2012年度
先輩たちの卒業論文のテーマと要旨の紹介

日本大学国文学会『語文』第百四十六輯 掲載論文

廣瀬義人卒業論文
漫才の構成要素と「笑い」の相関性―ボケ・ツッコミ・表情・フリなど―

日本大学国文学会『語文』第百四十二輯 掲載論文

木村華子特殊研究ゼミナールⅡ
若者のおしゃべりにおける談話調査―縮まりつつある男女差―
廣瀬義人特殊研究ゼミナールⅡ
『オートバックスM-1グランプリ』における漫才スタイルの変遷について

奥脇有美
ニコニコ動画におけるコメントの傾向―字数・字種の観点から―

ニコニコ動画60件にあらわれる約27万字のコメントについて、そこで使用される文字数と字種の観点からうかがえる傾向についての分析を試みた。

田代裕子
ジェンダーから見るアイドル歌曲の歌詞分析―1995年から2011年まで―

近年再びブーム到来中といわれるアイドル。AKB48や嵐に代表されるジャニーズなど特定アイドルグループのCDは爆発的に売れ続け、ファンの強い支持を受けている。アイドル曲がオリコン年間ランキングの高位を占める今、世相の影響を大きく受けると言われるアイドル曲の特徴がどう変化しているのか、1995~2011年の歌詞をジェンダーに重点を置いて調査した。①延べ語・異なり語、②頻出語彙、③品詞比率を、歌い手の性別・作詞者の性別・経年変化という三つの観点から分析した。
①全体の延べ語数・異なり語数は68~94年と比較するとどちらも大幅な増加が見られた。女性アイドル曲と男性アイドル曲は異なり語ではあまり差が見られないが延べ語では大きく差が表れたため、女性アイドル曲は男性アイドル曲よりも繰り返しが多いことがわかった。②頻出語彙では男女ともに他称詞は「君」が最も多く用いられ、「貴方」は減少傾向にあり、女性アイドル曲では男性アイドル曲に比べ日本語の自称詞が登場しにくいという結果が出た。③品詞比率では、近年になるほど名詞と動詞の占める割合が増加していた。

宇田川隆之介
東京下町域の方言―湯島・錦糸町を中心に―

東京は全国各地から人が集まり、都内の言語は多様な様相を示している。したがって東京の言語も変化してきている。そのうち、25年以上前に行われた言語調査である『東京都言語地図』を参考に、東京の下町と言われている湯島・錦糸町の2地点で、その地点で出生、居住している人を対象に、言語意識、アクセントについて面接調査を行い、年層差、地域差の観点から現在の東京のことばについて分析を行った。
その結果、言語意識において、ほとんどの人が東京に帰属意識を感じており人は、ことばも東京のことばを話していると感じていたが、下町のことばに近いと感じている人は半分程度であった。また、若年層・中年層・高年層それぞれが各層に対して感じていることばの違い、言語的距離がみられ、若年層と中年層との言語的距離は、中年層と高年層との言語的距離より大きなものであることが分かった。言語意識においては地域差はあまりみられない結果となった。
アクセントにおいては、今後高年層に多く、中年層・若年層に少ないアクセント型の語彙、高年層・中年層・若年層とも変化のない型の語彙、各層に異なる型のある語彙の3パターンがあり、今後のアクセント型の変化が予測できた。また語彙によりアクセント型に地域差のある語彙がいくつかみられた。

木島康太
プロ野球実況中継におけるアナウンサーの談話分析―局・経験・担当番組の観点から―

本研究は、「経験」というものがプロ野球中継の実況アナウンサーにとって、どのような影響を及ぼすのかを分析・考察したものである。地上波で放送されたプロ野球中継を録画し、対象となるデータ(イニング)の談話を文字起こしした。
観点は、「局」「経験年数」「担当番組」の3つ。「局」では、主にプロ野球中継を放送しているNHK・日本テレビ(以下NTV)・TBS・フジテレビ(以下FNS)の4局を比較し、「経験年数」では、アナウンサーを「若手(実況歴10年未満)」「中堅(実況歴10~20年未満)」「ベテラン(実況歴20年以上)」の3つに分類し、比較した。「担当番組」では、各局のHP上で公開されている、アナウンサーの担当番組をもとに、「スポーツ」「報道・情報」「バラエティ」の3つに分類し、比較した。
「局」では、様々な項目で「NHK 対民放3局」という構図が見られ、特に「発話量」や「発話内容」で大きな差が見られた。
「経験年数」では、項目ごとに各世代で差が見られた。「発話量」では、「若手」と「中堅」に差は見られなかったが、「発話内容」で大きな差が見られた。「ベテラン」は非流暢性を感じさせるような発話が少なく、聞き取りやすい談話をしていることが分かった。
「担当番組」では、全体の人数でも偏りがあり、「局」「経験年数」の比率も均等でなかったので、あまり正確な分析は出来なかったかもしれない。そのことを考慮した上で、「発話スピード」や「文末表現」において、差が見られた。

中澤彩香
若年層の携帯メールにおける謝罪表現―ロールプレイングによるテキスト分析から―

本稿の目的は、若年層の謝罪場面における携帯メールのテキストにおいてどのような特徴があらわれるのかを明らかにすることである。携帯メールは手軽に用件を伝えたり、現況報告をしたりすることができ、メール作成の際には各種記号や絵文字、顔文字などの装飾を施して相手にその時々の気分を伝えることができる。そこで若年層は携帯メールでどのような表現をして相手とコミュニケーションをとるのか、その特徴をとらえたいと考えた。調査はある場面を想定してメールを作成してもらうロールプレイング調査と、メール作成の際にどのような意識がはたらいていたのかを知るためのアンケート調査を行った。謝罪の負担度合や送信相手の親疎に応じてメールの文面や謝罪の仕方にどのような違いがあらわれるのかを、特に男女差に注目して分析する。結果として男女のメールには表記面、謝罪面で違いがあることが分かった。

