このページのPDFを印刷

0312075 駒形里奈

6.1 調査概要

銀座の老舗の飲食店、和装・和装小物店、書店、雑貨店の掲示物を調査する。

掲示物は、看板(店舗正面に掲示してあるもの)・スタンド(店頭に出ているもの)・ポスター(店舗正面の壁面に貼り付けのもの)・POP(商品の表示価格を除いたもの)を対象とする。

なお、老舗の定義は、昭和初期も含めたいため、創業80年~の店舖に限定する。調査店舗

数は飲食店12店舗(和菓子店:4 喫茶店:1 洋食店:1 和食店:3 その他食品店:3)

と呉服・和装小物店・雑貨店9店舗(呉服・和装小物:4 雑貨:5)の計21店舗を調査対象

とする。掲示物の総計は69枚。

6.2 分析の観点

調査観点は使用言語や字体、掲示物の種類と掲示内容、使用されている材質とし、分析結果を老舗飲食店と和装関連店・和雑貨店とで比較する。

6.3 使用言語

写真1 鳩居堂のポスター

写真1 鳩居堂のポスター

写真2 木村屋のスタンド

写真2 木村屋のスタンド

写真3 天国の店名看板

写真3 天国の店名看板

表1 店種別の使用言語

店種/言語
和菓子 ×
和食 ×
洋食 ×
喫茶
他食品
和装関連 ×
和雑貨 ×

店種別に使用言語を見ると表1の結果となり、どのジャンルの老舗でも写真1のように日・英の二ヶ国語の使用が見られた。喫茶店・他食品店ではこの二ヶ国語の他に写真2の「Noel」のようなフランス語が見られたが、これは喫茶店や他食品店の商品がヨーロッパの文化から取り入れられたものであることも考慮できる。また看板では、写真3のような旧字体表記の店名看板も見られ、老舗らしい「和」のイメージづくりといったものがうかがえる。

6.4 掲示物の素材と掲示内容

表2 掲示タイプ別にみた掲示内容とその枚

タイプ(枚数)/内容 店名 お買い得 商品情報 店舗案内 メッセージ その他
看板(15) 12 0 0 2 1 0
スタンド(16) 5 1 6 2 1 1
ポスター(24) 0 2 5 7 9 1
POP(14) 2 0 2 5 5 0

表3 看板・ポスターに使用されている素材別枚数

タイプ(枚数)/素材 紙+ラミネート・プラスティック プラスティック
看板(15) 0 2 5 8
ポスター(24) 11 10 3 0

写真4 越後屋の店名看板

写真4 越後屋の店名看板

写真5 夏野の商品情報が掲載されたポスター

写真5 夏野の商品情報が掲載されたポスター

表2から掲示タイプごとの掲示内容を見ると、看板は店名を、スタンド・ポスター・POPは商品情報・店舗案内・メッセージを記載しているものがほとんどで、表3の使用素材では看板が木材、ポスターは主にコストをおさえた紙の使用が目立った。写真4・5からその様子がうかがえる。

6.5 老舗飲食店・和装関連店・和雑貨店の臨時的掲示物からみた銀座

老舗和洋食店や和装関連店では木材を使用した店名看板をメインとし、他にあまり装飾を施さないのに対して和菓子・他食品店や和雑貨店ではコストをおさえた紙を使用した臨時掲示物が多く、商品情報やメッセージの掲載に力を入れていた。旧字体表記の店名看板を見るあたり日本の伝統的な「和」のイメージが強く感じられる老舗であるが、臨時掲示物の使用言語に注目すると、日本語以外に英語や喫茶店・他食品店で見られた装飾的な働きとしてのフランス語などが見られた。田中・上倉・秋山・須藤(2007)では、東京圏の多言語化のプロセスとして「23区内では、[日英中韓]から[日英中韓+α]の段階」と推測しているが、今回調査した結果から確認できた言語は日・英の二ヶ国語とフランス語のみであり、中・韓国語の導入は見られなかったことから、銀座の老舗店舗は増加しつつある外国人旅行者への配慮の動きが見られるよう変化はしているものの、多言語化の進度としては少し遅れているのではないかと考察できる。

引用文献

・田中ゆかり・上倉牧子・秋山智美・須藤央(2007).東京圏の言語的多様性―東京圏デパート言語景観調査から―社会言語科学,10(1),12

ページTOPへ