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第6章 「和」を売り出す店における言語表記

6.2.主看板における店名表記法の意図(佐野元基)

調査の結果、どちらの店舗においても、ほぼ日本語のみで店名が書かれていた。しかし、興味深い言語表示をとっていたのが、『歴史ある由緒正しい「和」』の店舗、木村屋だ。銀座に建つ木村屋本店の主看板には、右横書きの筆文字で店名が記されている(図1)。

図1 木村屋正面

同時に、副看板にはより広く知られている「キムラヤのパン」表示もあった。外国語を連想させるカタカナと、現代的な字体・色使いで成り立っているこの看板は、正直に言って、「老舗」「和」のイメージを壊しているように感じる。

木村屋は「和」を武器にしているとは言いがたい。むしろ海外の裕福な旅行者層や近代化した日本に対して、グローバル的な側面をアピールしたいという意欲がうかがえる。

同じく『歴史ある由緒正しい「和」』店舗である鳩居堂においても、ローマ字表記の店名が発見された。ではなぜ、『人工的に作り出された「和」』でなく、『歴史ある由緒正しい「和」』の店舗において外国語が多く発見されたのだろうか。

それはおそらく、前者の「和」が演出であるからだ。演じるという行為はしばしば、現実よりも現実味を帯びることがある。『人工的に作り出された「和」』の店舗は、より現実味のある「和」を演じようとするあまり、外国を連想させるものを表に出せなくなってしまったのだろう。鳩居堂や木村屋は、本物であるからこそ、堂々としてそういったものを表示しているのだ。

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