2024年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介
平松真凜
質問紙調査に基づく大学生の一人称の使い分け」
-相手との関係性に着目して-
首都圏生育の首都圏の大学に通う学生の一人称の使い分けの実態についてGoogleフォームを用いて調査を行った。そこから現在の大学生が男女、親疎、対面かLINE、関係性の四つの観点によってどの程度意識して使い分けているのかを使い分けスコアを基に考察した。結果として一人称を意識して使い分けているのはほとんどが男性であり、使い分けスコアが高い人の中でも場面に応じて満遍なく使い分けを行うタイプの人と、特定の場面で使い分けを行う人に分類されることが明らかになった。そこで先輩に対する一人称は同輩、後輩に対して使う一人称よりも意識して使い分けられていること、初めて話す先輩に対しては「じぶん」や「ぼく」を使用し、親しくなると「おれ」の使用が増加するという点は共通していたが、初めて話す同輩に対して三つ以上の観点で使い分けている人は先輩の時と同じフォーマルな一人称を使用しているが、二つ以下の観点で使い分けを行っている人は初めから全員が「おれ」を使用しているという違いが見受けられた。つまり、二つ以下の観点で使い分けを行っている人は必要最小限の使い分けを関係性の観点で重点的に行っていることが判明した。
松本一駿
城の言語景観と言語サービス
本稿では観光地として外国人観光客が多く訪れている小田原城、大阪城、熊本城の三つの城で言語景観、言語サービスでの調査を行った。どの城でも日本語、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語での表記のみ見られた。その中でも日英の表記が基本となっていた。中国語簡体字、韓国語は25%前後見られたが、中国語繁体字はどの城でも使用率が低くなっていた。また、アプリや音声ガイド使った言語サービスがあり、番号を打ったり、QRコードを読み取ると解説動画が五つの言語で視聴できるようになっていた。
日本の城の多言語化は進みつつあるということがわかった。さらなるインバウンド増加による経済効果を大きくするためにも多言語化はこれからもしっかり進めていくべきだと考える。
亀井美希
マンガ『名探偵コナン』のオノマトペ
オノマトペは日常生活でよく用いられるほど日本語の中で身近な言葉である。話す際にも使用されるが、より使用されやすい環境はマンガであろう。マンガは実際に音を表すことが出来ず、文字と絵のみで表現する環境であることから実際の音や感情を表すオノマトペが使用されやすい。そのようなマンガのうち、1994年から現在まで長年愛されており、著者青山剛昌本人が「殺人ラブコメ漫画」と称する『名探偵コナン』を対象として、2ジャンルの要素を持つ『名探偵コナン』ではどのようなオノマトペが使用されるのか、分類・文字種・形態の三つの観点において調査・分析を行った。結果として、カタカナでの出現が多い、打撃音「ドッ」「ガッ」や走る描写などが出現することが多いということが明らかとなった。これらは、『名探偵コナン』が推理マンガであり、殺人といったストーリーであることが要因であると考えられた。このように、推理マンガというジャンルを存分に使用しながら現れるオノマトペと出現場所の関係で使用されるオノマトペがあることが分かった。
佐藤悠祐
秋田県北部生育者の方言使用意識
本稿では秋田県北部生育者に限定し、子世代と親世代とを比較し、その方言の使用意識がどの様に変化するのかを、性別、現在所在地、秋田県や秋田弁への好悪といった観点から場面や相手を想定したアンケートに回答したものを元に分析を進めた。
結果としては子世代、親世代共に、家族や同郷の友人に対しては高い方言使用意識が見られる反面、県外出身の友人に対しては、その使用意識は低くなることが確認された。なお、県外出身の友人に関しては男女で大きな差が見られ、特に女性は各世代共に50%台に落ち込むのに対し、男性は6割弱から7割弱が方言を「よく使う」、「使うことがある」と回答し、男女の大きな変化はここに見られることが明らかとなった。
方言の使用意識に関しては最も高いのが親世代の男性となりそこから、親世代女性、子世代女性、子世代男性となった。ここでは当初たてた仮説、男性の方が高い使用意識を見せるのではないかというものは、親世代に限ったものであることが分かったが、その差は微々たるものであり、県外出身の友人に対してのみ、大きな差となることが分かった。
鴨志田一樹
美術館企画展名のネーミング分析
都内有数の美術館である以下6館 (アーティゾン美術館, 国立西洋美術館, サントリー美術館, SOMPO美術館, 東京国立近代美術館, 東京都立美術館) で開催された企画展に着目し、過去50年における館種ごとの特徴を考えると共に、美術館企画展名の今後の傾向性を分析した。調査観点については、字数/品詞構成/構成要素の三つである。結果として、全体の字数の増加傾向は共通するものの、その軸となる品詞構成は異なり、また構成要素の組み合わせのパターン数を違えることで、公立/私立美術館それぞれの強みを活かした企画展を構成していることがわかった。昨今では、各館が独自に設ける間接的なフレーズ、人物・作品に対する補足情報における増加傾向が見受けられ、私立美術館では特にその傾向が顕著である。これは、館種による作品の展示能力の差や、その企画展で届けたいポイントの違いに由来していると考えられる。美術館の企画展は、今後もそれぞれに人物・作品といった基礎情報を軸に命名されつつも、よりテーマ的で多様な言い回しが増加していくのではないかと予想される。
山之上実花
