2020年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百六十八輯 掲載論文

益子有紗現代日本語学講義1
商標登録された「方言」

岡本有加
文化施設における言語景観―日本と台湾の比較を通じて―

年間入館者数上位の文化施設を選出、実地調査のデータ分析を行い、多言語政策の現状を明らかにしていくことを目的とした。また今回は比較対象として台湾の文化施設についても同様に調査を進めた。
調査の結果として、日本では今回の対象施設全5施設のうち3施設が世界の美術館・博物館来場者数ランキングにおいて高い順位であることや、立地、周辺環境、展覧会の開催状況のなどから、外国人観光客の来場が見込める施設であるため、どの項目においても全体的にみると多言語対応されていた。英語だけでなく、中国語簡体字や韓国語の導入率も高く、政府の掲げる基本的な多言語化の考え方や標準モデルは定着しつつあると考えられる。その一方で、台湾、香港、マカオが主な使用地域である中国語繁体字の使用に対しては消極的であることが判明した。パンフレットでは1施設、ウェブサイトでは2施設が中国語繁体字の使用を行っていたものの、施設内の視覚言語総数102のうち繁体字が使用されている掲示物は0であった。台湾の訪日外客数は中国、韓国に次いで3位、香港は4位となっており、できるかぎり簡体字と繁体字の併用が望ましい。また、明確なガイドラインが存在しない台湾の文化施設に比べると平均言語使用数は多くなっているものの、國立故宮博物院と比較をするとパンフレット、ウェブサイトや音声ガイドなどの解説媒体は不十分である。特にガイドツアーについて日本は、開催頻度や対応言語数からみても消極的であることが判明した。

海老名大陸
言語景観からみる東京オリンピック・パラリンピック―関連施設とサイト調査から―

2020年7月に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックは、新型コロナウイルスの影響で1年延期になった。本来であれば、開催される会場や駅の言語景観の現地調査を行うことにしていたが、安全面などの理由から現地調査を断念した。新たな調査として東京オリンピック・パラリンピックに関する「Webサイトの言語景観」を調査する。さらに、Googleストリートビューを使用し、開催される会場と駅の言語とピクトグラムを調査する。
ホームページ調査の対象は、東京オリンピック・パラリンピック、開催される都道府県、開催される市区町村、各競技団体のホームページ合計94サイトとする。Googleストリートビュー調査は東京オリンピック・パラリンピックの全42会場と駅を調査する。駅は会場のアクセシブルルートを調査する。

齋藤岳
国産ビール系飲料のネーミング分析

本稿では、ビール大手4社(アサヒ・キリン・サントリー・サッポロ)とクラフトビールの商品名を対象とし、それぞれにどのような特徴がみられるかを明らかにするためにネーミング分析を行った。言語内的観点としてそれぞれに語種や固有名詞、商品名の構成などを設定し、言語外的観点として大手4社に対しては発売期間やジャンルなど、クラフトビールに対しては企業タイプなどを設定した。分析の結果、ビール大手4社のネーミングでは発泡酒や新ジャンルといった近年のジャンルの多様化に伴い、メーカー名とキーワードを用いた単純明快なネーミングから、ビールらしさを持たせたシリーズ名頼りのネーミングに変化したという特徴がみられ、クラフトビールのネーミングでは企業タイプ問わず「ビール」と直接表示してしまうのが主流で、商品を特徴づける地名などの要素、ラインアップを表すビアスタイルや色合いを表す語で商品名を構成するという特徴がみられた。

山﨑奈央
学校における呼称―場面・関係性を中心に―

何と呼ばれるのか。人からどう呼ばれるのかはいつの時代でも対人関係で重視され、これが自分と相手との関係性を知る方法の一つである。相手との関係によりどの呼称を選ぶか悩む人も少なくないだろう。本稿では学校における呼称についてアンケート調査を行い、場面や関係性によってどのような呼称で呼ばれることが多いのか、違いが表れるのか、ニックネームの構成はどのようなパターンがあるのかを探った。調査結果ではクラスにおいて、一般的な関係性では姓か名に敬称や「ちゃん」がついた呼称・ニックネームで呼ばれることが多いが、親しい関係性では呼び捨てかニックネームで呼ばれることが多いということがわかった。部活においては先輩や同期からは呼び捨てかニックネームが多いこと、後輩からは「先輩」「さん」で呼ばれることが多く、同性か異性かによっても違いがみられることがわかった。ニックネームの構成の分析では姓か名の変形・省略が多かった。いずれのニックネームは呼びやすいもの、リズムや語感が良いものが多いことがわかった。

