2014年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百五十一輯 掲載論文

小澤真冬卒業論文
キネマ旬報ベスト・テンに見る映画タイトル分析

日本大学国文学会『語文』第百五十二輯 掲載論文

石井駿生卒業論文
埼玉県公立中学校の校歌の歌詞分析―環境語に注目して―
大谷早希卒業論文
長野県の昔話に現れた方言―語り始めと語り終わり―

石井駿生
埼玉県公立中学校の校歌の歌詞分析

本稿は埼玉県のすべての公立中学校を対象に校歌の文体分析調査を行った。
校歌は学校ごとに様々な工夫を凝らした、多彩な校歌が制定されている。しかし、ほとんどの人間は自分の学校以外の校歌を目にすることは無い。そこで、地域や制定年によって校歌の歌詞に差が生じるかを明らかにするために調査を行った。 調査に際しては、各中学校の公式HPから校歌を入手し、掲載されていない場合には郵送で問い合わせて校歌のテクストデータを入手した。
その後の分析では校歌の制定年ごとに1940~1950年代・1960年代・1970年代・1980年代以降と4つのグループに分けた。また地域別では市町村別に東部・西部・中央部・北部と4つのグループに分けて分析を行った。
時代別の変化を見ると、校歌の文体は新しいものになるにつれて口語体の割合が上昇していた。また、地域別にみると学校の周囲の環境描写の際に使用される語には地域差が見られることが判明し、自然環境が乏しい地域では環境描写の代わりに理想の生徒像などが歌われていることがわかった。

小澤真冬
キネマ旬報ベスト・テンに見る映画のタイトル分析

1950年代から現在に至るまで、日本語社会ではさまざまな変化が起きている。日本語社会における変化は、映画のタイトルにもみることができるのか、映画のタイトルにはどのような特徴があるのか。本研究では、そのことを語彙、拍数、品詞、文字種、語種などの観点から明らかにしていく。また、洋画における原題と邦題はどのような関係にあるのか。いくつかのパターンに分類し、全体の傾向や年代による違いがあるのかということを本稿では探っていく。
映画のタイトルの長さは、ばらつきはあるもののどの観点からも差異は見られなかった。品詞は、日本映画と外国映画のどちらにおいても名詞と助詞が圧倒的に多く使用されていた。文字種・語種では日本映画と外国映画で使用率の割合に大きな差が見られた。年代を経るにつれて外自語・カタカナの増加が見られ、日本語社会で起きている変化と同様の変化を映画のタイトルにも見ることができた。翻訳パターンは原題由来のものが圧倒的に多く、冠詞「The」が抜け落ちてしまうことが多いということを本研究で明らかにすることができた。

唐木田之愛
「美しい」と「きれい」、「醜い」と「汚い」の意味分析

「美しい」と「きれい」、「醜い」と「汚い」の4つの語に関して、辞書上の意味と、使用例での類義関係・反意関係について考察した。 辞書比較では7万字以上を掲載する辞書15冊を用い、各語が持つ一般的な意味を明らかにし、「美しい」と「きれい」、「醜い」と「汚い」がどの点で同じであり、どの点に違いがあるのかを調査した。
また、gooブログ検索を用い、各語が名詞を修飾する場合の使用例を200件ずつ調べ、そこで用いられた意味と、後続する名詞の違いについて分析した。
辞書上の意味では「きれい」が「美しい」の意味を内包する形となっており、「きれい」の方が多義的であるが、ブログ文書での使用例を見るとあまり差は出ないことが分かった。
「醜い」は辞書上の意味では人の容姿、または心・行いの見苦しさが主な意味であり、「汚い」は不潔の意味が主であるが、ブログ文書での使用例を見ると、「醜い」は人の容姿にかかわるものが多く、「汚い」は不潔の意味よりも品のなさやあくどさを表す文での使用が多いことが分かった。

清水涼平
アメリカ映画の上映予告チラシにおけるキャッチコピーの文体分析

外国映画を鑑賞させるために、どのようなキャッチコピーを用いて興味を持たせており、そのキャッチコピーには、どのような文体的特徴があらわれるのかを分析していった。 結果、1キャッチコピーあたり平均1~2文で構成され、文字数は12~24文字であるという結果が得られた。延べ語数・異なり語数では、1キャッチコピーあたりにおける延べ語数は8語、異なり語数は2語という結果が得られた。頻出語では、各観点において特徴があらわれた。語種と文字種では、和語、漢語の使用が多く、ひらがな、漢字の使用も多いという結果が得られた。記号の使用率では、1キャッチコピーあたり平均2つの記号が使用されており、2つ以上の記号が使用される場合は、感嘆符の重ね付けがほとんどである。品詞の使用率では、各観点において名詞の使用率が高いという結果が得られた。MVRを使用したキャッチコピーの文体では、ほとんどのキャッチコピーが動き描写的文章であった。

