このページのPDFを印刷

第1章 はじめに

田中ゆかり

1.1.このサイトの背景

このサイトは、2019年度後期開講の基礎演習2の授業報告です。基礎演習は国文学科の専門科目のひとつで2年次配当の選択必修科目です。このクラスは、国文学科の三本柱のひとつ日本語学のうち、現代日本語学の基礎的スキルを学ぶことを目的としました。とくに言語から社会を見通す分野である社会言語学をテーマとしたもので、「言語景観・言語サービス研究入門」と位置付けています。

わたしたちの身の回りには、さまざまな言語を使用した「看板」「案内」「広告」「言語サービス」などであふれています。それらに使用されている言語を通して、日本語社会におけるそれぞれの言語の「意義」「価値」を知ることができます。このクラスでは、言語景観ならびに言語サービス研究を通して具体的な言語研究の企画・実施、分析と報告までの一通りを学ぶことを目的としました。日本語学を学ぶことを通し、現代社会のありようを読み解くことを実感してもらうこともこのクラスのもうひとつの目的です。

今年度は5日間の集中講義形式で開講したため、調査域は例年通り東京都中央区の銀座(「銀座中央通り」「晴海通り」)界隈としましたが、調査対象は百貨店と複合商業施設に限りました。

銀座界隈の調査は今年度で9年度連続で調査しています。この間、「爆買い」から「体験」へというようなトレンド変化も指摘されるようになってきました。訪日客の国籍・地域も変化しつつあります。このような状況を踏まえ、小口の買い物に対する免税措置などの新たな政策も導入されました。今のところ、訪日外客数は増え続けており、消費活動は相変わらず旺盛です。早いもので、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催まで一年を切り、言語景観・言語サービスの充実も急速に進んでいるようです。一方で10年前のデパート調査では少ないながらも認められたフランス語やドイツ語といった欧州言語についての対応はほとんど見られなくなり、日英中(簡体字)韓+ピクトグラムという2010年代の首都圏標準タイプ(田中ゆかり2009)から、韓国語が脱落しているという対応言語の減少も認められます。銀座の大規模商業施設調査においてはタイ語が加わったにとどまっています。

いずれにしても、「東京」は日々変貌しています。この報告は、言語景観・言語サービスという立場から大学生たちの目を通して写し取られた2019年晩夏の「銀座」を切り取ったものといえるでしょう。過年度の報告書2011年度から続く「銀座」の定点観測としてもご覧いただけると思います。

1.2.授業の方法

このクラスは、演習形式で実施しました。調査対象施設は、銀座界隈で営業する候補施設から担当を決め、初日の予備調査と全体討議により調査アイテムと調査観点ならびにその担当者を決定しました。

表1.調査対象施設

施設名 運営会社名 区分
(百貨店/複合商業施設)
EXITMELSA 株式会社メルサ 複合商業施設
GINZA SIX GINZA SIX リテールマネジメント株式会社 複合商業施設
NISHIGINZA(西銀座) 株式会社西銀座デパート 複合商業施設
ギンザ・グラッセ 三井不動産商業マネジメント株式会社 複合商業施設
銀座三越 株式会社 三越伊勢丹 百貨店
バーニーズニューヨーク銀座店 セブン&アイ・ホールディングズ 複合商業施設
阪急メンズ東京 株式会社阪急阪神百貨店 百貨店
松屋 株式会社松屋 百貨店
マロニエゲート銀座1 株式会社マロニエゲート 百貨店
マロニエゲート銀座2&3 株式会社マロニエゲート 百貨店
メルサ銀座二丁目店 株式会社メルサ 複合商業施設
ルミネ有楽町店 株式会社ルミネ 複合商業施設
和光 株式会社和光 商業施設
銀座コア 株式会社ギンザコア 複合商業施設
銀座ベルビア館 三井不動産商業マネジメント株式会社 複合商業施設
東急プラザ銀座 東急不動産株式会社 複合商業施設
有楽町マルイ 株式会社 丸井グループ 複合商業施設
有楽町イトシア 三菱地所プロパティマネジメント株式会社 複合商業施設
有楽町マリオン 有楽町センタービル管理株式会社 複合商業施設

そののち、担当施設の調査、施設調査報告を経て、各種データをクラス内で共有し、担当するアイテムについての分析を最終報告書としてまとめたものがこの冊子ならびにサイト版報告書です。URLは下記の通りです。

授業報告書・田中ゆかり担当授業報告サイト参照 http://www.chs-jp.info/tnk/

プレ調査には昨年度この基礎演習2を履修した田中ゼミの3年生の齋藤岳さん、仲宗根亮佑さん、峰島大貴さんにも同行してもらいました。予備調査のための予備調査をしてくれた上に、「一年しか経っていないのに、去年と違う」というコメントを述べながらの予備調査は、今年度の履修者にとって意義深いものとなったと思います。改めてお礼申し上げます。

1.3.授業の進め方

このクラスは以下のように進めました。授業の連絡・コンテンツ・課題提出Blackboardを活用しました。

◆授業概要
言語景観・言語サービス研究入門

◆授業のねらい・到達目標
わたしたちの身の回りには、さまざまな言語を使用した「看板」「案内」「広告」などであふれている。そこで使用されている言語を通して、日本語社会におけるそれぞれの言語の「意義」「価値」を知ることができる。このような研究を、社会言語学の1分野である言語景観・言語サービス研究と呼ぶ。このクラスでは、言語景観研究を通して具体的な言語研究の企画・実施、分析と報告までの一通りを学ぶことを目的とする。今年度は集中講義形式で実施するため、銀座・日本橋・東京エリアの百貨店・複合商業施設の言語景観・言語サービスの実態調査とその分析・報告に焦点を絞る。