仲宗根亮佑
商店街の言語景観

2020年に開催予定であった東京オリンピックを見据えて、国や関係する地方公共団体、民間の参画の元に官民一体で多言語対応を推進するため「2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会を設置した。外国人旅行者の円滑な移動、快適な滞在を目指して「言葉のバリアフリー」を早期に実現できるようにしている。一方で小売業の多言語対応には遅れが見られたことから「小売業の多言語対応」という公式ホームページを開設し情報提供を行ってきた。「小売業の多言語対応」では迅速かつ効率的に多言語対応を進めるため小売業であれば業種等を問わずに対象となっており、単店舗や大型商業施設、商店街で利用可能な手引きとなっている。
日本の街には様々な店舗などが集まった商店街が存在しており、訪日外国人や在留外国人が増加しており多言語化への対応を迫られる状況となっているが、日本の買い物環境や文化・風習に不慣れな訪日ゲスト、居住外国人への対応がどの程度まで多言語化対応することで調査分析することで明らかにする。

山中倫子
米のネーミングと味覚表現の分析

米は日本の主食の代表である。昨今では1000種以上品種があり、そのうち食用となる品種はおよそ300種であると言われている。米は縄文時代に渡来し弥生時代から食されていることから、名付けもおおくされていることがわかっている。また、近年では、スーパーや米販売店で米を購入するよりネット通販を通して購入する人もいるという。説明なしに自分にあったおいしいお米を探すのは困難であるため、ネット通販においてどのような説明書きがなされているのか気になったため、米のネーミングと共に、米のおいしさ表現についても調査を行った。米のネーミングでは文字数、拍数、文字種、使用頻度の高い語彙をそれぞれ全体、時代、育成地、育成者、交配関係の観点に分けどのような傾向になっているのかを検討、米のおいしさ表現では品詞比率と頻出単語を観点に形態素解析を行った。結果、米のネーミングにおいては時代、育成地、育成者では違いが見られたものの、交配関係においては関係性が薄いことがわかった。米のおいしさについては、触覚においての表現が重視されていることから、味としての表現ではなく、触覚が米のおいしさにおいて軸となっていることがわかった。

鈴木理奈
痛みを表現するオノマトペにおける言語感覚の分析

病院にかかったときに「痛み」という主観的な感覚を相手になるべく適切に伝える為に8割以上の人がオノマトペを使ったことがあるとされ、痛みを理解してもらえた実感をもったことがあるとされている。しかし我々の生活に馴染んだ表現方法も、方言や個人的感覚により伝わり方のニュアンスが変わってしまえば本来の利便性を発揮しないであろう。
逆を言えば、感覚を言語化し、普遍性を見出すことができればコミュニケーションの円滑化を望める。また、外国人などの非母語話者が困るシーンも減少させることができる。
そこで本稿では痛みを表現するときに使われるオノマトペに焦点を当て①辞書的な意味の比較②言語感覚が確立している大学生以上の人を対象にアンケートによる意識調査③現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)を用いて収集した用例の分析以上の3点の軸を設けて多角的な分析をした。調査結果は、おおよそ性差や年代に影響されることなく語彙のイメージやそれに伴った場面での使い方に傾向があるということを見出すことができた。

松尾桃花
アイドル歌手の歌詞分析―80年代ソロアイドルと10年代グループアイドルの比較―

現在の「アイドル」という言葉が定着したのは70年代後半であり、80年代にはアイドル黄金期と呼ばれ、多くのソロアイドルが活躍をしていた。2010年代以降ではグループアイドルが世間から人気を博し活躍している。そこで本稿は、80年代の男性・女性ソロアイドルと、10年代男性・女性グループアイドルを対象に、ソロ・グループアイドルの違いや特徴、変化、性差などを見るため特に自称詞・対称詞、終助詞に着目し形態素解析を用い歌詞分析し、比較・分析を行った。結果として語種と自称詞・対称詞では大きな性差、年代差を見ることが出来た。終助詞でも差を見ることが出来たが、大きな差というものはあまり見ることが出来なかったという結果であった。

峰島大貴
スポーツチームのネーミングとチームの公式サイトの言語景観

東京オリンピックの開催決定に伴い、スポーツに注目が集まるようになった。そこで、チーム名、チームの公式サイトの言語対応について調査し、スポーツ界における言葉のあり方について調査した。
調査の結果、文字数に関しては、男子チームより女子チームの方が多くなっていた。チーム名の由来となった語の原語の観点では、競技ごとの出自による違いがみられ、特にフットサルは「フットサル」の語源とされているポルトガル語、スペイン語がチーム名に多く使われていた。構成要素の観点では、サッカーや野球のようにプロ化が進んでいる競技では地域名を含み、また、アマチュアのスポーツでは、組織名、特に企業名が含まれてい ることがわかった。
チームの公式サイトでは、あまり多言語化が進んでいなかった。しかし、サッカーと野球においては比較的多言語化が進んでいた。サッカーにおいては東南アジア諸国の言語やヨーロッパ圏の言語に対応していた。また野球に関しては、中国語、韓国語に対応していた。

日本大学文理学部国文学科田中ゼミ集合写真