやすくなったからであると考えられる。また、Twitterの字数制限や匿名性の高い人間関係の中で、記号・絵文字を用いる事で効率よく感情を発信するために使用されると推測された。

遠藤あかり
グルメガイドブックの表現

山口治彦(2005)は「料理エッセイや食品紹介記事のたぐいでは、当該の味覚経験を持たない読者(聞き手)が存在する。このような状況では情報の送り手と受け手のあいだに知識量の著しい差が生まれる。」と述べている。このことを受け、グルメガイドブックではどのような表現がなされているか調査を行った。調査対象は『東京いい店うまい店』シリーズのグルメガイドブックである。本調査では味・におい・見た目・食感・素材(料理)に関する表現と、店舗や料理人に関する表現を調査観点とした。
調査結果は読者に分かりやすく、イメージしやすいような表現が多く見られた。具体的に示すのではなく簡潔に述べるものがほとんどであった。また、グルメガイドブック内の記事執筆者と読者が実際に訪れた時とでは異なる可能性があるためか、視覚表現は少ない結果となった。店舗や料理人に関する記述内容では、おいしさを表す語彙を使用せずとも味を想像させ店舗へ訪れたいと思う内容であった。

斉藤里奈
遅刻場面における大学生のLINEコミュニケーション

現代社会では、メール機能やSNSが発展し、若者は様々な方法でコミュニケーションを行っている。特に、2011年にサービスが開始されたLINE株式会社によるメッセージアプリ、LINEは近年急速に発達し、サービス開始して3年後の2014年には20代の約6割が利用するSNSに進化した。LINEを使用する場面は、雑談、必要事項の連絡等様々あるが、一番LINEの機能を生かせ、なおかつ非常に多くの人が使用しているのは待ち合わせの際であろう。また、そのLINEに相手への配慮や工夫が用いられるのは謝罪の際であると考えた。その2つが同時に見ることができる場面として、遅刻場面を考えつき、その場面について分析を行った。
結果、文体は常体のみで構成されているものが多く、絵文字、顔文字、スタンプ、画像はあまり使用されないことがわかった。また、最初に謝罪を述べてから遅刻連絡を行うデータが多い。ただ、遅刻者、相手の性別によって傾向性が大きく異なることが分かった。

長島広朗
列車の愛称

特急をはじめとした列車には「特急あずさ」「急行はまなす」のように列車種別の他に列車名(列車の愛称)が付けられている列車が多く、それらは年代、運行会社、列車種別、定期運転か臨時運転か、運行時間帯などによってそれぞれに適した愛称があるものだと仮定し、そのネーミングの特徴及び傾向の分析を進めていくことにした。
列車の愛称は様々な目的に合わせて名付けられることが多く、1日限りの運転だとしても利用客を獲得するために文字数、文字種、構成において工夫がなされている。
その中で、列車の愛称らしいものを定義づけるとすれば、条件を踏まえていくつか考えられる。新幹線は平仮名だけで3文字主流というのは今後も変わらずに続いていくと考えられる。特急は文字種に限定はせず、文字数が定期運転であれば2文字から4文字で、臨時運転であれば文字数が増えていくことが考えられた。ビジネス用や観光用と目的がはっきりとしている場合は1つの列車名に宣伝材料として伝える情報量が増え、文字数が7文字を超える傾向にあることが新たに分かった。

金子允也
お笑い芸人の芸名

世の中には様々な商品名があり、商品の特性などを分かりやすく伝えるために様々な工夫がなされている。芸名も言わば自らを売り込んでいくための商品名のようなものである。
特にお笑い芸人の芸名では一見しただけでお笑い芸人であると分かるような特徴的なネーミングがされているように思う。そこで過去から現在に至るまで活躍したお笑い芸人を対象に、本名・本名以外の芸名に分け分析を行った。
文字数・拍数では全体では本名・本名以外共に平均に差は見られなかった。しかし本名以外の芸名では文字数・拍数の最小値最大値に開きがあり、かなりばらつきがあることが分かった。経年によるトレンド変化については特に見られなかった。文字種に関しては、本名以外の芸名においてかなり多様な文字種の組み合わせによって名付けがなされていることが確認された。基本的に使用される文字種は、漢字・ひらがな・カタカナが主でローマ字の使用は少なかった。年代ごとの文字種の組み合わせ割合の変化では、ひらがな・カタカナの使用が年代を経るごとに増加しており、漢字の使用がやや減少しているという傾向性が見られた。また構成によっても文字数が長くなりやすいもの、短くなりやすいもの様々であり、好んで使用される文字種も構成ごとに差があった。
以上からお笑い芸人の芸名ではその他様々な芸名とは異なり、文字数・拍数は長いものから短いものまで様々で、文字種も非常に多くの組み合わせのバリエーションで使用されるなどとにかく多様で自由に名付けのなされている芸名であった。

吉田直人
ターミナル駅・主要空港における言語景観

全国の訪日外客へ向けた案内における多言語政策の現状と課題を実地調査によって明らかにすることを目的とし、訪日外客が国内回遊の出発点とするターミナル駅・主要空港計17施設を分析の対象に選定、全国の対象施設において多言語対応度の調査を行った。
結果として、表記言語に関しては駅で日英二言語を基準に標準モデルも交えた表記を、空港で標準モデルもしくは標準モデルに中国語繁体字を加えた五言語表記を中心に多言語案内を行っていることが判明し、2014年、15年に多言語案内表示における表記言語の基準が定められたとはいえ、未だ規定に沿わない表記形態の多言語案内表示が地域を問わず多数存在することが判明した。一方、音声言語に関しては、日英二言語の対応度が全国的に高く、他に対応度の高かった中韓の言語は、駅は東日本、空港は西日本地域の施設において高水準の対応状況にあることがわかり、こちらは施設・地域間の差が明確に表れる結果とった。また、ピクトグラムの規格やサインシステムの統一に関しては、大規模かつ構内が複雑な構造を有する施設であるほど不統一の傾向が顕著にみられることが判明した。