◆授業の方法
集中講義形式[9/2(月)~9/6(金)]による演習。初日のプレ調査後、全体討議により、調査の対象地点と調査観点(項目)を決定する。その後、グループごとにデータ収集と分析・発表を行う。最終課題は発表を発展させた2タイプのレポート(冊子用、サイト用)。最終課題は、紙版・Web版2種類の報告書としてまとめる。なお、集中講義のため全日程の出席が最終課題提出の前提となる。

◆事前準備
Bb自己登録、Bb連絡情報回答、Bb教材格納の指定文献(★付き)&インバウンド関連記事【日経2019】記事読了(7月8日連絡済み)

◆授業計画

  • 【Day1 9月2日】
  • 2限:ガイダンス(教室)
  • 午後:臨地調査(銀座エリアのプレ調査) ☆14:00 銀座・和光前集合
  • ※プレ調査のミニ報告&写真をBb掲示板に投稿
  • 【Day2 9月3日(終日教室)】
  • 2限:前日プレ調査の報告 調査項目検討 調査施設と分析項目分担決め
  • 3限:項目調査マニュアル&チェックシート作成
  • 4限:項目調査マニュアル&チェックシート検討
  • 5限:項目調査マニュアル&チェックシート・翌日の調査準備
  • 【Day3 9月4日】
  • 2限~4限(臨地調査):分担に従い担当施設の臨地調査
  • 5限(教室):調査の簡単な報告 ☆16:20教室集合
  • 【Day4 9月5日(終日教室)】
  • 2限:担当施設についての調査報告発表準備
  • 3限・4限:担当施設調査報告発表(全員)
  • 5限:調査項目分析準備
  • 【Day5 9月6日(終日教室)】
  • 2限:アイテム別分析と最終課題作成
  • 3限・4限:アイテム別分析と最終課題作成
  • 5限:最終課題提出(印字版、データ版、図表データ、表紙用写真提出)
  • ※授業報告冊子&サイト版報告書は完成したらBbなどを通じて案内

1.4.参考文献

【参考文献(アルファベット順)】(★Bb格納事前読了指定文献)

バックハウス(2004)「第2章「内なる国際化」―東京都の言語サービス」河原俊昭編著『自治体の言語サービス』 : 37-53. 春風社

バックハウス(2009)「日本の言語景観の行政的背景―東京を事例として―」庄司博史・P・バックハウス・F・クルマス編著(2009)『日本の言語景観』: 145-170. 三元社

井上史雄(2001)『日本語は生き残れるか』東京 : PHP研究所

河原俊昭編著(2004)『自治体の言語サービス―多言語社会への扉をひらく―』 春風社

正井泰夫(1972) 「新宿の都市言語空間」『東京の生活地図』:152-158 時事通信社

『日本語学』28(6)(特集 多言語社会ニッポン)明治書院・2009年05月

真田信治・庄司博史(編)(2005)『事典 日本の多言語社会』岩波書店

★庄司博史・P・バックハウス・F・クルマス編著(2009)『日本の言語景観』: 三元社

多言語化現象研究会(2013)『多言語社会日本―その現状と課題―』三元社

★田中ゆかり(2009)「首都圏の多言語表示―“標準化”の観点から―」『日本語学』28(5) : 10-23

★田中ゆかり・秋山智美・上倉牧子(2007) 「ネット上の言語景観-東京圏のデパート・自治体・観光サイトから」『月刊言語』 36(7) : 74-83

★田中ゆかり・上倉牧子・秋山智美・須藤央(2007)「東京圏の言語的多様性―東京圏デパート言語景観調査から―」『社会言語科学』10(1) : 5-17

田中ゆかり・早川洋平・冨田悠・林直樹(2012)「街のなりたちと言語景観―東京・秋葉原を事例として―」『言語研究』142,日本言語学会,155-170

田中ゆかり(2014)「3種の漢字の現れ方―「お買い物」の現場・デパートから見える風景―」『HUMAN』7 監修:人間文化機構、平凡社,96-101

田中ゆかり(2015)「言語選択とその背景―東京中心部におけるデパートを中心に―」『日本学』40東国大学校日本学研究所(韓国ソウル市),109-128

中井精一・ダニエル=ロング(2011)『世界の言語景観 日本の言語景観―景色のなかのことば―』桂書房

吉田直人(2017)「公共空間における地方別言語景観」『語文』151日本大学国文学会,54-72

Landry, Rodrigue and Bourhis , Richard Y.(1997).Linguistic landscape and ethnolinguistic vitality : An empirical study. Journal of Language and Social Psychology 16(1):23-49

【雑誌特集】『日本語学 特集 経済とことば』34(6)明治書院(2015年5月号)

【参考サイト】

★日本政府観光局
http://www.jnto.go.jp/jpn/
 ※訪日外客の動向や対策

ジャパンショッピングツーリズム協会
http://jsto.or.jp/

ビジネスに活用できるインバウンドデータ一覧 日本旅行業協会
https://www.jata-net.or.jp/data/inbound/

トラベルボイス
http://www.travelvoice.jp/ 訪日旅行

★田中ゆかり担当授業報告 
/kisoen/ 銀座の言語景観調査

ページTOPへ