2011年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百四十三輯 掲載論文

齊木春香卒業論文
若年層の断りの表現―携帯メール文体分析の観点から―
布川奈月卒業論文
自動二輪車のネーミング―時代と車種を中心に―
本間晴香卒業論文
「ミソリンゴ」の分布と語源解釈について
森山未季子卒業論文
童謡の歌詞におけるオノマトペ―時代差の観点から―

岡本拓己
ネーミングからみた焼酎と日本酒

2003年の本格焼酎ブームの影響で、焼酎の銘柄は、日本酒の銘柄よりも方言が使われやすいとのことである。
では実際に、焼酎と日本酒の銘柄にはどのような傾向があるのかを、ネーミングの観点から調査した。
確実とはいえないが、焼酎の方が日本酒よりも銘柄に方言が使われていた。これは、日本酒の対象を絞ったために実際の数よりも日本酒のデータがかなり少ない為である。しかし、日本酒の数は膨大なので、実際のところ焼酎の方が方言の使用度数ではなく使用割合で言えば、日本酒よりも多いであろう。なお、焼酎は2003年から特に増えていた。

佐藤和徳
秋田県中央部ならびに県南部方言の研究-使用意識と地理的分布の観点から-

自身の出身地である秋田県の方言使用状況、方言認識状況、方言意識、方言に対するイメージについてアンケート調査を行い、年層差、地域差、外住歴の有無の観点から分析を行った。
方言の使用については、動詞よりも名詞の方言語彙が衰退傾向にあることがわかり、地域差による比較からは中央部の方が方言の使用に積極的で、県南部の特に若年層において衰退傾向が目立つことが明らかになった。
認識については、メディアから発信される方言、伝統的な方言、気付かない方言の順に秋田方言としての認識率が高く、中央部の人の方が気付かない方言に気付いていない傾向が見られた。
方言に対するイメージについては、年層が若くなるにつれて秋田方言に対してマイナスのイメージが多く持たれるようになってきており、県南部より中央部の人の方が秋田方言に対してプラスイメージを持っていることがわかる結果となった。
方言意識では、普段使用している言語を共通語だと意識する人は高年層から若年層にかけて増加しており、今後も若年層における意識・使用の両面での共通語化が進行していくことが予測される。また、方言に対するプラスイメージや方言使用に積極的な意識が、実際の方言の使用や認識に良い影響をもたらすということが考えられる結果であった。

布川奈月
自動二輪車のネーミング-時代と車種を中心に-

日本のメーカーによって生産された自動二輪車のネーミングの傾向について調査を行った。バイクの名前をパーツごとに分けたものを11種類に分類し、それらを「発売年」「メーカー」「免許区分(現行のもの)」「排気量」「ジャンル(形状)」「変速機の有無(ATかMTか)」「エンジン(ex.空冷2サイクル単気筒)」「備考(主に輸出車か海外生産車か)」などの属性別で比較する。
ネーミングの構造については「基本ネーミングパターン」が存在することが明らかになった。さらにバイクの属性によって「近代的ネーミングパターン」「スクーター型ネーミングパターン」「輸出車型ネーミングパターン」の派生パターンがある。 「モデル名」に当たるものでは「管理番号的なもの」より「言語的意味のあるもの」の方が多い。そのうち「言語的意味のあるもの」に使用される語種は15種類の言語が出現したが、英語が全体の8割強と圧倒的に多く、ついで日本語・フランス語となっている。

本間晴香
山形県村山方言の研究-意味の観点から-

方言語彙には「語形は共通語と同じであっても、意味が異なる」というものがしばしば見られる。本稿では、どのような語彙が方言的意味を持つものとして存在し、それらの語彙が現在どのような使用状況にあるのかを明らかにする為、山形県山形市において調査を行った。その結果、意味における方言には、①全年層ともに使用度・認知度が高いもの、②若年層の使用度は低いが意味は良く知られているもの、③中高年層においても使用度・認知度が低下しており、若年層は殆ど認知していないものという3つの傾向があることが分かった。
また、山形方言に関係するものとして「リンゴに関することば」についても調査を行い、その結果、食べ頃を過ぎたリンゴを指す呼び方は山形県の内陸地方を中心として使用されており、庄内地方においては郵送調査の質問で初めて知ったという回答もあったことから、県内の方言対立に沿った使用状況になっていることが明らかになった。