昔農聡子
ご当地キャラのネーミング

近年、さまざまな場面においてキャラクターやその着ぐるみを目にする機会がある。それらのキャラクターはモチーフにしているものがあったり、アピールしたい事物が盛り込まれていたりと何かを表象する役割を担っており、そのようにして皆それぞれ外見や名前が各々個性的に特徴づけられている。本論では「ゆるキャラグランプリ」(http://www2.yurugp.jp/ranking/)の2010年大会から2013年大会までにエントリーしているご当地キャラと企業ゆるキャラを含めた全てのキャラクターを対象に、その名前について注目しネーミングにおける特徴とその傾向について考察した。
それぞれの名前の字数、拍数、字種、敬称の有無、記号の有無の5つの項目について全体の傾向を探り、キャラクターの所属する地方はどこであるか、性別はどうであるか、企業ゆるキャラであるかご当地キャラであるか、個別のキャラクターかユニットを指す名前かという観点で分析した。その結果、ほとんどの項目において、各観点において大きな差が出ることはなかった。しかし敬称の使用の性別差は顕著に表れ、女性と設定づけられているキャラクターには多く敬称が用いられることがわかった。

高塩夏彦
女性ファッション誌の文体分析-記号とスラングを中心にー

女性ファッション雑誌の文体は扱っているジャンルによって、どの様な特徴があるのかを明らかにするために『FUDGE』『egg』、『non.no』の三誌を、それぞれ「モード」、「ギャル」、「カジュアル」というジャンルの代表として選定し、調査を行った。
観点は記号、スラングを中心に1文の文字数、修飾語、ファッション用語、ウケを意識した文などを見ていった。
結果として、スラングはギャル雑誌で多く使われ、逆にモード雑誌には皆無であること、使用される記号の種類や、文末に入る記号などによって雑誌がキャラクターづけされていること、モード雑誌は1文の長さが秀でて長いこと、全てのジャンルの雑誌でファッション用語のほとんどが外来語だったこと、モード雑誌の修飾語は保守性や落ち着きを重視しているのに対して、ギャル雑誌は明るさ、カジュアル雑誌は可愛らしさを重視していることなどが明らかにできた。

原田大輔
ライトノベルの帯に見られる文体的特徴―一般文芸作品の帯との比較から―

本の帯の文章に着目し、純文学などの本格的な文芸書の読書習慣があまりないような人からもライトノベルが読まれる理由を明らかにするため、ライトノベルの帯のキャッチコピーの文章はどのような文章で、それは他の文芸書の帯の文章とどのように異なっているのかという分析を行った。
本稿では「頻出語」「語種」「品詞」「文字種」「記号」「ルビ」「文体」(文字数、文数など)の7つの観点で分析を行ったが、一般文芸作品のキャッチコピーと比較した時、ライトノベルらしいキャッチコピーとは、外来語や漢語の「アニメ」、「TV」、「弾」といった語を用いて、既に一定の人気があることを誇示して宣伝するタイプと、「ファンタジー」、「魔王」といった、若者にとって馴染みの深い語を用いて自レーベルの作風の特色を売りにしようというタイプに大別でき、いずれのパターンにおいても基本的には5W1Hを述べる形の文章が多く、また文章が会話などの引用文の形である場合も多く、カタカナ、英字、記号が多い、一般文芸作品よりもやや短い文章であることがわかった。

樋口菜美
ファッション雑誌における色彩表現

近年、ファッション界では商品の色彩を表現する際、外来語を用いた色彩語を頻繁に使用しているようである。現代に至るまでに色彩表現はどうような変化を遂げてきたのか、女性向けファッション雑誌を取り上げ、語種・字種・構成・修飾語を主な観点として、色彩表現の<経年比較>と<雑誌間比較>を行うことで考察した。 結果、2000年代から2010年代にかけて「外来語」および「外来語+外来語」の割合が増加。それに伴い「カタカナ」「カタカナ+カタカナ」の割合も増えていった。ここでの増加幅は高年層向けよりも、若年層向けのほうが大きかった。さらに、構成・修飾語においても若年層向けのほうがバリエーションが豊富であることが分かった。
全体として、雑誌のジャンルよりも年代と対象年齢層の相違が、各調査結果の相違に最も大きく関わっており、それぞれの流行色・定番色、色彩語に対するイメージなどに大きく左右されている結果となっていた。

