文学研究科 博士前期課程2年
林 直樹
三川町方言の属する庄内方言においては特徴的な文末詞が用いられていることが示唆されている(佐藤2009)。本報告は、とくに疑問文文末詞に注目し、三川町方言調査における疑問文文末詞の使用実態と使用傾向の変化を捉えることを主眼とする。
三川町・ことばのアンケートにて方言文末詞「ガ」・「ナ」・「ヤ」・「ノ」の使用意識を尋ねた。いずれの文末詞も庄内地方において疑問文文末詞として頻繁に用いられていることが示唆されているため、調査項目として設定した。
それぞれの文末詞で「1.自分で使う」、「2.自分では使わないが他人が使うのを耳にする」、「3.聞いたことがない」という回答を設定した。
今回取り上げた疑問文文末詞の特徴を簡単に述べると、「ガ」・「ナ」は疑問文文末詞として広く使われるようであるが、「ガ」は単純疑問文(i.e.「これは飴?」)、「ナ」は疑問詞疑問文(i.e.「何の飴?」)と共起しやすいことが示唆されている(渋谷他2006)。
「ヤ」は問い返しの機能を有することが示唆されている(佐藤1992)。しかし、「ガ」や「ナ」との明確な違いはあまり言及されていない。
「ノ」は共通語の「~ね」に類するものとされている(佐藤1992)。目下の者には使いづらいという、待遇度が関わることも指摘されている(佐藤2009)。
これらの文末詞を取り上げ、同一状況(「今日行く○?」)における使用度の差を捉える。 今回は三川町方言調査アンケートデータで得られた160人分の回答を用いた。内訳は、若年層が47名、中年層が54名、高年層が63名。男性が83名、女性が79名(未回答2人)。
今回取り上げた文末詞「ガ」・「ナ」・「ヤ」・「ノ」を、それぞれの年層がどの程度使うかを表したのが図1である。図中では「1.自分で使う」を「使」、「2.自分では使わないが他人が使うのを耳にする」を「聞」、「3.聞いたことがない」を「不使」と表した。また、回答がとくに多い部分は白抜きで、少ない部分は黒抜きで表した。
図 1 年層別文末詞使用傾向
ほとんどの文末詞について「使用する」という回答が優勢形を占めた。ただし、「ヤ」のみ年層により使用意識に違いが出ていることがわかる。
高年層から若年層にかけて「使用する」回答が減少し、「聞いたことがない」という回答が上昇していることがわかる。とくに、若年層において「聞いたことがない」回答は57.4%を示している。この結果から、高年層から若年層にかけて文末詞「ヤ」を聞いたこともない人物が増えていることがうかがえる。それに対して、文末詞「ナ」は若年層にかけて若干使用意識が上昇している様子も見て取れる。
本結果は、「方言らしさ」を表す方言文末詞にも世代別の使用率に変化が生じていることを推測させる。