森山未季子
童謡の歌詞におけるオノマトペ-時代差・番組差の観点から-

オノマトペとは、典型的には副詞の1種であり、物や生物の様子、音、心情を感覚的に表現した言葉を指す。それゆえ、絶えず新しい表現が生まれる。
言語習得途上にある子どもは、語彙の習得の前にオノマトペを習得することがある。たとえば、「犬」を「ワンワン」、「くすぐる」を「コチョコチョする」などが挙げられる。
前述の二例は、他の一般的な言葉に置き換えが可能な幼児語ともいわれており、オノマトペは子どもにとって感覚的で習得しやすい語彙だとされる。また、宮沢賢治の童話作品をはじめ、童話には表現豊かなオノマトペが多数存在している。
本稿では明治以降の童謡230曲を対象とし、現代の童謡におけるオノマトペの特徴を分析した。観点は構成・用法・オノマトペと楽譜上の1音あたりが含むモーラ数の関係とした。そして、6つの時代区分と、『みんなのうた』『おかあさんといっしょ』『ポンキッキ』の3つのテレビ番組間という2つの比較区分を設けた。
その結果、童謡の歌詞においてのオノマトペが、歌詞のリズム感を出し、言語習得の初期段階の子どもから大人まで幅広い年層の人と、音や様子の表現を共有できる要素であると位置づけられ、近年のテレビ系童謡では、従来よりも表現のバリエーションが多彩になっていると結論付けられた。

山下文子
熊本の気づかない方言の使用度・語認識-九州各地の使用状況との比較-

自身の出身地である熊本県熊本市で使用されているとされる「気づかない方言」の使用度・語に対する認識(語認識・方言意識)を調査した。本調査で、気づかない方言とされている多くのことばが、熊本の方言であると認識されていることが明らかになった。年層別の比較では、中年層以上より若年層の方が方言であると気づきにくく、外住歴の有無別比較では、外住歴が言語形成期内に無く、言語形成期外にある人が方言に気づきやすいということが分かった。方言使用頻度別の比較では、そのことばに対して「馴染みがある」と感じていれば共通語であると認識しているということが分かった。
また、熊本県だけで使用されているのではなく、九州地方(沖縄県を除く)の他の地域でも使用されていることばは方言であると気がつきにくいのではないかと考えたため、「広域気づかない方言」の実態も調査した。調査の結果、広域気づかない方言は方言であると気づかれにくく、それが使用されている地域では共通語として認識されていることが多いということが分かった。

岩田嘉津信
現役高校生の携帯メールにおける依頼・要求表現―別学・共学の観点から―

本稿の目的は現役高校生のメールにおけるテキスト表現に、思春期である中学時代に異性がいる環境、異性がいない環境というのはどれほど影響を及ぼしているのかを明らかにすることである。
本稿で行ったロールプレイング調査では「依頼」と「要求」の二つの場面を設定している。依頼とは送信者が自分より立場が強い受信者に何かをしてもらう「お願い」をすること、要求は送信者が自分より立場が弱い受信者に対して何かをしてもらう「お願い」をすることとしている。今回の調査では依頼を「送信者が受信者にノートを貸してもらう」、要求では「送信者が受信者にノートを返してもらう」という場面を設定した。
その結果、異性に送るメールは共学、別学共に依頼、要求どちらの場合でも文字数や各種絵記号の数が多くなる傾向があった。
その他にもメールの送受信量が少ない事や、スマートフォンの使用者の多さから、スマートフォン専用のチャット機能を持つアプリケーション普及の実態も見えてきた。