仲宥人
高校野球マンガにおける役割語

本研究では、高校野球を題材とした漫画作品を調査対象とし、そこに登場するキャラクターのセリフの自称詞、文末表現について、作品内での立ち位置別に調査を行なった。また、キャラクターのセリフだけでなく、性格や外面的特徴についても注目し、キャラクターのセリフや設定が、「キャラクター造形」にどのように影響を与えているのかを考察した。
調査したキャラクターは主人公・ヒーロー、主人公・ヒーローが所属するチームのヒロイン、監督、マネージャーとした。
自称詞では、性別に左右されるキャラクターが多数を占めた。男性は男性語の「ぼく」「おれ」、女性であれば女性語の「わたし」「あたし」の使用が多くみられた。
文末表現では、助動詞「だ」+助詞、終助詞、否定形に注目して考察したが、最も顕著に差が現れたのは否定形で、「ない」、「ねえ」、打ち消しの助動詞「ん」のいずれかに各キャラクターの使用が偏る結果となった。

大谷早希
長野県の昔話に現れる方言

昔ながらの方言を知る方法の一つに、昔話の語り口を調べてみるという方法がある。語られた言葉がそのまま記録される昔話は、実際の方言調査にも負けない方言データであるといえるだろう。長野県は昔話の保存に積極的であり、方言の特色が県内でも5地域に分かれるので、県内の方言を比べてみるだけでも面白い。
昔話の始まりと終わりの決まり文句である語り始めと語り終わり(形式句)、それに加えて注で捕捉されている方言を調べてみることで、長野県の方言を知ろうとした。
昔話の形式句からわかったことに、県の中央部(城下町)では形式句がないものも多く、あったとしても共通語のような形であった。県の周辺部(山村地域)では形式句が独特なものとなっていた。注付の方言に関しては、おおよそ長野県の方言的特徴に準じた結果となった。

佐藤裕太朗
「少年マンガのタイトルの変遷」

本稿の目的は、少年マンガというマンガの中では隆盛はあるが、学問としてあまり日の目を見る調査対象として成り立つ事のなかったジャンルでの変遷を調査する事で、より身近な言語に対する変化や、それがどのように変わっていったのか等の変遷を調査する事と共に現在の社会的情勢を踏まえマンガという文化の理解、保存の一助になるようにと考え、1950年代以降から2010年代の10年区切りで調査を行った。字数の中央値が年代を経るにつれ増加傾向が明らかに確認できるのに対し、拍数については変わらないという結果が見られた。また、字種での比較では、1950年代から1970年代までは全く比率が同じような結果であったが、1980年代以降ではアルファベット表記の増加が確認できた。それに伴いひらがな、カタカナ、漢字が減少傾向であったが比率の大幅な変容は見られなかった。記号については「!」がすべての年代で確認できたが、2010年代に近づくにつれ使用比率も減少するという傾向が確認できた。外国語出自としての言語使用率は参考文献と同じような2000年代までの増加傾向と2010年代での減少傾向が確認できた。

冨塚健弘
小学校国語教科書に現れるオノマトペ

小学校国語教科書の「読むこと」単元に現れるオノマトペにはどのような特徴があるのか明らかにする為、文部科学省が認定している出版社5社の内、大阪書籍を除く4社を(学校図書、教育出版、東京書籍、光村図書)調査対象とし、分析を行った。
その結果、オノマトペは3~5学年の物語・小説のジャンルで多く出現する傾向が見られ、その多くのオノマトペはひらがなで表記されており、カタカナを使う場合には、その作品を特徴付けるような印象付けとしての用いられ方をしている事が多かった。更に、それらのオノマトペの多くが、擬容語という生き物の音のたてないものを音によって象徴的に表すオノマトペであった。これは、物語・小説のジャンルの作品では、人や人以外の生き物が登場することが多く、それらの動きをオノマトペによって特徴的に表現している為、出現数が上がったのだと考えられる。このように、オノマトペの出現には、作品の文章量や作品ジャンルに強く影響されることが分かった。