鈴木利奈
食品キャッチコピーの変遷―『コピー年鑑』をデータとして―

キャッチコピーとは、商品や企業の告知や宣伝に用いられる文章、煽り文句である。また製品の特徴やセールスポイントを明らかにするだけでなく、受け手の目をストップさせ興味を抱かせるアイキャッチャーの役割も果たしている。しかし、人を惹きつける言葉は、いつの時代も同じではない。私たちの生活が変わり、食品を選ぶ基準が変わってきたように、食品キャッチコピーも変わってきたのである。本稿では、文字使いや表現方法という言語学的な観点から食品キャッチコピーの変遷をたどり、時代背景や私たちの食生活の変容と関連づけて考察していく。調査の結果、1960年代後半から1970年代にかけて句読点が増加し、「キャッチフレーズの話し言葉化」が確認された。また、コピーはその時代の社会現象と密接に関わっており、あらゆる転換期をむかえてきたことがわかった。今回の調査では、特にその多くが、高度成長期に私たちの生活が変わったことと関連している。テレビという新しいメディアの登場、食の安全への意識の転換、女性の社会進出などがそうである。

岩田嘉津信
現役高校生の携帯メールにおける依頼・要求表現―別学・共学の観点から―

本稿の目的は現役高校生のメールにおけるテキスト表現に、思春期である中学時代に異性がいる環境、異性がいない環境というのはどれほど影響を及ぼしているのかを明らかにすることである。
本稿で行ったロールプレイング調査では「依頼」と「要求」の二つの場面を設定している。依頼とは送信者が自分より立場が強い受信者に何かをしてもらう「お願い」をすること、要求は送信者が自分より立場が弱い受信者に対して何かをしてもらう「お願い」をすることとしている。今回の調査では依頼を「送信者が受信者にノートを貸してもらう」、要求では「送信者が受信者にノートを返してもらう」という場面を設定した。
その結果、異性に送るメールは共学、別学共に依頼、要求どちらの場合でも文字数や各種絵記号の数が多くなる傾向があった。
その他にもメールの送受信量が少ない事や、スマートフォンの使用者の多さから、スマートフォン専用のチャット機能を持つアプリケーション普及の実態も見えてきた。

木村華子
大学生のおしゃべりの実態―談話分析を中心に―

大学生のおしゃべりの実態を明らかにし、「話す相手の性によって話し方は変わるのか」また、「話しやすいと思われる話し方とは何か」を見つけるために、談話調査、意識調査、印象調査の3つの調査をし、分析を行なった。
談話調査は、「発話量」「あいづち」「会話の重なり」の3つの観点から分析を行なった。
男女差はもちろん、話す相手の性によって結果が変わるもの、また、変わらないものがあった。特に「あいづち」では、「機能」「直前語句」「形式」など、多くの点で違いが出た。
さらに印象調査、意識調査を掛け合わせてみたところ、3の観点のうち、「発話量」と「あいづち」は印象と関係があり、さらに「あいづち」は話し手が話す中で、特に意識されやすい点であることがわかった。 また、同じ好印象話者であっても、話し方を意識している人、していない人で「発話量」や「あいづち」に差が出た。

廣瀬義人
共起関係から探る漫才における「笑い」の生起要因

本稿では、漫才のネタ中において「笑い」が起こる理由を、「笑っているときに何をしているか」という考えのもと、観客の「笑い」と各観点の共起関係を用いて明らかにさせていく。文字に起こしたネタの、どの部分に観客の笑い声や、各観点が存在するかを明確化させ、各ネタ10秒あたりにどの程度それらの要素が含まれているのかを調べた上で、統計解析ソフトを用いてそれらの間の相関係数を出し、どの程度共起関係・相関関係が存在するかを分析する。
この結果、「笑い」と「フリ」、「ボケ」、「ツッコミ」のそれぞれとの間で相関関係が見られたほか、「表情」、「ドツキ」、「演者の笑い」といったとの間にも、相関関係を確認することができた。中でも「表情」は、漫才における基本的な三要素のうちの「フリ」を上回る相関性を確認できたことから、今回設けた調査観点の中では最も「笑い」に近い存在であるということがわかった。

小宮咲紀
女性ファッション雑誌の語彙分析―ギャル雑誌を中心に―

一言で女性ファッション雑誌といっても、コンサバ系やギャル系、カジュアル系など、様々なジャンルがあり、雑誌ごとの特徴も多種多様であると感じる。そこで、今回は、特に個性的だと感じた「ギャル雑誌」を中心に、「ギャル派生雑誌」、「カジュアル雑誌」と比較しながら、ジャンル別による特徴を探った。対象としたページは、第一特集と投書のページである。
調査を行った結果、ジャンルによって、個性の出し方の工夫も大きく異なってくることが分かった。ギャル雑誌では、絵記号の使用で色付き絵記号を使用したり、あえて感嘆符を半角2個使いにしたりすることで、ページ全体を賑やかに、そして派手に見せようとする工夫をしていることが分かった。また、比較対象とした、カジュアル雑誌やギャル派生雑誌においても、語彙や記号使いによって工夫がみられた。