東京ディズニーランド周年パレードの言語学的分析
東京ディズニーランドのエンターテイメントの一つであるパレードに着目し、東京ディズニーランドがパレードでの台詞を通して入園者に届けようとしている思いや言葉とそれらを伝えるための工夫は何か、また40年以上の歴史の中でその思いや言葉がどのように変化してきたのかを調査した。結果として、パレードの台詞は発話速度が遅くても観客が台詞の一部始終を聞き取れるように、なるべく短文で伝えたいことをまとめる工夫がされていた。基本語彙はどのパレードも結果は変わらず、全体ではパークのキャッチコピーに含まれる語や受け取り側を配慮した一人称の使用などが多い。また観客を巻き込んで一緒に楽しむことも重視しているものと考えられ、この台詞にはどのようなものがあるのかを調査したところ、キャラクターと観客が通じ合うことで観客のパレードに対する距離感をより近くすることができる台詞、一緒に何らかの動作を促すような台詞などが多く使用されていた。
落合一蕗
横浜市立小中学校における教育標語の言語学的分析
教育標語とは、教育の目的の達成に必要なおぼえやすく短いコトバのことである。本論文では、学校生活の中で誰もが目にする機会がある「学校教育目標」に着目して調査と分析を行った。対象は政令指定都市の中で人口最多である横浜市の市立小学校と市立中学校の学校教育目標とする。
結果として、言語的に違いは、校種と学校教育目標のタイプの二つの観点において観察された。校種による違いは、小学校では平仮名や「~よう」という児童主体の語彙の出現が多いこと、中学校では漢字や「~ます」という教師主体の語彙の出現が多いことが挙げられる。加えて「児童・生徒」を指す語彙が、小学校では「子」中学校では「人」、と変化していることも分かった。学校教育目標のタイプでは、全体的に「キャッチフレーズタイプ」の標語が頻出傾向にあった。キャッチフレーズタイプは、名詞や空白の出現が多く、動詞の出現が少ないことから、短い表現でも意味や内容を分かりやすくするという効果があると推測できる。なお、この「キャッチフレーズ型」を校種別に集計したところ、小学校に多い傾向が認められた。よってこれらを総合すると、教育目標は、中学校より小学校に独創性が高いものが多いということが明らかになった。
細川優貴
「仮面ライダー」の台詞の言語学的研究
石ノ森章太郎原作・東映製作の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』シリーズにおいて、「仮面ライダー」に変身するキャラクターの台詞を「昭和」「平成前期」「平成後期」「令和」の四つの時代区分を設けてそれぞれ分析・比較し、「仮面ライダー」らしい言葉遣いの特徴が存在するのか、また時代の移り変わりによる変化があるのかを、「役割語」の分析に主に用いられる人称詞・文末表現の二つの観点から分析した。結果として、人称詞・文末表現の双方においても、平成後期までは男性キャラクターは男性らしく、女性キャラクターは女性らしく描写される傾向があり、次第にそれが強まっていたが、令和に入ると男性キャラクターも女性キャラクターも台詞が中性的になってきていることが明らかとなった。また、特に文末表現において、主人公キャラクターは極端に男性的でなく、特徴の薄い台詞が多かった。特徴的で個性の強い台詞はサブキャラクターが主に使用していることが分かった。
森永結衣
広島・長崎における平和関連施設の言語景観・言語サービス
広島の平和記念資料館、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館、平和記念公園、長崎の原爆資料館、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館、平和公園の六つの施設を対象としホームページ、リーフレット、掲示物をタイプ、言語種、言語の組み合わせ、掲示方法、恒常的・臨時的の観点において調査・分析を行った。結果として、①広島と長崎の地域による差が特に言語において見られたこと、②施設特性における差がみられたことがわかった。特に広島と長崎では中(簡)韓において言語対応の差が見られ、国籍別外国人観光客数による対応の違いがあることが推測される。また、施設による差はタイプと施設による関係と言語、恒常的・臨時的掲示物とそれぞれによるタイプとの関係で特に見られることも分かった。資料館と公園では圧倒的に恒常的掲示物が多いことや資料館における名称、解説、詩・引用タイプでの英の使用率が高いこと、祈念館で臨時的掲示物の使用が多いこと、公園での英の使用率が低いことなどが明らかとなった。
戸出柚香
大学生の「打ちことば」―携帯メールとLINEの比較から―
本論文は、2005年の通信利用動向調査で利用率が最も高い携帯電話でのメールと、2023年の通信利用動向調査で利用率が最も高いスマートフォンでのLINEにおける打ちことばを分析したものである。三宅(2006a)「携帯メール分析共有データ」2005年度版の携帯メールデータと、自身が2023年に収集したLINEデータとを返信までの時間、字数、絵文字数、絵文字の位置、文末の絵記号類などの観点から比較することで、大学生のインターネットを介したコミュニケーションがどのように変化しているのか調査した。結果として、携帯電話とスマートフォンという媒体の違いや、携帯メールとLINEの機能の違いが大きく関係していることが分かった。携帯メールと比較してLINEでは平均字数や平均絵文字数が少なかった。一方で、LINEでは、チャットにおける「分かち書き」の使用や、絵文字の代わりとしてのスタンプの使用など、機能の変化による代替行為が顕著であった。
