三川町の方言調査 ふるさとのことば

道聞き

三川町の人に道を尋ねた時のことばと意識について

国文学科3年 関根 千尋
本間 晴香

1.調査目的

道案内時における方言の出現度や方言使用に対する意識などにどのような差がみられるのかを明らかにすること。

2.調査概要

自分自身は×の地点に立っていて、そこで出会った相手が、同年代のよく知っている地元の親しい人だったときと、東京から来た初めて会った人だったときの2回に分けて、矢印の通りに学校までの道案内をしてもらった。その時に相手が違うことで、現れることばの違いや何か意識して道案内をした点があるのかについて調査した。調査に使用したのは以下の地図。(図1)



3.分析対象

回答を以下の3つの年齢層に分けて分析した。 ①若年層(20~39歳) ②中年層(40~59歳) ③高年層(60歳以上)

3.調査結果

4.1.相手によることばの違いについて
学校までの道のりを「同年代でよく知っている地元の親しい人」に教える場合と「東京から来た初対面の人」に教える場合の二つの異なる場面を設定した。以下の報告では「親しい人」に対する場面を「親」、「初対面の人」に対する場面を「疎」と分類する。ここでは「親」の場面の方言要素の使用度について報告する。

①全体の方言使用状況 道順に沿った案内部分から方言要素だと思われる語を抜き出し、「名称」「文法」「音声」の3グループに分類した。案内部分に含まれた雑談においては、道案内に関する雑談からのみ抜き出して含めた。また、方言要素のカウント方法は、1談話内に一つでもその方言が出れば「1」と数えている。

[名称]
・銀行、郵便局、図書館、交番、デパート、八百屋などの建物の言い方に関しては、共通語との違いは見られなかった。交差点の言い方に関して十字路、四つ角、四叉路と複数の言い方が見られたが、方言ではないように思われる。

[文法]
①助詞
・助詞(場所) :ニ→サ
・助詞(原因・理由):アルノデ→アッサケァ、アッサゲァ(アッハゲァ、アッダゲァ)
・終助詞・間投助詞:~ノー/~ヤー
②音便
・ル語尾の促音便化:アルカラ→アッカラ/ミエルカラ→ミエッカラ/マガルト→マガット/スギルト→スギット/コエルト→コエット

[音声]
・有声化:イクト→イクド、イグド/ツク→ツグ/ソコニ→ソゴニ/ツキアタリ→ツギアダリ/トコロ→トゴロ、ドゴ/~カラ→~ガラ
・連母音の融合:~ノマエニ→~ノメェニ(~の前に)
・撥音、促音、長音の特色:ガッコー→ガッコ/マガッテ→マガテ
 ⇒庄内方言において、撥音(ン)、促音(ッ)、長音(―)が1拍としては不十分に発音される。
・ス→ツの変化:マッスグ→マッツグ

図2は全体における方言要素の出現率をグラフに示したものである。調査対象である63人中7人は「親」の談話の中に方言が含まれていなかった。


(全体=63人)

図2より、文法グループにおいて、場所を表わす助詞である「サ」の使用が53人(84%)と最も高く、談話の中に方言要素の使用が見られた殆どの人が使用していることが分かる。アルカラ→アッカラの変化のような「ル語尾の促音便化」(25人/40%)、原因・理由を表わす助詞の「アッサケ」類(20人/32%)、終助詞・間投助詞である「~ノー」や「~ヤー」(12人/19%)などの方言要素は、複数の談話の中に出現が見られたが、今回の調査では半数を超えない結果となっている。
音声グループにおいては、行クト→行グドといった変化の「有声化」の出現が44人(70%)と高く、多くの人の談話の中に見られた。しかし、マガッテ→マガテのような「撥・促・長音の特色」(8人・13%)、連母音の融合(4人/6%)、マッスグ→マッツグの変化(2人/3%)は、今回の調査においては極めて少ない結果となった。

②年代層別における方言の使用度
 次に、年代層別に方言要素の使用度を見ていく。


(若=16 中=23 高=24人)
助詞の「サ」と「有声化」のはどの年代においても出現率が高い結果となった。助詞の「アッサケ」類や「~ノー」、「ル語尾の促音便化」については高年層から若年層にかけて減少しているようである。「マガッテ→マガテ」のような促音の変化は年代層全体を見ても少なく、若年層ではこのような要素の出現は見られなかった。「~ノマエ二→~ノメェニ」という連母音の変化においては、元の出現率も少ないが、若干高年層に見られる変化である。「マッツグ」のス→ツの変化においては方言かどうか分からず断定できなかったのだが、僅かだが高年層の中で使用されているようである。

4.2.意識について
高年層では、約3分の1の人が意識していないと回答した。それに比べ若年層・中年層では、ほぼすべての人が何かしらの点を意識していたことが伺える。



意識した点は以下の3つの区分に分けた。(複数回答も含む)
・ことば系:方言、標準語、単語、語尾、表現、など
・発音系:訛り、アクセント、イントネーション、ズーズー弁、濁点、など
・その他:丁寧、伝わりやすく、など



ことば系はすべての年齢層で半分の方が意識していた。



ことば系の中でも方言を出さないように注意する、という回答がやはりどの年代でも半分を占めていた。2番目に意識している点は、高年層では単語、若年層では助詞、中年層ではそのどちらも、といった結果になった。また、若年層と高年層では共通して訛りも意識しているが、中年層は意識していないということも分かる。助詞の中でも特に意識されていたのは場所に使われる「サ」であった。今回使用した地図は曲がり角を多く設けたため、「右サ」や「左サ」といったように「サ」を意識する人が多かったようである。
三川町の人は多少は訛っていたり、アクセントやイントネーションが違っていても、方言ではなく標準語のように誰もが知っている単語であれば通じる、ということを意識しているのだろうと考えられる。

ページトップへ