日本大学文理学部国文学科

はじめに

サイトの背景

このサイトは、2006年度に開講された日本大学文理学部国文学科2年生の専門科目の授業、「日本語学基礎演習2(担当:田中ゆかり)」のサイト版成果報告書です。

授業のテーマは、「鉄道の多言語状況を調査する」。

ねらいは、東京首都圏の鉄道の多言語状況を調査しながら、社会言語学的な言語調査の基礎を学ぶことです。事前調査、臨地言語調査企画・調査項目の設定、実施、報告書のまとめ方などの一通りを学ぶことを目標とした科目です。2006年度は、22人が履修、21人がレポートを提出して、単位を修得しました。

どんな調査?

東京の中心部を走るJR東日本の環状線・山手線全29駅を調査対象としました。実際に調査終了したのは日暮里駅を除く28駅でした。

履修者は、「山手線ホーム」「ホーム以外の駅構内」「山手線ホーム上のキオスク」「山手線電車内」の4班に分かれて、1人1項目について調査観点・調査方法など検討しました。駅の臨地調査は、1人1〜2駅を担当しました。

駅の臨地調査とは別に、日本大学文理学部の日本人学生と留学生を対象とした、多言語状況に関するアンケートを実施しています。実際に調査に使用した調査項目ごとの調査票やマニュアルは、冊子報告書に詳細を掲載しています。これらの作成も授業中に履修者と教員・TA(ティーチング・アシスタント・国文学専攻の大学院生)で、討論をしながら進めていきました。

「多言語」「言語景観」って?

みなさんは、今日は、一日いくつの言語に接触したか、考えてみたことがあるでしょうか。最近では、日本語だけ見聞きしてすごした一日、というほうが珍しいはずです。これは、現在の日本の言語状況が、日本語以外の言語抜きに語ることができないことをあらわしています。このようになんらかの形で、複数の言語が共存する状況を「多言語状況」と呼んでいます。

今回は、東京中心部を走る環状線・山手線の駅と電車を対象とした多言語状況調査を企画・実施したわけですが、その背景には、日本の多言語状況を、日本において質量ともにもっとも多言語化した地域である「東京の中心部」をサンプルに考えてみよう、という目的があります。

また、「多言語」の解釈に、狭義の日本語や英語や○○語というような、「言語」だけではなく、「情報をなんらかの手段で伝えるもの」と広く捕らえ、「点字」「手話」「ピクトグラム」なども視野にいれています。

また、「言語景観」も目で見る「掲示(Landscape)」だけではなく、耳で聞く「音声景観(Soundscape)」も視野に含めました。

「鉄道」を対象としたわけ

今回対象とした、駅・電車という「場所」は、さまざまな背景をもつ人々が利用するところです。そのような「場所」が、日本語以外の外国語にどの程度対応しているか、という確認だけではなく、いろいろな背景を持つ人にどの程度、分かりやすく情報が伝達されているのか、ということも視野に入れて調査・分析を行ないました。駅から見える看板なども調査対象としているため、駅のある街の特色もよくわかる結果となっています。

2005年度は、東京都内のデパートの多言語状況調査を行ないました。その報告もサイトで行なっていますので、関心のある方は、ぜひご覧ください。デパートと鉄道は、それぞれ共通点もありますが、異なる点も多く存在します。同じ「東京」という場所においても、それぞれの「場所」のもつ意味によって、状況はさまざまであることが分かります。

■サイト版デパート多言語状況調査報告書URL
https://dept.chs.nihon-u.ac.jp/jpl//kisoen/tanaka_kisoen2/index.html

この研究は、財団法人博報児童教育振興会による第1回博報「ことばと文化・教育」研究助成を受けています

なお、この調査・報告は、「わかりやすい情報伝達」とは何か −多言語化と福祉の観点から−」として、財団法人博報児童教育振興会による第1回博報「ことばと文化・教育」研究助成(750,000円:田中ゆかり)を受けています。本サイト版報告書、冊子報告書も、同研究助成金によるものです。

謝辞

実際の調査に際して、各駅・売店の担当者の方などにお世話になりました。あらためてお礼申し上げます。
また、アンケート調査に協力してくださった皆様にもお礼申し上げます。