遠藤理乃
三重県鈴鹿市の方言-年代差と外住歴の観点から-

以前に居住経験のある三重県鈴鹿市の方言使用状況について伝統的な方言と新方言の観点、そして年代差と外住歴別さらに若年層の外住歴別の観点から方言語彙と文末詞のアンケート調査を行った。アンケートでは方言語彙と方言文末詞を使用するかを問う設問・ある物に対して方言形と共通語形のどちらを使用するかを問う設問で調査を行った。年代差による比較では中・高年層と若年層の2グループを比較し、方言は若年層よりも中・高年層の使用率が高い結果となった。中には若年層の方が使用率の高い結果となる語もあったが少数であった。そして外住歴による比較では外住歴有りと無しでほぼ同様の使用率となり差がみられなかった。このことから、三重県鈴鹿市の方言に影響を与えるのは年代差であると考えられる結果となった。また、方言よりも共通語が使用されるという結果もあり特に若年層は共通語化の傾向があった。
三重県鈴鹿市では方言だけでなく共通語も使用される結果となり、特に若年層が方言を使用していないことから今後これらの方言はさらに使用されなくなると考えられる。しかし、全体として使用率が高い語もあるので全ての方言がなくなることは無いと考えられる結果となった。

齊木春香
若年層の断りの表現-携帯メール文体分析の観点から-

本稿の目的は、若年層同士の「誘い―断り」場面でのメールのやりとりにおいてどのような特徴があるのかを明らかにすることである。メールの相互行為性を重視し、こちらの提示したメール内容によって相手の返信内容も変化することを前提とした調査を行う。アンケートから心理的反応、ロールプレイング調査から表記、断り表現の3つの観点から分析を行った。その結果、女子と男子はそれぞれ印象の良い誘いは違い、その返信メールにどのような気持ちを込めるのかも違うということが分かった。また、男女のメールの表現の違いは「改行」「絵文字」「ストラテジー」が原因としてあり、とくに女子は「前改行」「文切り改行」という新しいレイアウトスタイルをとり、個性をアピールしている例があることが分かった。さらに、ポライトネスの遂行されているメールに対する返信と、女子の作成した返信は表記面でも断り表現の面でも似た特徴を持っているということが明らかになった。

杉本育美
学園物少女漫画における役割語の研究

1980年代から2000年代に発行された、『りぼん』『なかよし』『ちゃお』の三代少女漫画雑誌から、学園を舞台とした作品を中心に役割語の研究を行った。時代別とキャラクターの設定間(作品内でのキャラクターの立ち位置・性差等)別での観点から比較を行い、90年代までは明るく元気でパワフルな主人公キャラクターが多かったが、00年代に入り、主人公像が多様化していること、相手役キャラクターでは、90年代あたりから「男らしい」「強気」なキャラクターが増えそれが主流になっていること等、各年代での主人公・相手役・友人役キャラクターのステレオタイプを言語面から明らかにした。また、若者語の使用についても調査を行い、若者語が役割語としてどんなキャラクターに与えられているのか等を中心に分析し、明るく、きゃぴきゃぴしたキャラクターを形成する側面を担っているのではないかという結果になった。

斉藤星子
スポーツマンガのオノマトペ―競技場面を中心に―

マンガは、絵や文字といった限られた視覚情報のみでそれぞれの場面の様子や雰囲気を表現し、読み手に伝えなくてはならない。しかし、私たちはマンガを読むうえで、そのマンガの世界観をリアルに感じることができる。その手段の一つとして、マンガにはオノマトペが用いられている。卒業論文では、このオノマトペに何か特徴があるのではないかと考え、調査を行った。
今回の調査では、『週刊少年ジャンプ』に1971年から2009年までに掲載された作品のうち、スポーツを題材とした漫画を対象とし、出現度数、擬音語、擬態語といったオノマトペの種類、拍数、特殊拍、記号、臨時的オノマトペに関する考察の観点から分析を行った。
その結果、スポーツマンガのオノマトペには、1モ―ラを基本とし、促音または長音を含む2拍のオノマトペが基本であること、聴覚で感じる部分である音を多く表現していること、長音は母音や小文字で表記された特殊長音を多用すること、そして、オノマトペは年代により変化していることが判明した。